平成16年3月25日
平成16年(ヨ)第21号 仮処分命令申立事件
     
                          債権者 岡田みどり
                          債務者 財団法人二千五年日本国際博覧会協会
名古屋地方裁判所
      御中
                               岡田みどり

                 準備書面の補充(2)

 平成16年2月18日に提出した「準備書面」の補充を 3月8日提出分に続けて行う。

 本件について以下3点の確認をする。
 本仮処分申立は 当上之山3丁目総意の万博会場間ゴンドラ計画(以下ゴンドラ計画)白紙撤回運動より派生したものであり債権者はその代表である。よって本申立は個人の利益(生命及び財産)を追求したものではなく 当町住民全員の利益を擁護するものである。(甲-9)よって本申立人である債権者は 当町住民全員の立場を守る責務を負うものである。又、当町は「利便性」より「不便でも静かな環境を選ぶ。」という町民性を持つ。
 次に 当町は万博事業によってすでに数々の住環境負荷をかけられており(無通告断水、道路交通渋滞、トラックの増加、国道155号線上の事故の増加、海上地区よりの砂埃等 1日に何度も飛び交うヘリコプターの騒音と振動)開催中はさらにその加重は増すもの(普段せいぜい1500人居住地域に 15000人押し寄せる事によるストレス、交通規制のため帰宅もままならない状況など)と予想される。それに「追い打ち」をかけるのが このゴンドラ計画である。「すでに重すぎる荷物を背負わされたロバをつぶすには藁しべ一本でたりる。」一つの町が負うには重すぎる負荷である。

 かつて当町は非人間的な 屈辱を感じるような道路建設に苦しめられた。(甲-21)(現在 都市計画取り下げ)ゴンドラルートは その苦しい記憶を呼び覚ますものである。

 さて 万博ゴンドラは1時間1800人 双方向3600人 1日約30000人を時速約21.6キロという普段の日本の交通手段としては かなりゆっくりな速度で当町を回り込むようなルートと 当町を見渡すような高さで進む。(甲-22)

万博会場は 非日常空間であり「夢やわくわく感を体験できる事が必要」(経済産業省による 政府出展の基本計画より)ゴンドラも その総ガラス張りというデザインにより観客をして「速さより景観を楽しむ」、「効率よりは輸送に娯楽性を持たせる。」「わくわくした夢の演出」という劇場的効果を期待させるものである。ゴンドラの乗客は ゆったりと景観を楽しむを第1の目的として搭乗する。

 しかるに当町付近に搬器がさしかかるとスモークがかかり行程の3分の1ほどの613.7メートルは「景観を楽しむ」目的は達せられず 客の 落胆と欲求不満は予想される。(しかもシャトルバスと違い別料金が必要)

 よってスモークがとぎれたとたん「何を隠すため曇らせたのか。」と好奇心を刺激され 鬱積、抑圧された欲求不満も手伝って むしろ熱心に当町を観察(望遠レンズ付きのビデオは観光の必需品になっている。)するであろう。時は初春から夏、当町住宅は窓を開け放し無防備になっている。

 「家」とは人間の最低限度必要な「砦」である。そして その中での「私生活上の情報を他人にみだりに公開されない権利」プライバシー権は憲法13条の幸福追求権に基づく権利として(明文化されていないが)認められている。堅牢な「砦」があり その中での「プライバシーが守られたくつろぎ」が約束されてこそ 人間は正常な日常生活を営める。公では「公序良俗」に反するかもしれない表現も「家」のなかではある程度 許されるべきである。しかし その「砦」の中を ゴンドラに乗った不特定多数の見知らぬ人々が 6ヶ月もの間 垣間見る可能性があるということは ただでさえ万博事業そのものによる住環境負荷を耐え忍ばざるをえない当町住人にさらに精神的苦痛を与える。(その上 保安林内ゴンドラ支柱建設は 新たな土砂災害危惧の発生をはらんだものでもあるとなると「たった6ヶ月の辛抱」などではない。当町住民にとってはまさに「踏んだりけったり」である。)

 又、プライバシー権は「安心」「安全」に暮らせる権利でもある。
このような「国際イベント」開催中は「テロの脅威」も危惧すべきであるが
それよりは スケールが小さいとはいえ窃盗などの犯罪発生も怖れるべきである。
「こういうイベントがある地域は今までと比べて1000倍犯罪が増える。」(元万博推進官の言葉)事実 当町を含む山口連区一帯が犯罪増加地域になりつつある。(甲-23)当町も平成14年数回の空き巣があり 中には下手をしたら「殺人」に発展したかもしれないと思われるケールも2件あった。

 本ゴンドラ計画は 当町を回り込むようなルートを当町を見渡すような高さで 時速21.6キロという「何かを観察(偵察)する」にはちょうど良い速さで進む。(甲-24)「開放的な季節」も手伝い ゴンドラ乗客は 全開した窓を通してその家の間取りを、洗濯物からその家の家族構成を 等の 生活様式の情報をも容易にえられる。たとえ「良くない下心」を持って望遠レンズで熱心に当町をのぞいているゴンドラ乗客がいても「ゴンドラ」という「景観を楽しむを第1とする乗り物の乗客」である以上 その行為は誰の「擬念」も喚起しえない。十分な「下見」をゴンドラが可能にする。「十分な下見」を経た犯罪の成功率は高い。

 よって本ゴンドラ計画は当町内犯罪増加のきっかけになる可能性は十分にある。
 本ゴンドラ計画は当町住民の生命及び財産に脅威を与え 人格権を侵害するものである。

 本ゴンドラルートが 国道155号線を通過するにもかかわらずルート下には保護施設」を設けないとのことであるが(去年 御岳ゴンドラ死亡事故があったのにもかかわらず)他にも 景観上の問題でこの計画が自動車事故増加のきっかけになる可能性をも秘めている。

 現在国道155号線の瀬戸近辺での1日の交通量は「12時間で9600台 24時間で13500台」(国土交通省 中部地方整備局 名古屋国道事務所より)
 近年 上之山町でも 事故が相次ぎ(平成16年9月27日バイク死亡事故(甲-24)たとえば 11月8日 トラック正面衝突事故、11月15日 普通車市場につっこむ、11月29日 自動車同士の事故)
 上之山町に入ると その信号の少なさ 視野の広さに加え 坂を下る開放感が運転手に心のゆるみを与える。その「地形上のハンディ」に加え「普段は存在しない国道上を行き来する万博ゴンドラ」が景観上での運転手の集中力妨害をおこさせる。事故の増加は当然懸念される。加えて当町にとって出入り口はたった一つである。ここを遮断されたら当町は住宅地としての生命を失う。そのたった一つの出入り口のほぼ真上をゴンドラルートは通っている。(甲-25)当町から自動車で国道155号線にでる場合 本線上の運転手がゴンドラに意識を一瞬でも奪われれば 事故は増加する。現在でもすでに 住宅地から 右折する事は自動車量増加で困難になってきた。
 このような 運転への集中を阻害するファクターを増やすゴンドラ計画は 当町住民の生活する権利を侵害する。(日本国憲法第25条)

 7号支柱付近であり 当町に近接した土砂崩れ(甲-8)について補充する。
 この2000年10月以降おこったと思われる土砂崩れは 2000年1月上旬のボーリング調査等との因果関係があると思われる。この地は「土石流危険渓流」でもないし「急傾斜地崩壊危険個所」でもないが 縦約30メートル横約8メートル 高さ約5メートルにわたって推定500リューベ 下方に流出している。この里山全体が土砂災害危惧地の証拠である。ボーリング程度の刺激でこれほどの災害を起こす。尾根までわずか12メートル弱の7号支柱建設はさらに大規模な工事である。土砂流出500リューベ以上の災害を起こすきっかけになりえる。尾根自体を破壊するほどの規模なら被害は債権者側に及ぶ。

 又 土質は「貧栄養」と分類され木々は育ちにくい。一度伐採されれば 現在の保水力を取り戻すのはかなりの年月を要する。事実 この土砂崩れがおこってすでに4年目であるのに 育っているのは数本の松(1番大きいので38センチ)にすぎない。よって7号支柱建設は土砂災害マップでいう「吹き出し口」に居住する当町民にも長期にわたる災害危惧をもたらすのは確実である。もし そのような事態になっては当運動の代表者として 同じ町に住む人間として忍びない。

 「保安林」はまとまった面積でなければ意味をなさないので大きな範囲が保安林となる。その中のバランスが崩れれば下流地域等に悪影響が発生する。そしてその「バランス」を保つ要素の中に「オオタカ」等の絶滅危惧種がある。この環境があるから「オオタカ」はここでは生息できる。(甲-26)オオタカが住めなくなる里山はバランスを崩した里山であり バランスを崩した(保安林である)里山は 下流域に対しその使命を果たせない。この里山はなるべくして保安林になった。その事実と「保安林制度」を尊重し 守るべきである。

 当町が「土砂災害地域指定」になっていないという指摘は その根拠となる「基礎調査」の実施方針の決定及び 運用指針のまとめを県が行ったのが去年7月であり 調査自体は「これから」なので「指定されていない」という債務者の判断は事実とは異なる。(甲-27)しかし 災害マップにも指定されていない上記のような土砂災害を目にすれば この里山全体が土砂災害危惧のたねを持っているとの判断を下すのは妥当であろう。

 求釈明
1. 過去3回の当町でのゴンドラ住民説明会では この里山が「保安林」であるという説明はあったが「土石流危険渓流」等の「土砂災害危惧のある里山」であるという説明はいっさいなかったのはなぜか明らかにされたい。

2. ゴンドラ検討ルート6本のうち(甲-28)「土石流危険渓流」の中を改変せざるをえないこのルートに決定した根拠を明らかにされたい。

3. 平成14年5月23日第2回ゴンドラ住民説明会で「ゴンドラでの事故は日本ではなかった。事故は想定していない。」(実際はこの時点でも事故はあった)(甲-29)と協会職員が言ったのはなぜか。

4. ゴンドラにより事故がおこった場合 賠償責任者は誰か?責任の所在を明らかにされたい。

5.「ゴンドラは万博終了後撤去する。」とあるが かつて債務者の計画が唐突に変更する事はたびたびあった。又 債務者は2005年9月26日をもって解散する団体である。この言葉を誰が保証するのか?
 又、具体的な撤去計画はいつ発表になるのか。

6.当初、ゴンドラ支柱は15基あったが現在の計画では14基である。
  当初、ゴンドラの1時間の乗客は2400人であったが、現在1800人である。
  この2点の変更はなぜ必要であるのか明らかにされたい。
  特に 支柱を1基減らしたが 安全性 耐震性に問題はないのか明らかにされたい。
  又、この事実により 建設資金はいくら節約できたのか?

7.7号支柱の部材は総量何トンか?
  又、7号支柱建設のための保安林改変面積の中に資材置き場がないが 資材置き場
  を必要としない工法で行うのか。

8.ヘリコプターの騒音及び振動は「一般住宅地」の基準値以内であるのか?
  又、ヘリコプターの振動若しくは運転中のゴンドラの振動等により家にダメージを受けた場合 保証はあるのか。

9.サンヒル上之山住宅の何件かは 債権者宅よりさらにゴンドラルートに近接してい
  るが プライバシー保護ゾーンにならないのはなぜか。希望があれば新たにプライ
  バシー保護ゾーンが増えることはあるか。

10.そもそも 当初はシャトルバスのみとしていた会場間交通に「ゴンドラ」が提案
  され 具体化された経緯 そしてその必然性の根拠を明らかにされたい。
 (・瀬戸会場の1日の入場者は15000人に制限する、となると1日に30000
  人もの移動可能な施設はそれでも必要なのか。
  ・景観を楽しみ「移動に娯楽性を持たせる」目的も 行程の3分の1は曇りガラス
  になり達成しきれないがそれでも必要なのか。
・ 登録の時のただ一つの会場間輸送手段シャトルバスに比べ 冷房付きのゴンドラはスキー人口が減っている現在の状況をも考えるとリユースはできない可能性が大きいがこれは「環境博」のテーマに反する。又、シャトルバスのみという代替案があるのに「地域を災害から守る使命を持つ保安林」を不必要に改変し里山にダメージを与えてでも作るゴンドラはやはり「環境博」のテーマに反する。「愛・地球博」のテーマに矛盾してでも建設するその必要性は何か。)

11.書証乙11号証の意図の説明をお願いしたい。
  (視界遮断フィルムの使用前 使用後を比較検討するには同じ被写体にするべきでは?)

12.3月8日付けの準備書面の10、ででてくる「豆粒」の大きさを具体的にお教え願いたい。(直径何センチ?)