講演ー1
○熱帯地方に適した低コスト下水処理の方向
             国土技術政策総合研究所 下水道研究部 下水処理研究室長 中島英一郎氏
・国土技術総合研究所ミッションの1つに「国際貢献の推進」があり、熱帯地方に適した低コストの下水処理のあり方について研究を行っている。

「熱帯地方の特徴」
・熱帯地方は、おおむね南北回帰線に挟まれた地域。 平均気温は、20℃以上で年変化は小さい。一方、降水量は2000mm以上の熱帯雨林地域と250mm以下の乾燥地域に大別される。
・熱帯地方に属する東南・南・中東アジア、アフリカ(サハラ以南)、中・南米は、陸地面積の45%2001年の人口は53%(33億人)を占める
・特に、東南・南アジア、アフリカ地域の1人あたりのGNPは、638ドル、衛生施設の利用可能人口は約5割と貧困と不衛生な状況になっている。
・こうした状況は、その地域だけの問題ではなく地球温暖化や酸性雨にも影響を与えている。
・JICAの下水道料金資料や日本の所得、処理料金から単純に試算すると熱帯地方ではGNP等から考えて4円/m3程度でないと払えない。
・ 日本では下水処理1m3あたり電気代だけで7.5円/m3程度かかっている。 日本と同様な下水処理システムを採用した場合、熱帯地方では電気代だけで処理料金の6割(2.5円/m3)を占めることになり、処理料金だけでは維持管理費を到底まかなえないと考えられる。
・ このため、熱帯地方に適した低コストの処理方式を導入していく必要がある。
・ 熱帯地方では、面整備が行えないことから汚水収集のための整備方式として汚水を水路で遮集し処理場へ持ってくるインターセプター方式が多く採用されている。途上国ではゴミのダンピングにより管渠が詰まってしまうことがあるので、インターセプター方式でゴミをカットすることが可能になる。
・ インターセプター方式で収集された汚水水質を予測することが極めて難しい。
・ タイ国バンコックの調査では、(調査時期は雨季と乾季の間BODで50ppm、CODで80ppm程度で濃度の低い汚水が流入してくる。)
・セネガルでは流入水質がCOD1,000mg/L以上であると報告されている。地域の状況により水質の差が大きく、原単位から処理場の流入水質を決めることは難しい。特に、インターセプター方式の処理場設計の際には、実際に入ってくる汚水を測定することが重要である。
・処理コストの安い処理方式として、通性池(ラグーン:嫌気池、通性池、熟成池)、UASB等がある。
・安定化池の事例としてインドの処理場を報告。部分曝気の事例としてタイの処理場を報告。
・散水ろ床の事例として、インド、グァテマラの処理場を紹介
・UASBの事例として、インドの処理場を紹介インドでは、気温が高いため下水にも適用可能となる。インドでの採用実績多。・嫌気性処理なので必要エネルギー少、メタンガスの回収も可能。

「国総研下水処理研究室の研究内容」
・沖縄にてラグーン、部分曝気、植生浄化の実験を流入水質、HRTを変えて実施中。インターセプター方式では水質が変化するので、HRT等を変化させた場合の処理水質を調査している。
・ラグーンと植生浄化を組み合わせることにより、大腸菌群数を削減できる可能性がある。
・低コスト型処理方式の評価、特に病原微生物の除去可能性や維持管理方法などを研究していく。
・また、今後、経済発展に合わせた段階的整備手法についても研究を行っていきたい。