藤次郎夜話「火の玉話」  前回に引き続き、母の火の玉話をしましょう…  母の子供の頃、家の風呂が壊れたため、一時期近所にある本家の風呂を借りてい た時の話だそうです。  母の実家は、母の子供の頃には辺り一面田畑が広がっていて、染め物などの産業 が盛んな農村地帯だったそうです。ですから、近所と言っても母の実家と本家の間 はかなりあって、私も子供の頃はよく、母や兄達に手を引かれて行ったことが事が ありますが、子供の足では結構距離があり、また、夜は寂しいところでした。  本家の風呂に入りに母はよく祖母と一緒に行ったそうです。  その祖母は、近道のために昼なお暗い藪を通って行ったそうです。  幼い母はそれが怖くて藪を通るときには目を瞑って祖母の腕にしがみついて藪を 抜けたそうです。  ある日のこと、いつものように目を瞑って祖母の腕にしがみつき、藪の中を歩い ていると祖母が立ち止まったそうです。  「アッ!」と言う祖母の驚きの声に、母が目を開けると、藪の中の切れ間から大 きな火の玉が見えたそうです。  その火の玉が目の前にある染物屋の煙突に「ドスン」と言う音と共に落ちたそう です。  その光景に驚いて、祖母は咄嗟に母を小脇に抱きかかえるとそのまま、本家の方 に一目散に走っていったそうです。  本家に駆け込むなり、祖母が本家の人に今見た光景を話すと、本家の人は、  「…それじゃ、なにか不幸が起こるのではないか?」 と、祖母と顔を寄せあって話していました。  その日は不安のまま、風呂に入って怖いので本家の人に送って貰いましたが、数 年後、その染物屋は潰れてしまったそうです…  このような現象は、物の本によりますと、”金の神様”と”鬼火”の二つがあり まして、”金の神様”が家に飛び込んでくるとその家はお金持ちになりますが、 ”鬼火”だと、不幸になるそうで、母の目撃したケースは後者の方みたいです。 藤次郎 P.S.前回の話で、母が若い頃の火の玉の目撃談は、母が女学校の頃ではなくて、 OL時代のことだそうです。 そして、またあの話には追加がありまして、母の目撃した時刻の前に、会 社帰りの叔父が自転車を乗っていると火の玉がまとわりついてきてひきそ うになったそうです。