訴 状

名古屋地方裁判所 御中
                   平成15年12月10日
                   原告 岡田 みどり
                      (選定当事者)
                      総員15名

 索道7号支柱及びその前後の支柱建設差止請求事件

第1 当事者の表示
1.原告 別紙当事者目録に記載の通り
  被告 住所 名古屋市中村区名駅3丁目15番1号
         被告 財団法人 二千五年日本国際博覧会協会
            代表者 豊田 章一郎

第2 請求の趣旨
1 被告は別紙目録に示す索道7号支柱およびその前後の支柱を建設してはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
 との判決を求める。

第3 請求の原因
1 はじめに
 本件は、被告が二千五年日本国際博覧会(以後、博覧会という)の2つの会場をつなぐ輸送手段としての索道建設計画では、保安林の中に支柱を建設することになり、豪雨による土砂災害の危険があることや、その経路が住宅地にあまりにも近く、頭上近くを索道が通る威圧感とプライバシーを侵害される恐れがあることから、この建設の差し止めを請求するものである。瀬戸市上之山町3丁目の住民は被告および愛知県に索道の建設中止を求めて再三説明を求めてきたものの、納得できる回答が得られず,本訴えを提起するにいたった。

2 本件差止請求の根拠
(1) 原告
 原告らは愛知県瀬戸市上之山町3丁目に居住する住民である。当地域は瀬戸市の南端に位置し、周囲を自然林(多くが県有林)に囲まれた戸数78の小さな団地である。団地の東を南北に走る国道155号線からは、間に森を挟み、100m以上離れており、極めて静かで緑豊かな住宅地域である、ここに250人程が平穏な生活を営んでいる。
(2) 住環境の保全
 ここで、工事差し止め請求をする索道の建設計画によれば、下記に示すように7号支柱が保安林の中になる。一方、愛知県砂防課土砂災害危険箇所マップによれば、当地域一帯は土石流発生の危険性地域に指定されており、支柱建設に伴う立ち木の伐採や地形の改変によって甚大な土砂災害をもたらす危険性が極めて大きい。さらに、博覧会終了後の索道等の撤去やその方法については一切公表されておらず、建設されれば、博覧会終了後も長期にわたって災害の危険性が続く。これら災害の危険性は、静かで平和な原告らの生活をひどく脅かすものである。

3 索道建設工事の危険性等
(1) 被告
 被告は二千五年日本国際博覧会協会(以後博覧会協会という)である。博覧会協会は当博覧会の長久手会場と瀬戸会場を索道によって結び、1日1万5000人の観客を輸送しようと計画をしている。
(2) 索道工事の概要
 被告が計画している索道の概要は次の通りである。
ア 設置場所
  愛知県愛知郡長久手町長久手会場から同県瀬戸市上之山町3丁目を通り、同市瀬戸会場に至る地域。
イ 索道の概要
  別紙T、Uに示されているように、計画によれば前兆2015mの索道路の間に合計14基の支柱を建設し、ここを最大16秒間隔で8人乗りのゴンドラを通し、毎時最大1800人の観客を輸送する計画である。
 博覧会協会は平成15年12月頃に建設工事に着工し、平成17年3月の博覧会開催に合わせ運用を開始しようと計画している。
(3) 索道建設による危険性
 本索道7号支柱が建設されることによって以下の通り、瀬戸市上之山町3丁目の住環境を破壊し、豪雨時には甚大な土砂災害をもたらす危険性がある。
ア 建設予定地域での地滑り等
 索道7号支柱建設予定地は保安林の中にあり、愛知県砂防課による土砂災害危険個所マップによれば、土石流危険渓流地域に位置する。また、5号、6号および8号支柱の建設予定地もここに隣接する山中に位置する。7号支柱予定地周辺では現状においても小規模な地すべりが多数見つかっており、建設工事に伴う立ち木の伐採や地形の改変および、工事要員等の出入りや周辺への立ち入りによる草木の踏み荒らしによって、豪雨時には大きな地滑り災害を引き起こす危険性が大である。その危険性は博覧会が終了し、支柱等の撤去以後も、木々が十分勢いを持つまで10数年続くと予想される。ひとたび大きな土砂流出が起これば、その下流に位置する瀬戸市上之山町3丁目の住宅地域では甚大な災害が予想される。当住宅地域の南東に隣接し、瀬戸市が所有する空き地は、それまでため池を10年程前に埋め立てたものであり、土砂災害等をさらに拡大する可能性を含む。
イ 当地域は古くから(江戸時代以前から1940年頃まで)陶土や珪砂が採掘された地域であり、現在の地形のかなりの部分は廃土などを捨て出来た人工的なものである。その後生育した草木によって土砂流出はやっと守られているが、索道の支柱建設等によって立ち木の伐採等があれば、当地域における土砂災害の危険性は計り知れない。
ウ 「二千五年日本国際博覧会に係る環境影響評価追跡報告書(その2)」(以下追跡評価書という)によれば、7号支柱建設に当たっては地形の改変等を最小限にするために、資材運搬等は大型ヘリコプターで行うとしている。7号支柱建設予定地から約150m北側は瀬戸市上之山町3丁目の住宅域であり、風向きによって、ヘリコプターは当住宅地の上を通過し、建設現場に侵入することになり、その騒音は計り知れない。たとえその騒音が環境基準をぎりぎり許すものであったとしても、基準は空港周辺を想定した基準であり、当住宅地域のような平素きわめて静かな住宅地域には、その差は大きく耐え難いものと予想される。
エ 追跡評価書によれば、7号支柱が計画されている保安林および、その隣接地域には「カザグルマ」や「シデコブシ」、「ギフチョウ」や「オオタカ」など貴重な動植物種が生息していることが知られている。索道支柱の建設が進めば、これらの動植物も甚大な影響を受けることは明らかである。住民としては、この豊かな自然環境が消えることは耐え難い。
オ 博覧会協会は索道建設にあたって周辺住民の同意を得る義務がある。平成15年10月に追跡評価書が公表される前の8月23日に住民への工事説明会が行われ、十分な説明も無いまま終わっている。その後、瀬戸市上之山町3丁目住民は計画の詳細を説明する機会の開催を再三要求してきたが、聞き入れられることなく、計画が進められている。このままでは住民の間にプライバシーの保全、景観の悪化、低周波騒音や安全等不安が大きい。

4 まとめ
 博覧会協会が予定している索道の建設は、保安林やそれに隣接する地域において立ち木の伐採や地形の改変にともなうことは明らかであり、瀬戸市上之山町3丁目住宅地域での土砂災害の危険性は計り知れない。また、建設時の騒音も環境基準上限であり、平素静かな当地域としては耐え難いものと予想される。
 原告らは自らの生命財産を守ることおよび、静かで平穏な生活をする権利を守るため、二千五年日本国際博覧会に関わる索道の7号支柱およびこれに隣接する支柱建設工事の差し止めを要求する。

第4 証拠方法
 追って、提出する。

第5 添付書類等
1 資格証明書 1通
2 当事者目録 1通
3 登記簿謄本 2通

                                  以上