フランスの古代巨石文化
         Mégalithique Civilisation de France
      
      

















   Menhirs de Kerlescan
   (Carnac)
    
    石の持つ不変の絶対性や神秘性に崇敬の念を抱くのは、古今東西遍く
   共通しているらしい。
    英国ソールスベリー近郊のストーンヘンジを初めて見た時の驚きを、
   言葉で表現するのは無理というものだ。謎だらけの石のモニュメントだ
   が、何等かの目的のために、古代の「人間の手」によって造られたこと
   は事実なのだ。重機も測量機材も無い時代に、どのような方法で造られ
   たのかは解明されていない。
    フランスにも巨石文化は存在していた。壮大な規模のメンヒル列石が
   残るカルナックを筆頭に、ブルターニュからロワール、ポアトー地方に
   かけての一帯に、メンヒルとドルメンが無数に点在している。
    主要な遺跡を歩いてみたい。

         

       
       
         カルナック・ケルマリオメンヒル列石
       
Carnac (Kermario) /Menhirs Alignements

                           Morbihan (Bretagne)
       
   約3kmの長さで、3,000個余りのメンヒ
  ルの列石が、10〜13列に並んで海岸まで続
  いている様は、とてもこの世のものとは思えな
  い。ましてや、1個1個の石を、何千年も前に
  人間が立てたのであるから、ピラミッドにも匹
  敵する古代の謎である。
   メネック(Ménec)、ケルマリオ(Kermario)、
  ケルレスカン(Kerlescan)という三つの列石群
  が縦に連なっているのだが、空から見なければ
  全貌は見えない。写真はケルマリオの列石だが
  ほんの一部にすぎず、全体を想像するのは難し
  い。石の列はこの状態のまま、何と3Kmも続い
  ていたのである。
   私達はブルターニュのこの不思議ランドがす
  っかり気に入ってしまい、隅々まで歩き回った
  ものである。  

      
      
              マヌ・グロドルメン
             Mane-Groh/Dolmen

                              Morbihan
     
   カルナックの列石遺跡周辺には、他にも数多
  くのドルメンやメンヒルが集中している。
   写真のドルメンは、クリュキュノ(Crucuno)
  のドルメンから程近い森の中に在る。全体像は
  飛鳥の石舞台にとても類似しているように見え
  た。発想の貧困はいかんともし難く、その形か
  らは石舞台と同様の、古墳つまり墳墓なんだろ
  うという発想しか生まれなかった。
   写真は入口と思われる正面からの眺めである
  が、奥の部屋への通路がかなり長いのが特徴で
  ある。羨道式墳墓というものを、アイルランド
  で見た経験があるが、形式は全く同じだ。
   森閑とした樹林の中に組まれた石の示す、神
  秘的なたたずまいとその重量感が、古代からの
  メッセージの存在を感じさせるのだが、錆付い
  たアンテナでは、具体的なものは何一つ受信で
  きない。  

     
     
              ケルゼロメンヒル列石
           Kerzerho/Menhirs Alignements
 
                           Morbihan
     
   カルナックからカンペール方面へ国道165
  号線を少し走った辺りで、国道を横切るように
  して大きな石が数列並んでいるのに気が付く。
  ケルゼロのメンヒル列石である。
   カルナックに比べれば規模は小さいが、それ
  でも石の数は1100個以上有るという。
   ここでも車を止め、かなり先の方まで歩いて
  みたが、石の高さは全て3〜4mあり、近寄る
  ほどに石の示す重量感に圧倒される。
   この内の1個の石ですら、それを運び、垂直
  に立てるだけでも、想像がつかぬ程の労力を要
  求されるだろう。
   どんな人達が、どのような目的で立てたのだ
  ろうか。
   全部の石がこちらを向き、謎が解けずに困惑
  する我々を嘲笑しているかの様にも見えた。

    
     
         モワンヌ島ペンアプのドルメン
        Île aux Moinnes/Dolmen de Penhap

                            Morbihan
           
   ブルターニュのモルビアン湾に浮
  かぶ島々には、多くの伝説と遺跡が
  残されている。
   その一つここモワンヌ島にも、巨
  石文明を代表する多くの遺構が見ら
  れる。
   島の南ペンアプ集落近くの丘の上
  に、この堂々たるドルメンが在る。
  湾を望む景勝の地であり、墳墓なの
  か祭祀なのかという重大な命題に至
  る前に、石の存在そのものに感動し
  てしまっていた。
   やや崩落気味だが、二つの部屋を
  持つドルメンである。傾斜した石が
  スリリングであり、最も大きな石を
  天井に使用することから生まれる緊
  迫感がたまらない。
   一体何を意識し何を目的にして、
  古代の人々はこんな不思議な造形を
  生み出したのだろうか。   

    
     
           モワンヌ島ケリョナン列石
      Île aux Moinnes/Menhirs Alignements de Kergonan

                            Morbihan
        
   前述のドルメンから船着場へ戻る
  途中の草地の中に、この妙な石の行
  列が在る。
   環状列石にしては円形ではなく、
  かと言って直線でもない。全体はア
  ルファベットのU字形をしているの
  である。モルビアン特有の、馬蹄形
  をしたストーンサークルなのだと知
  った。
   干潮になると海底から浮かび出る
  U字列石が、どこかの島に在るそう
  なのだが、次の機会に残しておこう
  と思う。
   1m前後の石が大半だが、鋭く立
  っているので迫力が感じられる。日
  本の神社に伝わる「磐境」を思い出
  していた。この不思議な石の列も、
  或る種の「結界」をイメージして立
  てられたのだろうか。

    
     
          ガヴリニ島羨道ドルメン
         Gavrinis/Dolmen à Couloir

                        
Morbihan

       
   モルビアン湾に浮かぶこの島へは、ラルモー
  ル・バダン(Larmor-Baden)という港から出る
  ツアー船に乗らなければならない。遺跡への入
  場時間に制限があり、個人では自由に見学が出
  来ないからである。
   羨道のような通路(Passage)の付いたドルメ
  ンの上に、円墳のように小さい石が載せられた
  ケルン(Cairn)とも見える。
   しかし、この遺跡最大の特徴は、内部羨道の
  両側に立てられている壁石、その表面に彫られ
  た模様に有る。内部の高さは1.5m程だ。
   写真は入口から見て右側4、5番目の石であ
  る。石は左右併せて29個、その大半に指紋の
  ような多重渦巻模様が彫られている。
   具体的な像は一つも無く、全てが抽象的な指
  紋ばかりである。装飾なのか呪術なのか、現代
  人の鈍感なセンスからは想像もつかない。
   が、入口から差し込む光に浮き上がった模様
  の、何と美しいことだろうか。
   ガイドの目を盗んで撮った写真だが、手持ち
  にしては奇跡的に上手くいった。

      
    
     ケルヴィニャックトロア・ピエールのドルメン
       Kervignac/Dolmen de Trois Pierres

                         
Morbihan

        
   ロリアン(Lorient)の町の東方約
  10Kmにある小さな村だが、その北
  に広がる森の中にこのドルメンはひ
  っそりと立っていた。
   落ち葉を踏みしめながら入って行
  った森は鬱蒼としており、さながら
  妖精たちの遊び場のようであった。
   ドルメンとしては最もシンプルな
  構造で、石も1.3m前後と小規模
  である。しかし、不思議な雰囲気を
  持ったドルメンで、今にも石が浮き
  上がりそうな錯覚を感じるほどの軽
  快なイメージを抱かせるのである。
   このドルメンを見る限り、墳墓と
  いうよりは、何等かの呪術的なモニ
  ュメントだったと考えるのが妥当な
  ようだ。羨道や部屋のついたドルメ
  ンとは、造立の思想が異なっていた
  のではないか、と思えている。

     
     
       ロクマリアケールケルカドレのドルメン
        Locmariaquer/Dolmen de Kercadoret

                          
Morbihan
       
   モルビアン湾入口の半島に有るこ
  の町には、数多くの古代石造遺跡が
  残されている。
   このドルメンは町外れの草原に、
  淋しくポツンと立っている。道路か
  ら近いのだが、案内が全く無いので
  付近の民家で尋ねてようやく行くこ
  とが出来た。
   写真は真横から撮ったもので、右
  がコの字形の開口部になっている。
   小さく見えるが高さは1.5mは
  あり、近寄って見ると個々の石が示
  す重量感には迫力が感じられた。
   この町には、世界最大のメンヒル
  の倒壊したものや、もっと大きなド
  ルメンなどが有るが、何故かこのド
  ルメンに最も心に響くインパクトを
  感じた。古代の人々の、清冽で高潔
  なメッセージが込められているから
  なんだろうか。

     
     
        エッセロシュ・オウ・フェーのドルメン
         Essé/Dolmen de la Roche aux Fées

                      
Ille-et-Vilaine
          
   このドルメンと対面した時の衝撃
  を、どのように表現してよいか判ら
  ない。予想だにしなかった程の圧倒
  的な石の量感が、感動を通り越して
  戦慄的ですらあった。
   高さは3m以上、長さは1枚の写
  真では写せない。画面の写真には、
  全体の半分しか写っていない。
   ロワールに住む“ドルメン博士”
  と異名をとるフランス人の知人が、
  これぞ一押しと紹介してくれた、ド
  ルメン教の別格大本山である。
   内部には五つの部屋らしき区分が
  設けられており、あたかも住居らし
  き設計であるが、絶対的な“何か”
  が住む場所としての象徴なのだなと
  感じた。
   レンヌ(Rennes)の南20Km、壮
  大な原野の中に突如現れる。

     
     
          ラ・ピエール・クーヴェルトドルメン
           La Pierre Couverte/Dolmen
 
                            Maine-et-Loire
      
   ロワール河下流の町アンジェ(Angers)の北
  東に広がる、小高い丘陵の雑木林の中にこのド
  ルメンが在る。ここから至近の村ポンティーニ
  ェ(Pontigné)に在る聖ドニ教会へ、彩色され
  たロマネスク柱頭彫刻を見に来た時の寄り道で
  あった。
   四方に石を立てて壁とし、上に屋根を載せた
  ドルメンである。石は扁平に見えるが、近くで
  見れば厚さは50cm以上あり、簡単に動かせる
  ような代物ではない。
   大方のドルメンが入口と奥の部屋を備えてお
  り、奥の空間は荘厳された形式となっているの
  で、墓室もしくは宗教的な祭祀の中心であった
  と考えるのが最も妥当だと思える。
   それにしても、どのような権力あるいは中心
  的存在が有ったのか、というテーマに興味は尽
  きない。   

     
     
           メトレイ妖精の洞窟のドルメン
       
  Mettray/Dolmen de la Grotte des Fées

                              Indre-et-Loire
      
   ロワール河畔の町トゥール(Tours)に滞在
  していた或る日、何気なく見ていた国土地理
  院発行の地図で、このドルメンの存在を知っ
  た。その不思議な名前に惹かれて、すぐに出
  かけたことは言うまでもない。
   トゥールの町の北方数キロにある郊外の村
  外れで、その森は畑の中の村の鎮守といった
  風情だった。
   傾斜して立てられた壁石に比べ、天井の石
  は豪壮な大石である。祭室というよりも、全
  体が天井の低い羨道のようで、妖精の洞窟と
  は言い得て妙な命名だなあ、と感心した。
   妖精が舞い遊ぶに相応しい雰囲気が漂って
  おり、古代より何等かの神霊的存在を予感さ
  せるような場所だったに違いない。
   特に、霧に包まれたロワール河流域の雰囲
  気は、正にそのような世界に近いと思う。

    
    
           ラ・バジュリエールドルメン
            
La Bajoulière/Dolmen

                            Maine-et-Loire
     
   同じロワール河流域に在るドルメンでも、こ
  れは先出の二つとは河を挟んで反対側の岸に位
  置している。
   アンジェの町からロワ−ル河を南岸沿いに、
  ソミュール(Saumur)方面を目指して走ると、壊
  れそうになったままの、小さく Dolmen と書か
  れた看板がかろうじて見つかった。こんなもの
  を見て歩く人は滅多にいないのだろうか。
   雑木林を抜けた丘の上の開けた草原に、この
  奇妙なドルメンが在った。
   まるで鰻の寝床みたいに細長く見えるが、や
  はり入口から羨道が祭室へと続いている。床の
  部分は掘り下げられているので、天井は高く内
  部は案外広い。
   明るい雰囲気が、古代の石のモニュメントと
  いうイメージを忘れさせ、あたかも野外美術館
  に置かれたかのような前衛彫刻を想わせた。  

     
     
             ガルド・エペードルメン
             
Garde-Epée/Dolmen

                             Charente
     
   このドルメンはポアティエの南、シャラント
  県の首都アングレーム(Angoulème)の町の西に
  在る。ブランデーで有名なコニャック(Cognac)
  の町から近い。
   シャラント河流域の平坦な耕地の真ん中に、
  孤高な雰囲気でポツンと立つドルメンの姿は異
  様だった。かつてこの場所がどのような聖域で
  あったのかを想像するには、葡萄畑に囲まれた
  この風景は余りにも牧歌的すぎるのだ。
   羨道は無く、ストーンサークルのような円形
  状に並べられた立石の上に、厚く大きな平石が
  載せられている。高さは2m程で小さく見える
  が、傍に寄って見ればやはりかなりの巨石群な
  のであった。
   石にいったい何を感じて、古代の人達はこの
  ような建造物を造り続けたのであろうか。
   写真は82年の正月に、この地方のロマネス
  クを探訪した際のものである。

    
     
       アヴリエフレブシェールのドルメン
       Avrillé/Dolmen de la Frébouchère

                         
Vendée

     
    ポアティエ市(Poitiers)の西北、ナン
  ト市(Nantes)の南に位置するヴァンデー
  地方を旅したことがある。ロマネスクの
  サイトにその報告があるが、知られざる
  歴史と文化の宝庫なのである。
   アヴリエは県庁所在地ラ・ロシュ・シ
  ュル・ヨン(La Roche-sur-Yon)の南、
  大西洋岸に近い所にある田舎町である。
   周辺は古代石造文化遺構の密集地で、
  ドルメンやメンヒルをあちこちで見るこ
  とが出来る。
   このドルメンはその中では最も著名な
  もので、堂々とした美しい姿を今日でも
  見る事が出来る。
   ここでも羨道のような通路や、部屋の
  ような間仕切りが少しだけ見える。天井
  の石は一枚岩の豪壮なもので、どうやっ
  て運搬し、どうやって載せたのかを考え
  ると、永久に眠れなくなりそうである。

     
      
        アヴリエサヴァトールのドルメン群
          Avrillé/Dolmens de Savatole

                          
Vendée

       
   前述のドルメンから比較的近い
  雑木林に、三つのドルメンが群立
  する場所がある。森の中、小道に
  面した所、そしてこの畑の中、の
  三箇所である。
   いずれも規模は小さいが、個性
  的なものばかりである。中でも写
  真の、少し崩壊したこの畑のドル
  メンが気に入ってしまった。
   崩れた石は命を失っているが、
  残った石組の風情がとても良い。
  崩落し風化し、朽ち果てていく運
  命を予感させるからである。
   穏やかで静寂な時間の流れが感
  じられて幸せだったが、現実的な
  欲望は時間を無視する。
   私達は海岸の港町ル・サーブル
  へと、名物の牡蠣料理を食べるた
  めに踵を返したのだった。   

 次へ 前へ ロマネスクTOPへ 日本庭園TOPへ 石造美術TOPへ 総合TOPへ 掲示板へ