藤次郎夜話「井戸神の祟り」  私が下宿していたときの話です。  私が当時の居た部屋は建物の二階の入り口から入って二番目の部屋でした。  私の隣の部屋…つまり入り口から入ってすぐの部屋に、私と同じ大学に通う同期 の人が住んでいて、よくその部屋遊びに行って、その人の部屋にあるオーディオで 音楽を聴きながら、コーヒーを飲んでいました。  ある日、部屋の隅にある押入の柱にお札が貼って在るのに気がつきました。  そのときはなにも思わなかったのですが、別の日にその人の部屋の真下にある部 屋に入る新入りの引っ越しを手伝いに行ったとき、やはり押入の柱に同じお札が貼 って在るのを見ました。  一寸気になったので、引っ越しの指揮を執っていた下宿の大家の奥さんに尋ねる と、  「これは”井戸神様”を奉ったお札だ」 と言いました。  私は当時”井戸神様”と言う物を知らなかったので、  「この地方の神様ですか?」 と聞くと、  「井戸に住む神様だ」 と言いました。  そして、こんな話をしてくれました。  この下宿を建てるに当たって、以前の家屋を壊して、敷地にある井戸を埋めたそ うです。  その井戸を埋めて暫くすると、大家が原因不明の足の病気に架かったそうです。  日増しに足が悪くなり、歩けなくなって寝たきりの生活になってしまったそうで す。  そのとき、下宿の裏にある神社にお払いに来た神主にその話をすると、  「それは”井戸神様”の祟りですから、今すぐ埋めた井戸を掘り返しなさい」 と言ったそうです。  でも、井戸はとおの昔に下宿の建物の下です。そのことを神主に言うと、  「完全に掘り返さなくても良い、管を通して”井戸神様”が息をできるようにす れば良い」 と言ったので、その通りにすると、大家の足はみるみる回復したそうです。  その井戸が在ったのが、この部屋の押入の下だという事も教えてもらいました。  …そして、現代…  実家に帰って来た私は、社会人になりようやく車を持つ身分にまでになりました。  ある日、駐車場に行ってみると駐車場の地主が業者を使って駐車場の一カ所を掘 っていました。  そして数日後、近所の氏神の神主を招いてお払いしていました。  その掘り返していた場所には汲み上げ式の井戸ができました。  帰ってその事を母に話すと、その地主はここ数年寝たり起きたりする生活を続け ていたそうで、あまり外出もできないほど弱っていたそうです。  私が井戸の事を言うと、母は昔そこに井戸があったのを見た覚えがある。と言っ ていました。  今では、地主も1キロ離れた大学病院まで歩いていけるほどに元気になっていま す。  また以前、その井戸の真上に駐車していた人の車は、斜め向かいの車が駐車する 際にぶつけられて損傷していました。 藤次郎