藤次郎夜話「光る同乗者」  この話は、前回の藤次郎夜話「光る木立」と同じ頃の話です。  その日、兄は嫌がる私をまた助手席に乗せ、筑波山の麓にある農道で兄達がやっ ているアマチュアラリーチーム内のラリー大会に連れていきました。  私は、従兄の友人の車に同乗し、コースの途中に居て、通過する車の通過時間を 書き込んだカードを手渡す作業をしていました。  やがてその日の競技も無事終了し、スタート地点からやって来た従兄の車の後に ついて集合場所のドライブインに向かいました。  その途中でのことです。  運転席の従兄の友人が私に話しかけてきました。  「ねぇ、前の**さん(従兄の名前)の車、変じゃない?」  「えっ?」  私は不思議に思って前を走っている従兄の車を見ましたが、私の目には前を走っ ている従兄の車に別段異常が見られませんでした。  「いえ、何も…」 と言うと、  「そっそう?助手席に何か見えない?」 と言うので、不思議に思いつつも、注意して助手席を見ましたが何もありません。  「いいえ?」 と、私が言うと、それっきり従兄の友人は黙ってしまいました。  ドライブインでのその日の結果発表と表彰式が行われた後、食事をして解散しま した。  帰りの車の中で、私が兄にさっきの話をすると。  「ああ…あいつも見たのか…」 と素っ気なく言いました。  「で、お前も見たのか?」 と私に聞かれ、  「なにも…別段いつもと変わらなかったし…」 と答えると、兄は  「あれは、運転している人間から見えて、助手席にいる人間には見えないことが よくあるからなぁ」 と言いました。  「あいつ(従兄)は霊を乗せて走っているからなぁ…」 と言葉を続けました。  ここで初めて、私は従兄の友人や兄が言っているのは、従兄の車の調子ではなく、 従兄の車の助手席に乗っている物について言っているというのが理解できました。  兄の言うことには、従兄が一人で車に乗っていると(車種を選ばず)、それは必 ず助手席にいるそうで、後ろから見ると運転席側の人には見えるが、助手席や後部 座席の人間には見えないことがあったり、前を走っていてルームミラー越しに従兄 の運転する車を見ると、助手席に居るのが見えるが、振り返ると助手席には居なか ったりするのです。(その後、私も車の免許を取り、従兄の車の後ろを付いて走っ たことがありますが、私には何も見えませんでした)  聞くと、親戚は殆どみんな知っていて、当の従兄も知っていて笑われてしまいま した。  …で、その正体とは…  なんと、従兄の背後霊でしてその人は私も小さい頃遊んでもらったことがある遠 縁の親戚だそうです。  この遠縁の親戚の人は、交通事故で亡くなって以来、何かと従兄や叔母達の夢枕 に出てきては、従兄に迫ってくる危機を伝え、助けてくれるそうです。でも、従兄 が結婚してからはそういった話を聞いていません。 藤次郎