藤次郎夜話「供養して下さい」  私の学生時代の先生に実家がお寺という先生がいまして、その先生もお坊さんだ ったりします。  その先生から幾つか授業中に怪談話を聴きましたが、今では殆ど忘れてしまいま した。  幾つか覚えている内の一つをいたしましょう…  その先生が実家に帰っていたときのことです。そのときはお盆だったか、彼岸だ ったか忘れましたが、実家は大忙しの状態で、先生も実家の手伝いをしていたそう です。  先生の実家はかなりの田舎だそうで、隣村に行くと言っても、スクーターでかな りの時間走った所にあるそうです。  先生は、実家に帰るたびに、自分の実家のある村の外を回り、檀家の家に泊めて もらいながら村々を回り、お経を読むと言ったことをしていたそうです。  その日もある村について読経を挙げると、今日はもう遅いとのことでこの村の檀 家の家にに泊めてもらうことにしました。  その晩は檀家の家でお酒を飲んで、酔った先生は酔をさましに家を出て村はずれ までぶらぶら歩いていったそうです。  村はずれまで来た先生は、村はずれにある高い木が妙に光っているのを見つけた そうです。  その光かたが、モズが木に差したはやにえのような光で(著者注:私は見たこと 在りませんが、先生がそう言っていました)、それが木全体に渡っていたそうです。  最初、その光景に驚いて村に帰ろうと思ったそうですが、なぜか気になり、勇気 を出して木に近づいたそうです。そして木を見上げました。  …すると…  突然、先生の目に冷たい物が落ちてきました。  慌てて後ずさりして顔を拭うと、それは液体でした。  しかし、なにやら臭う…  もう一度木を見上げると、そこには白い物が二本ぶら下がっていました…  その上は木の陰になってよく見えなかったのですが、目を凝らしてよく見ると、 どうやらそれは人間の様でした。  職業柄死体を見慣れた先生は、咄嗟に「首吊りだ」と思ったそうです。  そして、慌てて村に走っていきました。 (著者注:先生の友人によりますと、本当は、腰が抜けて這って村に帰ったという のが事実らしいです。先生にかかった液体は、小便だそうです)  村から数人の男達を連れて、村はずれの木に戻ってきた先生は、村の人達の協力 で、木にぶら下がっている物を降ろしました。  それは、まさしく首吊り死体で、仏さんは若い綺麗な女性でしたが、体中の体液 が垂れ流しになっていて、見るも無惨な状態だったそうです。  その場で簡単なお経を読み、死体を村の駐在に預けると、先生は取りあえず実家 に帰ったそうです。  …数日後、警察での検屍が終わったので、葬儀をしたいとの仏さんの遺族からの 電話があったので、翌日行くことにしました。  その晩…  本堂で変な物音がするので行ってみると、そこには、白装束の女性がポツンと座 っていたそうです。  その顔が先生の方にゆっくり向くと、それははたして先日の首吊りをした女性だ ったそうです。  女性は、先生の顔を見て暫く黙っていたそうです。  そして、当の先生は、金縛りにあって動けなかったそうです。  暫くして、女性は口を開きました。  「お坊さん、私の供養をしていただき有り難うございます。しかし、お坊さんの お経が酒臭くて、私は成仏ができません。ちゃんと供養していただけませんでしょ うか?」 と、言ったそうです。  そこで金縛りが解けた先生は、「冗談じゃないよ…」と思いつつも、ちゃんとお 経を読んで挙げると、その女性は満足したのか、スーーッと消えていったそうです。 藤次郎