赤潮と漁業被害

(環境白書、漁業白書、東京都調査報告ほか より)

 

赤潮を起こすプランクトン(「赤潮−発生機構と対策−」より)

 

シャトネラ;ラフィド藻。通称 ホルネリア。S47年:1,400万尾の養殖ハマチのへい死。52、53、54、57、58、62、H1年にも被害。排泄物、残餌による自家汚染説も。

【このプランクトンによるへい死の機構:有機成分の高度不飽和脂肪酸が鰓に作用 粘液が過剰に分泌 粘液細胞が死に 二次鰓弁がむくみ ヘモグロビンによる酸素運搬機能の低下 溶存酸素が過飽和でない限り酸素不足となって窒息死。】

 

  ギムノデイウム;渦鞭毛藻。体内に毒をもったものが多い。S50、54、55、57、60年に被害。

 

  ノクチルカ・シンテイランス;渦鞭毛藻。漁業被害はほとんどない。別名「夜光虫」。

 

  スケルトネマ・コスタータム;珪藻。漁業被害はほとんど起きない。東京湾奥では年中増殖。基礎生産者として重要な生物種。植物プランクトンを食べる動物プランクトンなどの生物の餌料として有用。

 

漁業被害

 

機構;

 @プランクトン自身がもつ魚毒物質 Aプランクトンが死滅後、分解したときに生成される有毒物質 Bプランクトンが大量に発生したことによる環境水中の酸素不足 Cプランクトンが魚貝類の鰓に詰まることによる呼吸の機械的な障害。(「赤潮−発生機構と対策−」より)

 

被害件数;(「環境白書」、「漁業白書」より)

 

 ◎(海上保安庁のデータ)

 H9年度:全国54件(うち東京湾 6件) 

10  :   26              

11  :   26           10 

12  :   31           15 

13  :   37           16 

 

 ◎(都道府県報告のデータ)  

 H11年度:18件、8億2,225万円 

 12年度:42件、44億4,025万円 【7月に発生した熊本県の八代海における「コックロデイニウム」赤潮による「かんぱち」「ぶり」養殖への被害(被害額39億8,000万円)が大きなウエイトを占める】

 

 ◎近年(昭和60年代に我が国に突如出現)、かき、あさり、あこやがい等の二枚貝を特異的にへい死させるプランクトンである渦鞭毛藻 ヘテロカプサ による被害が拡大。

 

 

プランクトンの毒性

 

@ある種のプランクトンを摂取した魚介類を食べると、食中毒をおこすことがある。

  麻痺性貝毒、下痢性貝毒、シガテラ毒(一部の珊瑚礁に生息する魚類が毒化)が知られており、魚介類の市場価値がなくなる漁業被害をおこす。

 

A毒成分を放出するプランクトン

 

B飲料水に悪影響を与えるおそれのあるプランクトン

 

 

東京都内湾における赤潮(東京都環境局のデータ。昭和52年(1977)度から調査を開始)

  一般には、4〜10月(5〜9月に集中)に赤潮が発生。

  発生回数の平均は、約18回。

  発生日数の平均は、約91日。

 

 

H11、12年度の調査結果(「平成11・12年度 東京都内湾赤潮調査報告書」より)

 

調査回数; 

H11年度;108回

 12  ; 83回

 

発生回数;

H11年度; 20回(114日間)

 12  ; 20回(115日間)

 

優占種; 

H11年度; スケルトネマ・コスタツムの8回。ヘテロシグマ・アカシオの4回。

 12  ; スケルトネマ・コスタツムの9回。

 

 その他の優占種;ノクチルカ・シンテイランス。

 

 H12年度の主な赤潮プランクトン;

 スケルトネマ・コスタツム(珪藻)

 ヘテロシグマ・アカシオ(ラフィド藻)

 プロロケントルム・ミニムム(渦鞭毛藻)

 ノクチルカ・シンテイランス(渦鞭毛藻) 

 メソドニウム・ルブラム(原生動物)

 クリプトモナダセア(クリプト藻)

 シリンドロセカ・クロステリウム(珪藻)など

 

富栄養化度;

 生物学的水質判定結果から、「東京都内湾は、ほぼ全域が過栄養域(CODで3〜10r/L)である。

 

参考;「赤潮―発生機構と対策」日本水産学会編、恒星社厚生閣刊行(昭和55年初版)

   より抜粋。

赤潮鞭毛藻と珪藻における無機栄養上の主な相違は、「珪藻が生育に珪素を要求するのに対して大部分の赤潮鞭毛藻は必要としない」ことである。

有害な赤潮を起こす渦鞭毛藻は、海水中の窒素やリンの量が少なくても増殖できるといわれている。

1970年の瀬戸内海で起きたシャトネラ赤潮は、底泥に由来する(台風による海水の攪拌)高濃度のキレート鉄とマンガンによって増殖が著しく促進された。

渦鞭毛藻の赤潮は、珪藻や藍藻の大増殖後に、続いて発生しやすい。

最近の重大な赤潮を起こす生物の異常増殖は、有機物との関連が深い。この有機物は、直接陸地から、あるいは海底泥に溜まったものが補給されという経路もあるが、無機態の窒素やリンが珪藻などの増殖という過程を経て生成されたものの分解物(海藻の分解物や解散生物の排泄物を由来とする)と考えられる。          

 

                        以上、岩崎秀雄(三重大・水産学部)