藤次郎夜話「大学の怪談」  今から数十年ほど前、当時某大学工学部の4年生だった私は、卒業研究に勤しん でいまして、帰宅時刻が夜中になることもしばしばありました。  その日も、相方と夜遅くまで研究をしていて、相方と同じ研究室の友人数人と今 日はこれまでと、作業を切り上げて研究室を後にしました。  正門に向かって歩いている途中で、守衛さんに足止めをされました。  守衛さんに学生証と今まで残っていた訳を話すと、守衛さんは了解してくれて、  「今、正門は取り込んでいるので、すまないけど、別の通用門から外に出てくれ ませんか」 と、言いました。  不思議に思った相方が訪ねると、守衛さんは次のようなことを話しました。  「*号館で先ほど飛び降り自殺があった。自殺者は近所にある精神病院の患者で、 それが数人脱走し、その内の一人が*号館の屋上から飛び降り自殺したとの事…残 りの脱走者は、今警察と大学の警備員が探しているが、付近に潜伏している可能性 が高いので、気をつけて帰るように」 と、言う内容でした。  翌日、脱走した患者は自殺した一人を除いて保護されたと聞きました。  その日、いつものように暗室に籠もって作業をしていると、相方がこの大学にま つわる怪談を話してくれました…  昨日飛び降り自殺があった*号館と言うのは、何でも自殺の名所だそうで(当時、 この付近で高い建物は、*号館と○館の鉄塔)、過去何度も飛び降り自殺があっ たそうです。  その後、*号館の壁には血の色をしたシミが点々と浮き上がったり、*号館のエ レベータに乗っていると白いもやのような物が通過したり、人の悲鳴のような声が 聞こえたりしたそうです。  また、トイレの鏡に人影が映るようになったりして、*号館のトイレの鏡をはず してしまったと言う過去があるそうです。(当時工学部の学生であった私は、それ までに*号館を使用したことがなかったので、知りませんでしたが、後日、期末テ ストで*号館に行った時、本当に鏡が外されていたのを確認しました)  話はこれだけに止まらず、かつては学生食堂と言う物は、今のような食堂棟とし て別棟になく、○号館の地下にあったそうです。  そこで、ある日首吊り自殺があったそうです。  以来、そこの蛍光灯の寿命がやたら短くなり、暗くなった食堂でしはしば幽霊が 目撃されるようになったことから、1号館の地下の食堂は閉鎖されたそうです。  また、おもしろい話も聞きました。  それは、各館の間には○号館を基点とする地下通路が走っているそうです。  どうしてかというと、学生運動が活発だった頃、学生に襲われた教授達がその地 下道を通って○号館に避難し、*号館の屋上からヘリコプターで逃げ出すための通 路だったそうです。 藤次郎