ブック・「悉皆屋康吉」


  コメント:とんとん 2003年 3月
 悉皆屋とは、大正から昭和の初め頃、着物や羽織の染め模様、無地の染め上げ、または染め直しなどを請け負っていた職業だそうです。現代は、耳にしない職業ですね。
今風に言えばファッションコーディネーター、着物便利屋の康吉の半生を描いた物語です。
一定の枠に収まらず、常に新しい「染め」を考案して商売を繁盛させ、激動の時代を生き抜いた男。職人気質を忘れず、悉皆屋の職業に誇りを持ち続けた康吉。
今はあまりはやらない、「地味でまじめな男」。平成の時代、あの男達は、どこへ消えてしまったのでしょう。
 私が、「悉皆屋康吉」に最初に触れたのは、原作の小説でなく、NHK厚生文化のテープ図書でした。
日曜名作座のテープで、出演は森繁久弥と加藤道子で、ラジオドラマの構成です。たった二人で、老若男女、あらゆる人物の喜怒哀楽を声で表現していました。
森繁久弥は、主人公の康吉、偏屈番頭の伊助、ボケ始めた悉皆屋の旦那様と声を使い分け、
加藤道子は、おとなしそうだけどわがままなお嬢様のおきた、ヒステリーな前の勤め先の奥さん、駆け引きのうまい年増女と、それこそ出演者が数十人いるのではと思うほど様々な声でした。
私は、すっかり声の微妙さに聞き惚れてしまいました。
その後、ないーぶネットでこの本を検索しましたら、NHK厚生文化のテープ巻数は3巻で、原作は5巻とありましたので、原作の音訳も聞いてみました。
そしたらね、随分感じが違うのですよ。小説の内容は同じなのですが、どこか違うのです。
同じ材料で料理しても、火加減や味付けで、違うメニューになるように、どちらもおいしいのですが、口当たりが違いました。
最初に聞いた森繁久弥と加藤道子の声で、私の中に、登場人物のイメージが出来てしまっていたのです。
原作の音訳は、文章を忠実に読んでいますので、自分の想像力で、人物のイメージを完成出来ます。
同じ小説を、活字に忠実な音訳と、声優による音訳で、二度楽しめたわけです。 この上、点字で読めたら、三度楽しめますね。
これらの違いを、ご自分で確かめてみるのもおもしろいでしょう。
 優れた文学賞を受賞した小説が、その後映像化されますが、私は、その映画やテレビを見ながら「ここは原作と違う!」などとつい批判口調になります。
でも、脚本化された作品は、本とは違うものと思った方がいいのでしょう。

コメント:バーボン 2003年 4月
 すずらんHPの、「悉皆屋康吉」のページを読みました。
私の実家、十日町といえば「雪と着物の十日町」ってキャッチフレーズで、あかしちぢみ、十日町こうたの大ヒットで一躍全国区になって、私が子供の頃は、全国各地から機織にオネーさん達が就職して沢山あつまって、女性が集まる町に男達が群がって、男が群がると、やくざの仕切りやが集まって、着物産業も町の活気も当時は華やかでした。
ところが今では、きものが廃れてバブルがはじけて倒産と失業者の町になってしまいました。
私の父も染物職人でした。私がこの世で一番尊敬する人も、染物職人でした。もうどちらもこの世にはいませんけどね。
二人とも染料が手に染み付いていて、どんなに洗っても、もう落ちません。いつも真っ青な手のひらをしてました。
子供の頃は汚い手だと思ったけど、大人になった今、それが職人の勲章、石頭の意地の照明のような気がします。
 そんなこともあって、悉皆屋の話、何となく身近なお話のような気がしました。
職種は違うけど、自分も技術の仕事なので、自分の手と指と技術にはプライドを持たないとね。

☆☆☆ないーぶネットの詳細情報
書名:「悉皆屋康吉」(しっかいや こうきち)
著者名:舟橋聖一(ふなばし せいいち)
出版社:文芸春秋 1998年01月
テープ図書のみあり。テープ巻数3〜5巻。

これで、悉皆屋康吉のページを終わります。


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