報告:2005新潟ロービジョン研究会


安藤@新潟です。

平成17年8月7日(日)に行われた新潟ロービジョン研究会2005の報告です。
 場所:有壬記念館(新潟大学医学部)
 今回の研究会には、新潟県内はもとより、東京都・大阪府・兵庫県・和歌山県・愛知県・岐阜県・千葉県・埼玉県・神奈川県・岩手県・山形県・福島県・富山県から、会場の定員をオーバーする220名を超す参加がありました。演題が多く、論点も盛り沢山であったため、一度に多くの経験が出来たというメリットもありましたが、時間が足りない、議論が尽くせないという点が反省でした。
 今年の新潟ロービジョン研究会を振り返ってみます。
特別講演
小田 浩一(東京女子大学) 「ロービジョンと読書」 

 読書速度を測定するMN-READの開発者による臨床例での経験。視力や視野はあくまでも視機能の一部を評価したものであるが、MN-READは視力検査表のランドルト氏環の代わりに文章を印刷したような検査表で、正しく読める最小の文字(視力)を調べるのでなく、流暢に読める最小の文字(臨界文字サイズ)や患者さんの読み能力の基準値(最大読書速度)を調べられるところに味噌がある。臨界文字サイズは、個々のロービジョンの患者さんに適した拡大のサイズやルーペの倍率に対応するので、ロービジョンケアには重要な値になる。
 今回は、加齢黄斑変性の患者さんのデータをもとに、大きな指標を見た場合と小さな指標を見た場合で、使用される網膜の部位が異なること、それにより異なった読書速度が得られることを見出した。
清水 美知子(歩行訓練士) 「型にはめない対応を」 
 医療福祉専門職は、相談者にさまざまなレッテルを貼ってしまいがち。‘障害者’という枠にはめてしまっていることに気づかない。一方、相談者も社会の偏見や固定観念の中にいる自分に気づかず悩み苦しんでいる。日本のリハビリテーションでは、自分自身の中から生じる「自己受容」だけを障害受容としてとらえているが、リハビリテーション心理学では、他人から負わせられる「社会受容」も併せて障害受容として捉えている。
 目の前にいる障害を持つ相談者を、型にはめず、一人の生活者としてとらえることが大切。その人が語る言葉(生活における物語)に耳を傾け、不自由をどう感じているか、理解しているかを考えて、そこから専門性を生かして相談者が真の自分を出せるように支援していくことが重要。障害者を取り巻く環境は大きく変化している。専門家の意識も変わっていかないとならない。
 医師・ORTへ一言 治療する術が無くなった障害者のことを怖がらないで欲しい。障害者は、日々生きている人、これからもずっと長く生きて行かねばならない人々である。一時的ないたわり・優しさではなく、死ぬまで優しさを持って欲しい。そうしなければ援助は出来ない。
*「社会受容」〜南雲直二
参照:第91回済生会新潟第二病院眼科勉強会(平成15年12月10日;講師〜遁所直樹)
http://www5e.biglobe.ne.jp/~tonton20/saisei.html
松村 美代(関西医大眼科) 「眼科医の悩み」
 眼科医の私は、患者さんの視機能を改善または維持するというのが努めなので、どんなにわずかな機能であっても1日でも2日でも長くもたせる、光覚よりは手動弁、手動弁よりは指数弁、というように若い頃は考えていたが、多くの患者さんと出会ううちに、そうとも言えないということに気づいた。状況が変動しているより悪くても状態が安定している、つまり変化がないという状況の方が患者さんの心は落ち着いている。  
 時に医師に人生相談を求める患者さんもいるが、医師が説明する内容としては科学的な説明に終始すべきで、人生相談を医者に求めるのはお門違いであることを患者さんに分かって貰いたい。
疾病が重篤で手術しても残る視機能があまり小さいことが予測される場合、視機能の延命より、気持ちを切り替えて、いつ失明しても暮らせるように準備する方向へ変換する方が幸せなのではないかと思う。  ロービジョンケアの基本は、人間としての信頼関係である。
シンポジウム 「患者の気持ち、医者の心をお互いに聴く」
司会:小野沢 裕子(フリーアナウンサー)
 松村 美代(関西医大) 完全な人はいない。どうして私だけがと考えないで欲しい。
 清水 美知子(歩行訓練士) 当事者も、医療関係者もお互いにぶつかり合うことが大事。
 伊藤 文子(新潟市) ハンディを負ったことで、心を病んでしまう。それまで出来ていたことも、全て失ってしまうような感覚に陥ってしまう。そうならないためにも、医療サイドが・家族・他の当事者が、共に行えるそんな環境が、整えられれば、一人の人間としての価値を見出せるのではないか。見えても、出来ないことも、あるし、見えなくても、出来ることもある。
 内山 博貴(介護福祉士) 私はケガにより左目の視力が低下し視野が欠けた。最初は、この世の終わりが来たかと思った。何もできなくなるかと思った。しかし、このケガは絶望を与えるだけだけでなく、私に多くの事を考えさせ、学ばせてくれた。前をみて生きた方が楽しい。今できることを考えて、挑戦する!その気持ちがケガを忘れさせてくれる。なんでもプラスに考えた方が、自分だけではなく、実はまわりにもプラスになっていると私は思う。
 大音 清香(日本眼科看護研究会理事長) 今年3月中旬、自分自身の目に異常を感じて眼科受診。初めて眼科患者となり、患者様の不安な思いと今後の視力維持するための予防の大切を実感。患者様への配慮がいかに大切かを患者体験をもとに、医療従事者と患者の関係に問題を提起。
 福下 公子(眼科医、遺伝相談医師カウンセラー) 障害者福祉は身近な地域において市民・医療・行政が一体となって支援を行うべきもので、障害者とその家族が孤立しないための共生の場を提供しようという目的で、福祉行政にかかわる区職員と「烏山アイライフ講座」を2000年にたちあげた。人である以上、悩みを持つのは当たり前。患者と共に悩む医者でありたい。
 安藤 伸朗(眼科勤務医) 「病気」を持つ人が医療機関を受診される理由は、「病気を治す」ことだけだろうか?日常生活を行ないたい、職業に就きたい、精神的な安定を得たい等々、様々な要求や不満がある。医療に携わる者は、「病気」が治療困難な場合には、これらの患者さんの要求に応えるような配慮、方策を考えなければならないと感じ、ロービジョンケアに関心を抱くようになった。思い遣ることがロービジョンケアの、いや医療の原点。
 患者さんの悩みを医者が聴くというのは当たり前。でも医者の悩みを患者さんに聞いてもらうシンポジウムは初めてではないだろうか?時間が足りなかった、あまりにもきれいごとばかりに終止し、現状の問題が見えにくくなってしまったことなど反省点もあった。医師だけでサポートできない問題を、障害のある人の側のエンパワメントに期待して、彼ら自身の社会への活動を活発にケアへ組み込んで行く方向で、今後もこのテーマを追求していきたい。 今後に期待して下さい。
便利グッズ紹介
田村 めぐみ(眼科医;東大眼科ロービジョン外来)

 癌研究会有明病院という癌専門病院に勤務。癌と宣告され、見えにくくなったらどうする?あらゆる治療をしながら、ロービジョンケアをうけ、視力が低下しても残された感覚・器官を最大限に利用し前向きに生きたいーそう考え、ロービジョンケアを開始した。医師がここまで生活レベルの支援を考えていることに感動という意見が寄せられた。
林 豊彦(新潟大学工学部大学院)
 障害者向けのIT機器の発展は目ざましいが、その技術を肝心な障害者へ伝達する方法が今まで未熟であったことを問題点として取りあげ、そのシステムの構築を行っている。産学一体の他にも他の協力、とりわけ地域のネットワーク作りが必要。
岩崎深雪(新潟市岩室温泉)
 携帯電話ナビゲーション(auのEZナビウォーク)の紹介。この機能は現在auのみ。実際の視覚障害者によるグッズ紹介なので、商品そのものよりもそれを用いたご本人の喜びの声が聞けて感動したという声が多数寄せられた。
アンケートから
 パワーポイントを使用した発表に、視覚障害者の方から判りにくかったという多くのご意見を頂いた。今後の課題。
器機展示
 「人間支援科学教育研究センター」(新潟大学工学部)、東海光学、タイムズコーポレーション、ナイツ、はんだや、大活字、新潟眼鏡院
展示機器について説明と、問い合せ先をプリントで配布。
会場にて、展示担当者より一言アピール。

8月初めの暑い一日、熱心に討論に参加された皆様に感謝致します。多くの収穫と共に、問題点も多々指摘されました。来年も開催予定です。ご要望をお寄せ下さい。

連絡先
950-1104 新潟市寺地280-7
済生会新潟第二病院眼科
安藤 伸朗  Noburo Ando,MD
phone 025-233-6161
Fax  025-233-6220
e-mail gankando@sweet.ocn.ne.jp

これで2005新潟ロービジョン研究会の報告のページを終わります。


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