FINAL FANTASY 7 - 理由
いよいよメテオが落ちてくるまで日がなくなってきた。
大空洞にいるセフィロスを討たなければならない。
そんな時になって、クラウドは改まったように口を開いた。
「一度船を降りて そして自分の戦う理由……それを確かめて欲しいんだ。
そうしたら、帰ってきてほしい」
そして見つからなければ帰ってこなくても仕方がないとまで言った。
覚悟の出来たメンバーだけが戻ってくればいいと。
その言葉を、遠く離れたミッドガルの神羅本社ビルで、リーブは一言一句聞き漏らさぬように耳を傾けていた。
他のメンバーとは既に別れた後。バレットはネコを模したぬいぐるみを載せたデブモーグリの形をしたぬいぐるみの後方を黙々と歩いていた。ぬいぐるみ、ケット・シーは保護しているマリンの元へ案内をしてくれているのだ。
だが、バレットはこのぬいぐるみが苦手だった。
ぬいぐるみを操るのはリーブ。神羅カンパニー都市開発部門統括。件の社の重役内で、唯一の人格者であろう。
その彼がある時、ケット・シーを通じて怒りを露に言った。
―――――壱番魔晄炉が爆発した時、何人死んだと―――――
彼は神羅のスパイだった。自分たちを騙してキーストーンを奪い、人質を盾に旅へ同行を許すことを強いた。
結果として神羅を裏切り二重スパイとなったが、それまでは自分たちにとって悪者だったし、ケット・シー自身、それを意識して振舞っていた。その根底には、アバランチ時代のテロへの憎しみがあったに違いない。
「おい、ケット・シー!」
いい加減で小憎たらしく、人をおちょくるような言葉を選ぶそのぬいぐるみは、時に正論を突いてくる。それも、彼にとっては痛いところを、真っ直ぐに。
「はいな、なんでっしゃろ?」
バレットに呼び止められ、ケット・シーが振り返る。
いつもどおりの陽気な声に、幾分かバレットは苛立ったように眉根を寄せる。
しかし、ぬいぐるみは愛らしい顔で、首を傾ぐのみ。
「……。マリンのこと、守ってくれてありがとよ」
ケット・シーにとってそれは予想外の言葉だったらしく、呆気に取られたようにポカンとバレットを見ている。その視線に耐えられず、バレットは顔を背けた。
「ずっと、言いそびれてたからな」
視界の外で、笑った気配があった。いつも賑々しいケット・シーではない、どこか穏やかな、恐らくは操作者のもの。咄嗟に視線を戻したが、既にケット・シーは前を向いていた。
「そら、守りますよ。
マリンちゃんもエアリスはんのお母さんも、ミッドガルの住民ですから」
本体、リーブはミッドガル開発に設計から関わったエンジニアだ。それはバレットも知っている。ミッドガルの為に奔走した姿も、何度も見てきた。神羅は許せない。だが、ミッドガルの住民は罪はない。彼が神羅に残っている理由でもある。
漠然と思う。アバランチは許せない。しかし、その家族に罪はない。
そう、考えたのだろうかと。
「お前の理由は、それなのか?」
戦う理由、星を救おうとする理由さえも?
ケット・シーは振り返らない。
「責任がありますんや。魔晄をエネルギー利用する為の開発もしてきましたから」
「そうは言っても、こんなことになるって知っててやったわけじゃないんだろ?生活を豊かにする為に」
バレットはフォローのつもりで言った。反神羅組織として活動していた頃には出て来る事はありえなかったが、実際、アイシクルロッジを訪れた際に、生活の向上の為に技術革新を進める理由を実感した。住みやすいように、不便なく暮らせるように。
しかし、ケット・シーの声は晴れない。
「知らんかったら許されるんですか?人の生活を豊かにする為、そんなん聞こえはええですよ。せやかって、知らんかったで済む話と違いますやろ」
―――――星の命を守る。はん!確かに聞こえは、いいですな!―――――
―――――そんなもん誰も反対しませんわ。―――――
―――――せやかって、何してもええんですか?―――――
バレットは唐突にリーブという人間を理解した。陽気でいい加減なケット・シーを通じて垣間見える彼は、理路整然としていて潔癖だ。そして心中でごちる。やはり苦手だ。
「だけどよ。お前がやらなきゃ他の誰かがやってた。人間ってのはやっぱり馬鹿なんだよ。俺なんかと一緒にされたらお前は怒るかもしんねぇけど、俺も結果が出なきゃ分からなかった。誰にだってそういうところがあるんじゃねぇのか」
言葉にしながら柄にもないことを言っていると可笑しくなって、バレットは俯いていた。
なんとなくケット・シーがどういう反応をしているのか、見るのも憚られた。
「怒るわけあらへん。―――――バレットはん、おおきに」
そう、彼には珍しく静かなトーンの声が振ってきて、顔を上げるとそこに既に大きなぬいぐるみと、それに載る小柄なぬいぐるみの姿は忽然と消えている。そしてカームの郊外まで来ていることにようやく気づいた。と、同時。
「お父さん!」
マリンが駆けてきて、バレットに抱きついた。その向こうに、エアリスの母、エルミナもいる。ケット・シー、否リーブがエアリスの死を伝えた時は落ち込んで、泣いてばかりいたという2人も、少し元気を取り戻しているようだった。
「どうして此処に?」
マリンを抱きかかえて立ち上がりながら、まるで出迎えにきたような2人に問う。
「リーブのおじちゃんがね」 するとマリンが自慢げに語りだした。「お父さんが、一旦帰ってくるからって」
それは意外な返答だった。ミッドガルで奔走している筈の彼が、今まで此処に?
「本当に今さっき来て、それだけ伝えて行ったよ。いつもそうなんだ。忙しいみたいでね、それなら電話で済ませりゃいいのに、わざわざ顔を出すんだ」
疑問に答えたのはエルミナだった。統括としての業務の他にスパイ活動、それだけできっと目も回る忙しさだろう。現に旅の間も、ケット・シーの動きが不自然に止まっていることがある。それは本体が忙しさから、操作にまで意識が行き届いてない証だった。メテオ接近から、その傾向は頓に強くなっている。それでも彼は、保護した両名への気遣いを怠っていなかったということになる。
「それで、もう戻ったのか」
残念なような、それでいて安堵したような。複雑な心境だった。
ケット・シーはどうしたのだろう。やはりミッドガルに向かっているのだろうか。
「マリン」 娘の名を呼ぶ。「リーブのこと、どう思う?」
「とてもいい人よ!」 ―――――即答だ。バレットは急におかしくなって、笑った。
「そうだな。馬鹿みたいにいいやつだ」
ミッドガル、神羅カンパニー本社ビル前に一台の車が停まった。
そこから地味なスーツを着込んだ男が降りるとほぼ同時、神羅の社員の一人が駆け寄ってくる。
「統括。伍番街スラムで暴動が」
「ソルジャーは動かせますか?人手はジュノンから派遣されて来る手筈ですので、四番街からも回して下さい。ただし、あくまでプレート上部の住民の避難誘導を最優先に」
「は」
部下の後姿を見送りながら、仲間の言葉を思い出す。
戦う理由を。そういった、彼の言葉を。
「生きる為や。―――――このミッドガルと共に、生き残る為や。
他に理由なんて必要あらへん」
COMMENT
本編、大空洞直前のケット・シーとバレット。バレットは勝手にケットに苦手意識を持っているといいなぁと。こう、立場上の後ろめたさとか、自分自身が神羅に持っている憎しみとか。どうでもいいけど、この2人同い年なんだよなぁ。同い年なのに、色々真逆ってのがなんともいえない。
そしてリーブさんは親バカだと思う。(子供=ミッドガル)