【3】 将来も安定的な経営形態のために(U)━上下分離方式の鉄道へ
<資料3-1> 国が明確した“鉄道の原点は極めて重要な社会的資本”
「鉄道は、公共交通機関として国民の日常生活を支えるとともに、地域の交通利便性の飛躍的向上等の地域社会の変革や大規模な空間の効率的占有を通じて、国土構造や都市構造のあり方等をも規定する、わが国社会経済活動にとって極めて重要な社会的資本である」
「今後の鉄道整備については、適切な水準の利用者負担を引き続き求めるという基本はいささかもかわるところはないものの、鉄道が極めて重要な社会的資本であるという原点に今一度立ち返って、必要な整備を円滑に推進する観点から、民間鉄道事業者による整備が期待しがたい場合においてはその範囲内で公的主体(国及び地方公共団体)がこれを補完するため、適切にその役割を果たすことが求められている。この点は、今後とも民営化の進展など民間鉄道事業者主導による整備が基本であるだけに、今後の鉄道整備にあたっての重要な政策課題となっている。」
(出所)運輸政策審議会答申第19号「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道の円滑化方策について −新世紀の鉄道整備の具体化に向けて−(答申)」、2000年(平成12年)8月1日
<資料3-2> 「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策について−新世紀の鉄道整 備の具体化に向けて−」(運輸政策審議会答申第19号) (4)整備の方式に関する基本的考え方
○(3)に述べた現行支援制度の見直しにあたっての基本的考え方を踏まえ、民間主導により鉄道整備を推進することを基本としつつも、政策的に特に重要なプロジェクトについては、公的主体が適切に民間鉄道事業者の役割を補完するため、現行の、第三セクターに対する補助等を通じた支援という形で積極的に関与する方式も必要に応じ活用することが必要である。
また、公的主体の主導性がより強いものとして、地方公営企業による第一種鉄道事業としての鉄道整備は、引き続き有効な方式と考えられる。
○ただし、以上のような整備の方式や民間鉄道事業者に対する支援方策の見直しだけでは整備が困難な場合には、公的主体等がインフラを整備し、運行は運行事業者が効率的に行う「上下分離方式」も、整備の方式として検討する必要がある。
このように、ここでは、運行事業者とインフラの整備主体とが原則として別人格であって、インフラの整備に公的主体が関与する場合を、広く上下分離方式と呼称することとする。
○上下分離方式は、インフラ整備の財源等に着目して理念的に大別すれば次の二方式に整理されるが、公的支援のあり方という点から見ると実質的には連続的なものとも考えられる。
・ 「償還型上下分離方式」
公的主体等が整備したインフラを運行事業者との契約等により有償で貸し付けること等により、最終的には、整備に要する資本費の全部又は一部は運行事業者や利用者において負担
・ 「公設型上下分離方式」
公的主体自らの財源によりインフラを整備・保有し、運行事業者を確保した上で、これを一定の考え方に基づき運行事業者に対して貸し付け
○上下分離方式の特徴は、概ね次の通りである。
・都市整備との連携や整合性を確保しつつ、鉄道整備を推進することが可能
・民間鉄道事業者に対してインフラ部分を開放するとともに、民間鉄道事業者をインフラ整備に係る過重な資本費負担や建設リスクから解放ないし軽減することが可能
・また、これにより、特に新線建設等の場合には、効率的な経営が期待できる民間鉄道事業者の参入や運行事業に関する競争促進が可能。これに関連して、競争的な参入等にあたっての適切なルールづくりや安定的な運行事業者の確保が必要
・反面、運行事業者とインフラの整備主体とが原則として別人格であるため、インフラ整備にあたり、収支採算性や効率的な経営の確保の観点から見て過大な設備投資が行われるおそれ。このため、安定的な運行事業者の確保が前提であり、運行事業者の経営判断に基づく安定的な運行の確保が、インフラの整備に先立って確認されることが不可欠
・また、安易な投資を誘発しないよう、整備の費用対効果、整備財源、運賃水準、輸送需要の低迷等に対する対処のあり方等に関する住民等に対する情報公開や住民意思の確認が、とりわけ重要
・インフラの整備主体と運行事業者との間の意思疎通が円滑に行われなかったり、利害が相反するおそれ。このため、インフラの整備主体と運行事業者との間の役割分担について、予め可能な限り詳細に取り決めておくことが必要。とりわけ、安全管理や保安対策に関わる事項の役割分担については、これが両者共通の明確な了解事項となるよう、特に留意することが必要
・関係鉄道事業者が相互に運行する際の線路使用料の徴収や、整備主体に対する受益に応じた関係者の出資等を介して、関係者間の利害を調整することが可能。ただし、利害の適切な計測自体困難なものがある中で、関係鉄道事業者間や関係地方公共団体間の合意をいかに円滑に確保するかが課題(注)
(注)大都市圏など既に高密度の鉄道ネットワークが形成されている地域においては、新線建設を行った場合、近傍既存鉄道事業者の側から見ると、これが並行路線や接続路線、交差路線等の整備となり、自社の旅客流出による減収が生じる反面、いわば反射的利益として旅客の増加により増収となる鉄道事業者が発生する可能性や、通勤・通学流動等の広域化に伴い、鉄道が整備される地域と、通勤・通学者等が居住することから実質的に当該地域の住民が受益することとなる地域との間にミスマッチが生じる可能性が高い。これらの多数かつ複雑な利害調整の必要性は、それ自体、円滑な鉄道整備の推進にあたって重大な阻害要因となるものであるが、上下分離方式は、このような利害調整を行う上での有効なバッファーとして機能させることが可能と考えられる。
<資料3-3> 第三セクター鉄道と貨物線路使用料
|
|
収入総額 |
線路使用料 |
収入に占める線路使用料(%) |
青い森鉄道 |
8億786万円 |
3億6,023万円 |
44.59% |
IGRいわて銀河鉄道 |
35億6,120万円 |
18億6,080万円 |
52.25% |
|
(注)青い森鉄道の線路使用料はJR貨物。IGRいわて銀河鉄道の線路使用料は「寝台特急収入・鉄道線路使用料」を含む。
(出所)公共交通をよくする富山の会が2006年5月、青森県とIGRいわて銀河鉄道を視察・調査した際に入手した資料より作成
<資料3-4> 北陸信越の地方鉄道
@北陸信越の地方鉄道の概況
|
|
営業キロ
(q) |
輸送人員
(千人) |
輸送密度
(人/1日) |
営業収益
(千円) |
営業費用
(千円) |
全事業経常損益(千円) |
職員数
( 人) |
資本金
(百万円) |
北越急行 |
59.5 |
3,262 |
7,252 |
3,805,094 |
2,978,560 |
933,841 |
95 |
4,568 |
長野電鉄 |
57.6 |
8,619 |
3,782 |
2,265,980 |
2,288,992 |
16,853 |
159 |
495 |
上田交通 |
11.6 |
1,240 |
1,567 |
272,415 |
293,242 |
△10,902 |
39 |
160 |
松本電気鉄道 |
14.4 |
1,297 |
1,935 |
346,216 |
367,105 |
148,829 |
30 |
432 |
富山地方鉄道 ※ |
99.6 |
8,816 |
1,309 |
2,059,920 |
2,052,160 |
249,431 |
205 |
1,557 |
のと鉄道 |
94.1 |
1,616 |
766 |
427,061 |
609,734 |
△112,402 |
66 |
450 |
北陸鉄道 |
22.7 |
2,819 |
2,159 |
594,273 |
604,263 |
137,213 |
42 |
1,814 |
福井鉄道 ※ |
21.4 |
1,621 |
2,142 |
379,863 |
476,335 |
△302,765 |
61 |
370 |
えちぜん鉄道 |
53.0 |
2,425 |
1,438 |
665,964 |
1,031,609 |
△346,748 |
162 |
537 |
|
※は軌道を含む鉄道 (出所)「数字でみる鉄道2006」運輸政策研究機構
A氷見線、城端線の輸送密度 (2006年度)
|
氷見線 |
3,022(人/日) |
城端線 |
4,072(人/日) |
|
(出所)「城端・氷見線活性化推進協議会」総会の資料、2007年5月17日
<資料3-5> 北陸本線を走行する貨物列車の重量等
・機関車重量 EF510:100.8t、EF81:100.8t
・貨物列車総重量 機関車(100.8t)+コンテナ貨物(荷重40.5t+自重18.7t=59.2t×20両)=1,284t
・編成長 機関車(EF510:19.8m、EF81:18.6m)+コンテナ車(20.4×20両=408m)=427.8m(426.6m)
|