【5】 「政府・与党合意」の見直しと、国とJRの今日的役割を明確に
<資料5-1> 「政府・与党合意」についての知事発言
〇富山県知事 「現在の政府与党申し合わせ、平成16年12月にしていただいたわけですが、整備新幹線の着工に際しまして、並行在来線のJRからの経営分離については、沿線地方団体の同意が必要だとされていまして、その経営については、基本的に沿線地方団体の責務とされているわけでありまます。そういう経過があるのですけれど、やはり並行在来線である北陸本線は、広域的でかつ幹線的な物流ネットワークを支えている重要な役割を担っている。・・・・・なんとか新幹線の建設促進とともに、この並行在来線についてしかりとした支援措置を講じていただくということで、政府与党の申し合わせの見直しを含めて十分ご検討をいただきたい」
(2007年6月県議会での石井富山県知事の答弁)
〇新潟県知事 「北陸新幹線の開業に伴い、JRから経営分離されることとなっている並行在来線の安定的な運行維持を図るには、沿線地方公共団体の多額の財政支出も予想されるところです。そのため、本県はもちろん県内の関係市や地域住民の皆様、更には他の沿線県においても様々な議論になっております。そのような中、国でも、並行在来線の取扱いについての政府・与党申し合わせの見直しの機運が高まっています。政府・与党において関係プロジェクトチームが設置され、並行在来線のあり方を含めた議論が開始されました。本県も、並行在来線の経営が成り立つような新たな枠組みを構築することなどを提案するとともに、本県選出国会議員や関係省庁に対し積極的に要請しているところです。本県の並行在来線は、信越本線と北陸本線の2線があり、また、JR東日本とJR西日本の2社にまたがる特殊な性格を有しています。その役割も、沿線住民の日常生活の足であるだけでなく、日本海国土軸の貨物輸送を担う幹線鉄道であります。県としましては、今後とも、その重要性を国に強く訴え、その存続に全力を傾注してまいります。
(2007年6月県議会での泉田新潟県知事所信)
<資料5-2> 並行在来線の分離をめぐる「政府・与党合意」
・1970年 全国整備新幹線整備法 北海道、東北、北陸、九州・鹿児島、長崎5線1440q
・1984年12月26日 自民党5役会議で整備新幹線開業時に並行在来線の廃止を決定
27日、自民党総務会が討議決定。28日、1985年度予算に関する政府・与党覚書に、整備 新幹線の開業と同時に並行在来線を廃止するとの文言を盛り込む。
・1984年12月28日 山下運輸相は、「すべての並行在来線を廃止するということではなく、今後検討をすすめた 上で決定していく」と記者会見
・1986年11月28日 橋本運輸相は、整備新幹線の着工決定には並行在来線の廃止必要の認識を表明
・1986月12月7日 宮沢蔵相「新会社の経営が黒字になっていかないと、旅客会社の立場は並行在来線の存 続問題が絡んで難しい問題が出てくる」後藤田官房長官「整備新幹線建設に伴う並行在来 線の廃止は新会社の意見を聞く必要がある」
・1987年4月1日 国鉄の分割民営化
・1987年12月16日 JR東日本は、運輸省に横川−軽井沢間の意向を報告
・1987年12月17日 運輸省・整備新幹線財源問題等検討委員会最終報告−整備新幹線建設費の公費負担な どの措置の必要性と並行在来線廃止は「やむなし」の見解を公表
・1988年1月 整備新幹線建設促進検討委員会設置、その下に着工順位専門検討委員会と財源問題等 検討委員会を置く。
JR東日本は信越本線横川−軽井沢間、東北本線沼宮内−八戸間の廃止を表明、その後 横川−軽井沢間の廃止を申請する意見書を検討委員会に提出
・1988年8月31日 整備新幹線3線5区間の建設決定
・1988年12月8日 大蔵省は横川−軽井沢間の経営分離を条件に財源の負担割合案を提示
・1989年1月17日 整備新幹線の財源スキーム決定
(1973年以来の整備新幹線建設凍結状態が解除されることに)
・1990年10月9日 東北新幹線の建設に伴って運輸省が、「新幹線をとるか在来線をとるかの二者択一の結 論を年内に迫られている」ことが明らかになる。知事は「年内に在来線廃止の結論が出なけ れば、来年度の盛岡以北の新幹線着工はない」と説明。岩手県と一戸など関係6市町村連 絡会議で。
〇東北本線を守る会は、「国とJRの責任で在来線の存続を」「ミニ新幹線でなく、地元負担なしのフル規 格の新幹線を」「真の住民合意を」の三つのスローガンをかかげる。11月3日、運輸省とJRに「二者択 一」の撤回を求める要求書の提出。
〇知事には公開質問状。11月22日の回答は「在来線を守ることを最大の選択肢としながらも、新幹線着 工を優先させる」という考えを示す。
〇12月20日には「第三セクターが有力だが、鉄路として残す」と回答。廃止の選択肢はなくなる。
・1991年1月 長野県は横川−軽井沢間を第三センターとした場合の収支見通しについて、無償譲渡を 前提として年間2.7億円の赤字が発生すると試算。JR東日本の試算は、有償譲渡を前提とし て年間30億円の赤字が発生するとした。長野県は、運輸省、JR東日本に、無償譲渡による 鉄道資産の引き渡しを要請する方針をとった。
・1991年(平成03年)3月26日 参議院運輸委員会・議事録
○政府委員(大塚秀夫君) 今、並行在来線を廃止する場合に、これを仮に第三セクターにする場合の譲渡方法についてのお尋ねだという前提でお答えしますと、その並行在来線について地方公共団体なりの第三セクターにできるだけ負担がかからない方法で譲渡するということが必要でございますが、具体的に無償譲渡するということになりまして、現在JR等も検討しておりますが、無償譲渡した場合に特別損失として計上されるというような会社経理上の問題や、寄附金扱いになるために、JR側あるいは第三セクター側がともに課税されるというような問題がありますので、そういう問題を回避するようにどうしたらいいかということを今検討しております。いずれにしても地方の負担にならないような方法を講じなければならないと考えております。
それから、第三セクターができました場合の助成というようなことにつきましては、これは整備新幹線の整備について並行在来線について地元の合意を得られたという前提でございますし、これは新しい整備新幹線という設備ができるという代替措置でもございますので、従来の特定地方交通線に対するような助成策は現在のところ考えておりませんが、その他の方法、例えばJRから要員を派遣するあるいは技術的な協力をする、ソフトウエアのソフトの提供をする、またはその他のいろいろな連行管理面での協力というようなことについてはできるだけ運輸省もバックアップして必要な措置を講じていきたいと考えております。
・1991年(平成03年)04月16日 参議院運輸委員会・議事録
○政府委員(大塚秀夫君) 現在運営しております第三セクターの経験にかんがみ、経営のノーハウ等についても積極的にJRから提供し指導していくようにしたいと考えております。
また、資産の譲渡問題につきましては、今後第三セクター化する場合の新しい会社が負担にならないような譲渡を行いたいと考えておりますが、その際に税制等の問題についてさらに詰める必要があるような状況でございます。
・1991年(平成03年)4月18日 参議院運輸委員会・議事録
○政府委員(大塚秀夫君) 整備新幹線の建設に当たりましては、国鉄改革の趣旨からしまして、JRに新幹線開業により輸送需要が減少する並行在来線の維持という過重な負担を負わせてはならないというような考え方に基づきまして、並行在来線の取り扱いにつきましては地元の自治体とJRの意見を踏まえまして適切な結論を得る必要があり、今回平成三年度の予算案においてもそのような前提で整備新幹線の建設に必要な経費を計上しているところでございます。
なお、国、地域、JRの間の整備新幹線の建設費の負担割合の決定に当たりましても、並行在来線の経営分離を前提にしておりまして、仮に並行在来線を引き続きJRで経営させることになりますれば、それにより生ずる赤字はJRの負担となりますので、新幹線を第二の国鉄にしないという趣旨に反することとなると考えております。
(出所)・公共交通をよくする富山の会「北陸新幹線建設と並行在来線年表」 ・角一豊「並行在来線経営分離問題を めぐる政治過程」2001.6.9 ・参議院議事録から抜粋 ・東北本線を守る会山火武津夫「蟻が巨像に挑む」より
<資料5-3> JR東日本、JR西日本の連結決算概要(2005年度、2006年度) (単位:億円)
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JR東日本 |
JR西日本 |
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2005年度 |
2006年度 |
増減 |
対前年比 |
2005年度 |
2006年度 |
増減 |
対前年比 |
営業収益 |
25,923 |
26,573 |
649 |
102.5 |
12,400 |
12,629 |
228 |
101.8 |
営業費用 |
21,962 |
22,292 |
329 |
101.5 |
11,048 |
11,275 |
227 |
102.1 |
営業利益 |
3,960 |
4,280 |
319 |
108.1 |
1,352 |
1,353 |
1 |
100.1 |
経常利益 |
2,746 |
3,000 |
253 |
109.2 |
1,021 |
1,041 |
19 |
101.9 |
当期利益 |
1,575 |
1,758 |
182 |
111.6 |
465 |
567 |
102 |
122.1 |
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(出所)「JRガゼット」2007年7月号より
<資料5-4> JR東日本、JR西日本の所有株式数比率 (2006年度)
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JR東日本 |
JR西日本 |
金融機関は |
金融機関 |
46.31% |
41.20% |
日本トラスティ・サービス信託銀行(大和・住友・三井など)、日本マスタートラスト信託銀行(三菱・日本生命など)、みずほコーポレート銀行、三井住友銀行、住友信託銀行、日本生命、第一生命など |
証券会社 |
1.51% |
1.08% |
外国法人など |
29.79% |
33.89% |
その他の法人 |
5.27% |
6.07% |
個人その他 |
17.12% |
17.76% |
(出所)JR東日本、JR西日本ホームページより
<資料5-5> 北陸新幹線と固定資産税
「新幹線の建設費用は国が3分2、地方が3分の1の負担をします。この地方負担の90%に地方債を充て、20年から30年かけて返済します。その返済額の半分について国の交付税措置があるため、地方の実質負担は建設費用の約18%となります。新幹線が整備されると、固定資産税など地方税の増加や経済波及効果などにより、実質的な地方負担の軽減につながります」 (出所)福井県・グラフ フクイ「福井の未来のために」2003年7月号より
<資料5-6> JR20年と第三セクター鉄道
◆「巨額の赤字は旧国鉄精算事業団に切り離し、最終的には一般財源にツケ回しして国民負担に転嫁した。土地からレール、駅舎、立地に至るまで、すべては社会的共通資本として、国鉄発祥の時から最優遇条件で国民が与えた有形、無形の公共財だ。それを、民営化後は思いのまま利益追求の手段として駆使できる」
(注)長期債務は、国鉄「分割・民営化」後、土地・建物、株式を売却したが約25.5兆円が、約28.3兆円に増加している。 (出所)建交労理論集2005年NO.27より(2005年5月2日付「河北新報」、内橋克人)
<資料5-7> JR20年と第3セクター鉄道・並行在来線
「これからのJRを考えたとき、地域交通をいかに維持していくか、それにJRがいかに関わっていくべきかが大きな問題なっている。・・・地方交通線の大幅な整理がなければ民営化は困難を来したに違いない。そう考えれば、国鉄改革の一環であると考えるのが素直だろう。そうしたとき、ごく一部を除いて赤字経営に苦しみ、展望が拓けない第三セクター鉄道の問題をどのように解決していくべきかについて、今回改めて検討を行う必要がある。既に民営化後もいくつかのJRの路線は廃止され、過疎化の進展でさらにこれが進むことが予想され、また、新幹線の延長に伴ってさらに第三セクター鉄道が生まれていくとなれば、なおさらのことである。誤解のないようにつけ加えておくならば、なにもJR自身が直接手を出すべきだと言っているわけではない。JRも含めてその地域の関係者が、これからの地域交通の在り方を考えるべきだということである。JR発足時には、地域密着経営ということが唱えられた。もちろん、今日でもその理念に変更があるはずがない。とするならば、民間企業として、そうした社会的な問題にいかに関わっていけるか、また、いくべきかについて知恵を絞ることも必要だろう」
(出所)「改革モデルとしての国鉄改革」並河信乃、「運輸と経済」2007年4月号
<資料5-8> JR20年とマスコミの報道
〇「公共交通機関の中核だったローカル線は廃止・縮小が続いている。過疎化や景気低迷に拍車をかけた。JR各社は国民や地域の痛みの上に今日があることをしっかりと自覚すべきである」
(出所)中日新聞・社説、2007年4月7日付
〇「各地の新幹線は在来線の特急時代に比べ、大幅な乗客増を記録、民営化したJRの経営は新幹線重視へと傾斜する。その一方で、新幹線の新たな路線延長では並行在来線運営の地元への移行などでJR側への政治的な配慮が働く。田中辰雄・慶応大助教授(計量経済学)は「並行在来線の運営をしている地元の負担は重い。全国の鉄道網維持という観点から、負担のあり方を見直すべきだ」と指摘する。」
(出所)「読売新聞」、連載JR20年(2)絶望の危機、並行在来線、2007年3月8日付
<資料5-9> 国の地方鉄道に対する補助制度
(出所)国土交通省鉄道局「第1回ネットワーク・サービス小委員会検討資料」(2007年4月27日)
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