藤次郎夜話「幽霊下宿」  私が下宿していたときの話です。  下宿の先輩に麻雀の面子が足りないのとの理由で無理矢理引っ張られてきた部屋 は、この下宿では一番大きい六畳の部屋で、そこの住人は、この下宿の主と言える 人の部屋でした。  その部屋にはなぜか入り口の反対側の壁にもドアがあり、そのドアは板で塞がれ た上にお札が貼って在りました。  その部屋は2階で、そのドアの外にはなにもありませんでした。  そのドアとお札が気になって、私は下宿の先輩にこのことについて聞きました。  下宿の先輩が言うには、このドアはかつてこの外に物干しがあり、下宿の人達が 使用していました。また、この部屋は食堂だったそうです。しかし、ある事件を発 端に物干し取り除き、ドアを塞いだとのことです。  …その事件とは…  私が当時の居た下宿は、裏手にある神社の参道の入り口に在りました。その参道 の道を挟んで大家の家があり、ここから神社までは家一軒も今は在りません。                        ^^^^^^  …そう、今は…  しかし、私の居た下宿の裏の神社の鳥居の横にある竹藪の奥には廃墟があり、か つては人が住んでいました。  その廃墟は、この下宿の大家が経営していた女子専用の下宿だったそうです。  当時は竹もそんなに生い茂ってなく、かなり日当たりがよく明るくて、この下宿 はかなり賑わっていたそうです。  自然、私の居た下宿の男どもとも交流が多く、かなり行き来が在ったそうです。  ある年、この下宿で自殺騒ぎがありました…原因は、私の居た下宿の男との痴情 のもつれからの自殺でした。  それ以来、この下宿では毎夜その女のすすり泣く声や、便所の鏡にその女が映っ たり、人魂が出たりして大変な事になったそうです。  そのため、下宿にいた女性は一人減り二人減りして、終いには誰もいなくなって しまったそうです。  そのため、この下宿は”幽霊下宿”と、近所で有名になってしまったため、部屋 の借り手が無くなり、とうとう閉鎖してしまったそうです。  一方、男の方は、それから直ぐに大学を卒業し、下宿を出ていってしまいました。  …数年後、下宿をその男がふと立ち寄りました…  かつての下宿人は今の下宿人に夜通し歓待されるのが、この下宿の通例でして、 しこたま酒を呑まされた男は、酔いざましに物干しに出たそうです。  そのとき、物干しの土台が崩れて男は物干しごと地面に転落して大怪我を負った そうです。  警察の調べでは、土台が腐っていたとのことですが、その男は  「人魂を見た!」 と、叫んでいたそうです。  それ以来、下宿の大家は物干しのドアを塞ぎ、裏の下宿をお払いしたそうです。  その後、幽霊騒ぎは聴いていないとの先輩の話です。 藤次郎