並行在来線の経営の基本方針(素案)に対する「質問」と富山県の「回答」
 
 公共交通をよくする富山の会は2011年4月5日、富山県知事宛に「並行在来線の経営の基本方針(素案)に対する質問」を提出しました。4月13日付で県知事政策局総合交通政策室より「回答」が届けられましたので、「質問」と「回答」の全文を紹介します。        「質問」の全文(PDF)
質問の前文
 
2月23日貴職は、並行在来線対策協議会・専門委員会としての「並行在来線の経営の基本方針」(素案)を発表されました。
 私たちは、利用者・住民の立場から将来も維持可能な北陸本線を目指して、2002年11月「孫ひ孫の時代に暮らしに便利な北陸本線のための提言」、2006年10月「北陸ならではの創造的な並行在来線・北陸線のために」、2007年8月「暮らしと地域産業を支え、地球環境に役立つサスティナブル・トレーンへの提言(北信越5県第1次提言案)」、2010年2月「将来も維持可能な並行在来線・北陸本線のために−JRの社会的責任と国の役割を求める提言−」を行ってまいりました。
 さらに毎年のように“県民の討論の場”を提供することを目的に、並行在来線問題に関するシンポジウムを開催してきました。貴職からもパネリストを派遣して頂いたこともあります。
 2月17日には、私たち公共交通をよくする富山の会が参加する北陸新幹線・並行在来線問題連絡会が貴職に、「孫ひ孫の時代にも維持可能な並行在来線を実現するための申し入れ」を行ったところです。このように私たちは、時々に「提言」などを行ってきたものとして、「経営の基本方針」には重大な関心を寄せています。
 公共交通の基幹鉄道である北陸本線のJRからの分離について、貴職のこれまでの取り組み、調査や試算などは他県と比べても先進的なものがあると考えています。そこで、これまでに示されてきた検討内容や諸試算、調査などを踏まえると、いくつもの疑問がでてきます。
そこで、下記の諸点について質問します。文書で、ご回答ください。
質 問  (「検討の前提」として) 県の回答
質問@ 「地域で維持が基本」を「前提」にするのは?
 富山県を縦断する北陸本線は、県内公共交通の基幹鉄道であるとともに、日本海側の旅客輸送・貨物輸送の動脈です。北陸本線は、今回の東日本大震災からも国土政策として旅客輸送、鉄道貨物輸送の重要な基幹鉄道であることが明らかになったといえます。
 「経営の基本方針」(素案)は、「検討の前提」として、並行在来線は「地域の足(地域公共交通)として地域で維持が基本」としていますが、「地域で維持が基本」とする根拠はどこにあるのですか。
 また、なぜ、「地域で維持が基本」としなければらないのですか。
回答 並行在来線のJRからの経営分離については、平成2年の政府与党申合せに基づき、本県も北陸新幹線の実現のための同意をしたものであるが、その際に「経営分離されることになる並行在来線については、地域住民の通勤、通学の足を確保するため、関係市町村、経済界等の協力を得ながら、県が責任をもって存続を図る」(H13.4並行在来線に対する県の方針)こととしたところである。
質問A 「貸付料」活用など国の支援策を具体的に明記しないのは?
 並行在来線を受け継いだ第三セクター鉄道の経営は極めて厳しいものとなっています。このことは、昨年10月27日の11県並行在来線関係道県協議会の国への要望でも示されています。また、国も認めています。この現状のもとで、県知事は、整備新幹線「貸付料」の活用について国に提言もされてきました。沿線県でも、並行在来線の経営安定や大規模修繕などに活用することなどが提案されています。これまでも試算などのなかに「線路使用料の引き上げ」や「税制上の優遇措置」などが具体的に掲げられてきました。
 北陸新幹線開業までおよそ4年間あります。新たな運営会社の準備を開始するにしても、「政府・与党合意」の枠組みの見直しとともに、「貸付料」活用などが具体的に明記されていないのはなぜですか。
 
回答 今回の素案は、並行在来線(北陸本線県内区間)の運行形態、運行計画、組織・施設など経営の基本となる方針を示すものである。この検討と並行して、並行在来線を維持可能とする仕組みとして、これまでの枠組みの見直しや、貸付料の活用など新たな支援策を国に要望しているところである。貸付料の活用など新たな支援策については、今後とも、県議会、関係県、経済界とも連携を図りながら、政府等に働きかけてまいりたい。


 
質問B なぜ、開業に遅れてはいけないのか?
 「経営の基本方針」(素案)は、「開業に遅れることのないよう準備を進めることが必要」として、これを「前提」にしています。つまり、2015年春までに新たな運営会社を発足させるということですが、なぜ、「遅れたらダメ」なのですか。
 技術的にはJR指令など現行の施設・設備の活用は可能です。さらに、将来的に安定的な経営の見通しが保証されない状況のもとで“発車のベルを押す”ことになります。知事は、“敦賀まで北陸新幹線が開業するまではJRで”などと述べてきた経過もあります。
JRから経営分離される意図や、先行する第三セクター鉄道の現状から見ると、「健全な経営確保」は至難です。少なくとも経営安定の見通しが立つまで、JR経営としてもよいのではありませんか。


 
回答 並行在来線のJRからの経営分離については、平成2年の政府与党申合せに基づき、本県も北陸新幹線の実現のため同意したものであるが、本県区間についても厳しい収支が見込まれることから、並行在来線の経営安定のため、国に対して従来の枠組みの再検証や見直しが必要であることを訴えている。しかしながら、この枠組みの見直しについて国やJRが合意に至っていない以上、本県としては、県民の通勤、通学の足を守るため、開業が遅れることがないよう準備を進める必要があると考えている。
質問C 通勤・通学者の参加での検討がないのは?
 今後、県は「経営計画概要の策定」に向かうことになるとしています。県の並行在来線対策協議会は、県と全市町村、経済団体で構成され検討されてきました。「経営の基本方針」(素案)は、この体制のまま、「経営計画概要の策定」作業に入るお考えなのでしょうか。
 なぜ、利用者、つまり通勤者や通学者などの一般県民代表を加えた検討体制を計画されないのですか。




 
回答 これまでも並行在来線対策協議会の調査・検討内容等を県のホームページに掲載しているほか、幹事会において、市町村や各経済団体のほか県婦人会や県高等学校PTA連合会、さらには自治会連合会などのご意見を伺いながら進めてきている。
 現在も素案についてパブリックコメントを実施しているが、今後もパブリックコメントなど県民の皆様から幅広くご意見を伺う機会を設けて検討を進めてまいりたい。
質 問 (「運行形態の検討」に関して) 県の回答
質問D 隣県との合同会社について協議したことはあるのか?
 「経営の基本方針」(素案)は、運行形態として「隣県との合同会社」と「富山県単独会社」の二つに大別し、県単独の第三セクター会社を設立する方向で検討するとしています。
 長野県、新潟県、石川県のそれぞれが県単独の会社を設立することにしていますが、「隣県との合同会社」を設立することについて、また運営会社のあり方について富山県は、各県と協議したことはあるのですか、ないのですか。また、他県から“協議”のための要請などはあったのですか。
 “協議”があったとすれば、いつ、どのような内容でしたか。
回答 これまでも、沿線県が連携して、部長級や課長級の協議を進めており、今後とも開業に向けた準備が遅れることがないように着実に協議を進めてまいりたい。




 
質問E なぜ、運営会社の方向は、「二者択一」しかないのか?
 「経営の基本方針」(素案)は、「大きく2つの考え方がある」として、「隣県との合同会社」と「富山県単独会社」をあげ、それぞれの「メリット」「デメリット(課題)」をあげて比較しています。
 北陸本線の線路容量を考えれば、普通列車の利便性を格段に高めることはできます。「県単独会社」であれば“地元密着型”の鉄道ができる、「隣県との合同会社」であればそれができない、というものではありません。また、「県単独会社」でも各県をまたぐ直通列車の運行など、運行の一体化は可能ですが、「隣県との合同会社」の方が運営上容易なのではないでしょうか。
 確かに、県ごとの輸送密度に違いはありますが、それだけに将来に渡って鉄道を公共交通機関の基軸として活かすために各県単位の会社の上に持ち株会社的な発想で会社をつくることもできるのではありませんか。
 肥薩おれんじ鉄道は、熊本県・鹿児島県をつなぐ鉄道ですが、富山県が「県単独会社」とする方向を出すに当たって、どのような教訓(地元密着のダイヤ編成や意思疎通を阻害する問題など)をつかんでおられるのですか。
 さらに、なぜ、経営形態を2つに大別し、「メリット」「デメリット」として、単純に2者択一的な方法をとるのですか。
回答 運行形態の検討にあたっては、各県区間の線路距離、駅数、輸送密度、運行本数のほか、通勤通学など県民生活の利便性の確保、経営方針に関する意思決定の迅速性、各県の地域的課題や経営支援への県民の理解の観点などから比較し、先行事例も参考にしながら検討することが適当ではないかと考えている。









 
質問F 「メリット」、「デメリット(課題)」などで示されている考え方の内容と根拠は?
 「経営の基本方針」(素案)では、第三セクター会社の運行形態についてメリット、デメリット等が指摘されています。しかしながら、その中には内容がはっきりしないものや、根拠が明らかでないものが含まれいるように思います。以下に列挙しますので、それぞれが示す内容や根拠を明らかにして下さい。
1.運行面において「地元密着」と言う表現が使われていますが、ここで言う「地元」とはどこを指すのですか。また、「密着」とは具体的にどのような状態を表しているのですか。
2.組織・施設面において、「身の丈にあったコンパクトな」と言う表現が使われていますが、「身の丈」とは何を示しているのですか。また、「コンパクトな」とは具体的にどのような状態を表しているの
ですか。
3.県単独会社なら「経営方針に関する意思決定が迅速にできる」とされていますが、経営方針の迅速化はガバナンスの問題であって、「県単独会社か、隣県との合同会社か」とは直接関係がないのではありませんか。なぜ、県単独会社なら「経営方針に関する意思決定が迅速にできる」と判断できるのですか。
4.県単独会社なら「県民の理解が得やすい」とされていますが、県民は隣県との交流に無関心であるとは思えません。なぜ、県単独会社なら「県民の理解が得やすい」と判断できるのですか。
回答
・「地域に密着したダイヤ」とは、県内利用者による日常の通勤・通学等の利便性を重視したダイヤなどを想定している。
・「身の丈にあったコンパクトな組織」とは、普通列車主体の運行の態様に即応した規模の組織や要員などを想定している。
・各県区間の路線距離、駅数、輸送密度、運行本数が大きく異なっており、単独会社の方が、運行本数や運賃水準、設備投資など経営に関する「意思決定が迅速」に行えるのではないかと考えている。
・各県それぞれに地域的課題があり、区間収入にも差があることから、合同会社に比べて単独会社の方が、その課題解決や運営支援に県民の理解が得られやすいのではないかと考えている。
 
質問G 根拠も示さず「上下一体方式」としたのは?
 「経営の基本方針」(素案)は、県単独会社は、運行と線路などを一体とする「上下一体方式」を検討するとしています。しかし、富山県は、これまで上下分離方式を含めた運営会社についても検討し、7パターンでの試算も公表してきました。
 上下分離方式については、下の鉄道施設を自治体などが持つことや、資本だけを持つことなど、上下分離ついても様々な形態があります。それぞれについて検討されたのでしょうか。
 今回、何の根拠付けもなく、これまでの検討や試算にふれることもなく、なぜ、上下一体方式のメリットを活かすとしているのですか。
 上下分離方式で運営する青い森鉄道からどのような教訓を学んで、上下分離としないとしたのですか。

 
回答 運行形態については、初期投資等に係る公的支援を想定しつつ、運営会社が鉄道運営全体に経営責任を持ち、公的支援と利用者負担のバランスをとりながら、不断の経営努力により経営改善を図る仕組みが適当ではないかと考えられることから、上下一体方式とする方向として、他の方式とも比較しつつ総合的に検討を進めることとしている。同時に、なるべく並行在来線の経営を上下含めて総合的に捉えることで、並行在来線の更なる経営支援策を国に求めていきたいと考えている。
質問H 運賃について考え方も記載されていないのは?
 「経営の基本方針」(素案)には、運賃がどのようになるのか、どのような方向にすすむのかも記載されていません。並行在来線を受け継いだ第三セクターはすべて運賃値上げとなっており、通学定期などに激変緩和措置をとった会社もあります。値上げは当然のこととして記載がないのですか。それとも、運賃はJR運賃の水準を維持するという方針ですか。
 確かに、国の支援がどのようになるのか、JRの施設・設備の譲渡は簿価か無償か、要員配置数などによっても運賃をどのように決めるかは左右されます。しかし、県はこれまで、開業時JR運賃の1.25倍、10年後にさらに1.25倍の値上げをしなくてはならないとの試算をしてきました。この試算は、どこへいってしまったのでしょうか。
 また、運賃について何の記述も、考え方についても示されていないのはなぜですか。更に、「隣県との合同会社」の体制では広域運行となって「運賃設定が難しい」とされていますが、なぜ難しいのですか。
 
回答 今回の素案は、これまでの調査内容を踏まえ、並行在来線の運行体制の基本方針を示したものであり、今後、この基本方針を元に収支予測を改めて精査し、運賃水準等を含む経営面の課題を検討することにしている。
 また、各県区間の路線距離、駅数、輸送密度、運行本数等が大きく異なることから、合同会社では、回答 運賃水準等の迅速な決定は難しいものがあるのではないかと考えている。




 
質問I JR指令システムの共同使用はなぜできないのか?
 指令システムと車両について、これまでの検討や試算などでは、「JR指令システムの共同使用」や、現行JR車両の無償譲渡または極めて低額の買い取りなどが検討されてきました。
 しかし、「経営の基本方針」(素案)は、指令システムは「単独のシステムを構築」、車両は「2両ユニットの新型車の導入」の方向で検討するとしています。これまでの検討や試算などを踏まえ、どのような経過があって「単独のシステム構築」「新車両購入」が導き出されたのか不明です。
 JR西日本は、現行のJR指令システムの共同使用や車両の無償譲渡または低価格の買い取りを拒否したのですか。それとも、これまでの検討や試算などはまったく考慮されなかったのですか。




 
回答 指令システムについては、運営会社が整備するのが基本であり、普通列車主体の運行に即応した単独システムを構築する方向で検討することが適当ではないかと考えている。なお、素案に記載しているが、開業時は、JR施設を暫定使用し、安全な運行を確保しつつ新システムへの円滑な移行を図ることが適当ではないかと考えている。
 また、車両を含むJR施設設備の譲渡や整備修繕についても、素案に記載があるようにJR西日本等の協力、支援を得ながら開業に遅れることがないよう検討を進めことが必要ではないかと考えている。
質問J 在来特急乗り入れについて考え方が記載されていないのは?
 「経営の基本方針」(素案)では、在来特急の利用者は全て新幹線に移るとの前提が記されています。従って、大阪・名古屋方面や新潟方面からの在来特急の乗り入れについて、全く考え方が示されていません。なぜ、考え方を示さないのですか。
 あるいは経営計画から「在来特急の乗り入れ」は、もはや排除されているのですか。まだ排除されていないのであれば、JRにどのような働きかけを行っているのですか。
回答 素案では、運用計画については、「新幹線や在来特急の運行見通しも踏まえて、快速列車の運行の要否を検討することが適当」としており、特急の運行見通しも踏まえ、今後、検討していくことが必要ではないかと考えている。