瀬戸の鉱山開発計画反対要望書
 県へ住民グループ


 県珪砂鉱業協同組合(瀬戸市)が同市東印所町・紺屋田町の県有林と市有林で進めている鉱山開発計画で、「鉱山開発から里山を守る会」(藤野純子代表)など反対する地元住民グループが八日、県へ計画の見直しや住民説明の徹底を指導するよう求める要望書を出した。
 要望書によると、計画予定地には貴重な植物が自生しているほか、幼稚園や老人福祉施設が近くにあり、住民の生活環境を損ねる恐れがあるなどとしている。
 また、予定地の一帯には国内で唯一、現存する欧州式治山工事跡のホフマン工事跡があり、工事開始から百年を迎える二〇〇五年の愛・地球博に合わせ、県が記念事業を計画している。
 要望書では、万博の理念を生かすため、一帯の森すべてを有形文化財に指定し、保存するよう訴えた。
 <2003.1.9中日新聞>


はげ山やめて 住民「万博に合わぬ」 瀬戸の鉱山計画 

 愛知県瀬戸市の県有林で計画されている鉱山開発に対し、地元住民が8日、「万博の理念に合わない」と県に計画の見直しを求める要望書を出した。開発予定地の隣は、明治時代に東京帝国大学のイタリア人技術者の指導で取り組んだ治山工事のおかげで、はげ山からよみがえった里山が広がる。来年は歴史的な工事から100年にあたり、「自然の叡智(えいち)」をテーマにした愛知万博にあわせ、県はその工事跡をPRする事業も計画中だ。それだけに、住民らは「歴史的な森林保全地域の隣に、はげ山をつくるのはおかしい」と訴えている。
 住民側が問題にしているのは、県珪砂(けいしゃ)鉱業協同組合が、瀬戸市紺屋田町周辺の約17ヘクタールの県有林から、10年間で、ガラス原料のケイ石など約400万トンを採掘する計画。この地域は国内有数のケイ石の産地だが、「既存の採掘地の鉱量が残り少なくなり、新たな開発が必要になった」として、同組合は保安林の解除を県に申請。県森林保全課が審査している。
 同課は「瀬戸市も同意しており、現時点では開発に問題はない」との立場。組合側も「必要な地元の町内会の同意は得ている。地場産業にとって必要な開発で、採掘が終われば森林に復元する」と説明する。
 一方、開発予定地のすぐ南には、イタリア人技術者、アメリゴ・ホフマン氏の指導で復旧した里山が広がる。ホフマン氏が1905(明治38)年に瀬戸市内で欧州式治山工事に取り組んでから、来年で100年を迎える。同課は新年度、この「ホフマン工事跡」をPRし、県民参加で森林復旧の歴史を調査する計画を進めている。同課は、「開発後もホフマン工事跡は残る」と、復旧された森林と鉱山開発が隣り合わせになることに矛盾はないとしている。
 これに対して、瀬戸市民らでつくる「鉱山開発から里山を守る会」の藤野純子代表は、「開発予定地は、住宅地と既存の鉱山開発地を隔てる重要な砂防林。里山を破壊して、万博の理念にかなう記念事業はできない」と指摘。「ホフマン工事跡をとりまく一帯の森をすべて保全して欲しい」と、県に要望している。

<アメリゴ・ホフマン氏>(1875?1945) イタリア生まれ。東京帝国大学(現在の東大)に招かれて来日し、治山や砂防の技術を伝えた。

 焼き物の土の採掘や、まきの伐採によって荒廃した愛知県瀬戸市のはげ山の復旧を技術指導。当時の先進的な工法を駆使し、通称「ホフマン工事」と呼ばれるようになった。万博が開催される05年は工事着手から100周年にあたる。
 【写真説明】
 復旧工事でよみがえった里山。北東の方角に隣接して鉱山開発予定地が広がっている=愛知県瀬戸市で
<2004.1.9朝日新聞>