藤次郎夜話「あれは…誰だったのだろう?」  これは、私が友人に聞いた話しです。  今から数十年前の事、当時私は九州で防人…もとい!大学生生活を送っていまし た。  ある初夏の日の事、いつものように大学に行くと、友人が蒼い顔をして具合が悪 そうな顔をしていました。  私「おい、どうした?また二日酔いか?」  友人「…ん?ああ…」  私「どうせ、徹夜で呑んでいたんだろう?」  友人「…ううっ、御名答!」  私「胃腸薬持っているから、やろうか?」  友人「すまねぇ…」  などと、問答をやっているうちに、昨晩の事について聞くことが出来ました。  昨晩、彼の下宿中の人間が彼の部屋に集まり宴会になったそうです。  理由は、よく覚えていませんが、彼の下宿は学生でも有名な”宴会下宿(?)”で、 すぐ下宿中の人間が一部屋に集まり、宴会を始めてしまいます。  まあ、私のいた下宿でも誰かが酒と肴を手に入れたら、下宿の人間が何人か部屋 に集まり飲み会になったものです。  その宴会も最高潮を迎えた頃、彼の部屋の窓の外を人影が横切ったのです。その 時、窓はカーテンを閉めてあったので、人相までは解りませんでしたが…  そこにいた人達の多くはそれを見ましたが、みんな酔っていたので、「誰かが、 買い出しにでも行ったのだろう…」程度としか思っていませんでした。  しかし、宴会が終わる頃、その買い出しに行った人が戻った気配がないのでみん な不思議がりましたが、酔っていたので、深く考えなかったそうです。  翌日、二日酔いの頭を抱えた彼は、どうも夕べの人影が気になって、下宿の何人 かの人に聞きましたが、結局解らずじまいでした。  その話しを、聞いていた別の友人。  「お前の部屋、たしか2階だったよ…な?」  その言葉に、私と友人は、  「…そういえば…」  と、彼の下宿の風景を思い出しました・・・  彼の下宿は、回り四方が全部田畑で、2階の彼の部屋の窓の外を人影がよぎるは ずがないのです。  そのあと、友人の蒼い顔が、いっそう蒼くなったのは、言うまでもありません。 藤次郎