北陸新幹線建設で北陸本線は どうなる どうする
2004年5月29日 富山市・安田明治生命ビル
今日、司会をさせていただきます、世話人で事務局の大西です。よろしくおねがいします。(拍手)
私どものこの会は、長い名前ですが「北陸線・ローカル線の存続と公共交通をよくする富山の会」、略称「公共交通をよくする富山の会」ということで、3年前の6月に発足をしてまる3年になります。今年もみなさんといっしょに、北陸新幹線と公共交通はどうなるんだろう、あるいは、富山港線問題が富山では話題になっております。私たちは、みんなで考えながら、本当に、北陸の公共交通を守ろう、富山県の公共交通をどうしていくのか、こんなことについていっしょに勉強しながら、自治体などにもいろいろ提言してきたところであります。今日もそういうことで、みなさんといっしょに考えて、みなさんといっしょに公共交通を守るために、みなさんの声を聞いて、生かしていきたい。こんなことではじめますので、よろしくお願いをいたします。それじゃ、さっそく、開会のあいさつを代表世話人であります奥田先生からお願いいたします。
奥田淳爾代表世話人(元洗足学園短大教授)
今日は、天気予報の大変悪いなか、安倍先生を招いての講演会を開いたところ、たくさんのみなさんに出席していただいて、関係者一同大変喜んでおります。まもなく、北陸新幹線が富山にやってきます。北陸新幹線の建設に向けて、まず、昭和43年、1968年に、北回り新幹線建設促進同盟が結成されました。そのときの知事は、吉田実氏であったと思います。その後、北回り新幹線建設促進同盟会は、北陸新幹線建設促進同盟会と改称され、昭和48年には、整備新幹線計画に北陸新幹線がくみこまれました。富山県民は、新幹線について、熱い期待をもち、県政への要望は、その建設がずっとトップでした。しかし、オイルショック以後、整備新幹線計画は二度凍結され、そして、新幹線が開業されると、並行在来線からJRが手を引くという仕組みができあがってまいりました。高速の新幹線が来ることは、本来ならおおいに喜ぶべきことなのですが、在来線の不安が高まり、数年前、国労の調査では、新幹線反対の声が賛成の声を上回るようにまでなりました。
今日、資料をいただいて、これを読みながら、二年前に私は、青森の、三内丸山遺跡に行ってきたことを思い出しました。その日、私の行った日、東北新幹線は、橋の上までのびてきました。その日の、ローカルニュースでは、県民の声が伝えられたわけですが、「伸びてきたぞ」という喜びよりも、青森鉄道に対する不満・不安の声が圧倒的に多かったことを思い出します。ともあれ、新幹線はやってきます。安倍先生から今日は、講演をいただくわけですが、先生はこれに先立ち、県内各地の視察をしておられます。今日、先生からお話を伺い、私たちの今後の活動のためのエネルギーをいただけたら幸せだと思います。今日はよろしくお願いします。(拍手)
司会 それでは、続きまして、みなさんの手元に、「自治体アンケートのまとめ」というものが入っていると思います。私ども、この会は今日に向けて、県内36自治体すべてにアンケートをお願いして、回答をいただきました。これらについて若干まとめたものがありますので、世話人の岡本さんから報告をしていただきたいと思います。よろしくお願いします。
岡本勝規世話人(富山商船高専講師)
今日はお集まりいただきありがとうございます。「公共交通をよくする富山の会」の世話人兼事務局をさせていただいております、富山商船高専講師の岡本勝規ともうします。 今日は、安倍先生のご講演に先立ちまして15分ほど、このご講演にあわせて私どもの会が行いました、公共交通政策についての自治体アンケートに関しての結果をご報告させていただきます。
みなさんのお手もとのほうに、一覧表、表の形式になっているこういうB4の大きな紙と、それとB4の1枚ぺらっとなっている、こういう「とりまとめ」と書いた紙があるかと思います。これ、2種類あります。こっちのほうが要するに集計データで、こっちの方がその概要、こちらの1枚ものの方が概要を示しています。この概要が書いてあるほうを中心にお話しさせていただきます。こちらのほうは生データでございますので、これを目で追っていくと大変ですから、とりあえず、こちらの方を中心にお話しさせていただきます。アンケートの概要につきましてはですね、最初に書いてある通りでございます。36、県も含めましてですね、36自治体ですね、県が一つ、市町村が35のうち、16の自治体、県が一つ、市町村が15、ご回答をお寄せくださいました。そのうち、また、一つの自治体はご回答というわけじゃなくて、ちょっと役場を訪問させていただいた際に、うかがったことを記させていただきました。それでは、だいたい、アンケートの概要を申し上げます。大きく分けて、全部で7つほど概要がございます。
過去数年の公共交通活性化へ向けた自治体の動き、ないしは2001年度に似たような調査をさせていただいておりますから、その比較、それから新幹線の問題、それから合併に対応した動きなどでございます。まず最初に、過去数年、ここ数年のところの公共交通活性化に向けた県内自治体の動きから見出される特徴的な施策というものなんですけど、だいたい5つくらいございました。1、2、3、4、5と5つあります。
一つ目は富山地方鉄道、富山地鉄さんの鉄道線への近代化支援、そして2つ目には、やはりこれも大きいものでございますが、万葉線への経営支援、経営立ち上げの支援ですね。新幹線建設にあたっての富山港線の路面電車化への発想などにもつながっていくものでございます。そして、3つ目にはバス運行補助、これはコミュニティバス、公営バス会社、民間バスの運行の支援などです。そして4つ目にパーク・アンド・ライド実験、5つ目にマイカー抑制のキャンペーンですね。ノーマイカーデーの推進なんかに代表されるものです。これらの5つの施策が、各市町村でパラパラパラと散らばっておるわけでございます。けれども、いずれもですね、県の交通政策課などで取り組まれている枠組にほぼ収まっているような感じがいたします。
そして、引き続いて2001年時に、やはり同じような調査をさせていただきましたので、若干の視点で比較させていただきました。2つございます。一つはコミュニティバス。最近非常にあちこちで、活発な動きが見られていると考えられるコミュニティバスの運行状況でございますけれども、2004年度、今年度に調査させていただいたものと、2001年に調査させていただいたものを比較をさせていただきました。運行している自治体は2004年が10に対して、2001年が9ですから、数字だけ見ますと1自治体増えたという感じでございます。ですが、2001年の調査のときにご回答をお寄せくださった自治体のうち、3つの自治体から今回ご回答がいただけませんでしたので、調べてみましたら、お寄せいただけなかった自治体のほうでもいまだに運行してるということでした。ですので、実質的には4つ増えたような感じであります。どこらへんが増えているのかと申しますと、富山市であるとか、高岡市であるとか、あるいは新湊市、魚津市などで新たな運行が開始されているという状況でございます。
また、投じられた予算額ですね、おいくらかかりましたかという。これは、公共交通の活性化に関して、どれくらいのご予算をかけてしまわれましたかというような質問で、ご回答を寄せられたものを単純にこう計算したもので、県の予算を2000年度の時に含んでいなかったり、あるいは県の予算を二重に計算してしまっているきらいもあったりということで、少しですね、ざっくりとした数字で恐縮ではございますけども、これを見ていただきますと、2000年度よりはより多くの予算が振り向けられているような感じでございます。とくに力が入れられているのは、バスの運行支援の部分が、大変力を入れられているというふうに見うけられます。
それじゃあ、左側のほうをこれでおしまいにしまして、右側のほうをご覧ください。新幹線にからんでですね、いくつかのアンケートをさせていただきました。一つは新幹線の開通というものを睨んで、どのような町づくり構想をお持ちかというような、質問でございます。もう一つは新幹線開通ということでですね、予定されている並行在来線のJRからの経営分離、という問題に対して、どのような見解、希望であるとか、施策をお持ちでございますかという質問でございます。
まず、まちづくりのほうですね、開通を睨んでどんなまちづくりをなさっているのかということです。特徴的なものをざっとあげてみました。例えば、富山市におかれましては、富山駅南北一体化事業、富山港線路面電車化事業とかですね、高岡市におかれましては、新高岡駅の周辺整備事業などがあげられております。基本的に新幹線の駅の周辺整備というものに力が注がれておりまして、したがって、駅ができる予定の自治体で施策が目立ち、それ以外の自治体ではあまりちょっと目立たないと。小杉町さんから寄せられた、在来線のパターンダイヤ化を年頭に、鉄道、民営バス、コミュニティバスと組み合わせた都市交通体系の構築というのがあったんですけども、これを機会に町内の交通体系を見直そうというようなご姿勢かと思います。これがちょっとおもしろいところかなと思いました。
それからですね、並行在来線の経営分離問題に対する県の見解というのも、県の土木部新幹線建設課からですね、ご回答いただきまして、それをざっとまとめました。経営分離された並行在来線に関して、県の見解と申しますのは、主として4つございまして、一つは、県が責任を持って存続をはかる、2つ目には、経営主体については、関係市町村と協議の上決める、3つ目に、関係市町村の財政負担については過大とならないように配慮する。4つ目に運行形態については、沿線住民の意向を踏まえるというご回答でございました。また、これも重要なところでございますけども、国などに対しまして、経営分離された並行在来線の経営を成り立たせるための特別な財政支援措置を講ずるように働きかけるとのご回答もいただいております。これが県の見解というふうに考えられます。
これに対しまして沿線市町村ですね、経営分離が考えられている並行在来線の沿線市町村の側の見解というものを、特徴的なのを3つあげました。すいません、1、2、6となっていますが、これ、あやまりです。1、2、3の誤りですね。3つ、ございます。一つは財政負担の面ですね。その並行在来線が県のものにされることによって、財政負担を軽減していただきたいということ。2つ目には、3セク化には責任もってほしい、財政負担の部分にも通ずるものがあると思いますが、第3セクター化には県が責任を持ってほしいということ。そして3つ目には利便性への不安ですね。利便性を維持するために、十分な協議が必要であるとか、乗り継ぎのことを考えてほしい。本数を減らすことはさけてほしいなどです。ようするに財政負担の部分に不安を感じ、利便性が損なわれることに不安を感じているというようなアウトラインが描けると思います。財政負担軽減の要望というのは、これは新幹線に限らず、公営の公共交通サービス、バスの運行支援などに対する負担にも財政負担の軽減要望みたいなのがございますので、公共交通政策全体に関わって各市町村さんからですね、県への要望として比較的多く見られる部分でございます。
そして引き続いて、昨今議論されております市町村合併の影響でございます。市町村合併した際に、すでに行われているコミュニティバスなりなんなり、公営の公共交通サービスはどうなってしまうんだろうということですが、いくつか合併で滞っているところもございますが、富山地域合併協議会などに参加している自治体さんのほうではどうも、そのまま、とりあえずは引き継がれるようでございます。その他特徴的な施策として最後に2つあげさせていただきました。公共交通の利用ポイント制度というのを城端町さんがおこなっておられる。冬期間の通勤客を公共交通にシフトさせていってはどうかと城端町さんの方が提案されています。この公共交通制度というのは、非常に面白い制度であると思いますし、商業施設へ車なんかで行きますと駐車場はタダなんですが、公共交通で行くとなにも特典がないというのもちょっとつまらない話なので、こういう公共交通を利用したらなにか特典があるというのはありがたい話しだなと思いました。
以上がだいたい自治体アンケートの取りまとめでございます。特に今日は新幹線もからんでのお話でございますので、このへんの動きということですね、県ないし市町村の動き、新幹線に絡んだ動きというものをぜひとも念頭に置かれた上で、このあとの安倍先生のご講演を聞いてくださればと思います。以上です。ありがとうございました。
司会
どうもありがとうございました。みなさんのお手もとに、各自治体からの回答、非常に細かい字になっておりますが、これまた、お持ち帰りいただいて、見ていただいて、いまの話とあわせてご参考にしていただきたいと思います。それでは、先ほどからあります、安部先生にこれからご講演をいただくわけでありますが、実は4月に今日のお話の前に北陸本線をずっといっしょに見てまわって、北陸本線、富山県の公共交通の実態を見ていただいた上で今日の話をしていただくということで4月に来ていただいて、今日までに準備をいただきました。みなさんのお手許にこういう資料が入っていると思いますから、これを見ながら参考にして、先生からのお話を聞いていただきたいと思います。先生の紹介は、私がするよりも、先生が直接お話されると思います。全国本当に公共交通問題での講演や運動に参加されている先生であります。どうか、これから1時間半くらいのお話になると思いますが、聞いていただいて、後ほど、終わった時点でご質問などを受けることにしたいと思います。みなさんのお手もとに質問用紙が入っておりますので、気付かれたこと、あるいは、今日は、こんなことを聞いておきたいということがございましたら、そこにメモをとっていただいて、受付や私どものほうにいただければ、お話の後にその質問にも答えていただくということではじめさせていただきたいと思います。それでは先生、よろしくお願いをいたします。
安部誠治先生(関西大学教授)
ご紹介いただきました安部です。お手許に簡単なレジュメを用意しましたが、スライドも別途作成してまいりましたので、スライドを使いながらお話ししていきます。
今日、私に与えられましたのは「整備新幹線と北陸本線の行方」というテーマです。北陸新幹線ができた場合に、在来線である北陸本線の方はどうなっていのか、それが今後の地域の発展にどういう影響を与えるのだろうかという問題です。
このテーマに入る前に、まず鉄道や交通をめぐる最近の動向について簡単にお話ししておきます。
今から20年近く前になりますが、1987年代に日本では国鉄の分割・民営化という大変大きな鉄道の政策転換がありました。日本の鉄道の民営化が起点になって、2年後の1989年にスウェーデンの政府が、日本のそれとは少し形が違いますが、国鉄の分割・民営化を行いました。それから、1990年代に入って、ドイツやフランス、イギリスなど鉄道の民営化、そして上下分離と呼ばれているインフラと営業を分離する改革を行う国が続きました。国有鉄道の経営が悪化したために、その経営建て直しのために鉄道改革が行われました。簡単にいえば、民営化と上下分離が1990年代の世界の鉄道政策を特徴付けた政策でした。
これと並んで1990年代の半ばから非常に顕著になってきたのは、鉄道の復権という状況です。鉄道をもう一度交通体系の中心に据えていこうという動きが世界的に起こってきました。鉄道復権の背景には、地球環境問題の深刻化があります。交通部門はエネルギーを大量に消費し、また大量に排ガスを出す部門です。いわゆる環境にやさしいということで鉄道が再評価されるようになったのです。今度の鉄道問題を考える場合、世界的な鉄道復権という状況を押さえておく必要があります。
次に、これからの日本の交通政策を考える場合、4つのファクターないしトレンドを考慮しておく必要があります。1つめは、21世紀は環境の時代ということです。今いいました地球環境問題がそうですが、地球環境問題を考慮しなければ交通政策は立案できない時代になっています。2つめは、人口減の時代にいかに対応するかという点です。実は、日本の人口は数年後にピークになりまして、それ以降は人口が減り始めます。人口減は、マーケットの縮小に直結するわけですから、大変大きな社会経済変化を生じさせます。3つめは、財政的制約です。人口減ということは、端的に言いますとお客さんの数が減るということですから、例えば鉄道会社やバス会社のお客さんが減って経営がしんどくなるということになります。国や自治体にとってみますと、税金を払ってもらえる住民の数が少なくなるということですから、財政的制約が非常に強まってくるということになります。ですから、2つめと3つめの問題は密接にからまっています。最後、4つめですが、生活の質、サービス水準というものが厳しく問われる時代になったという点です。今後の交通政策はこうした4つのファクターを重視しながら立案される必要があります。
世界の国々をみても交通政策は大きく転換されています。例えばイギリスですが、1997年に道路交通削減法という法律がつくられました。この法律は、環境問題を配慮して、道路上の自動車交通量を削減することを目的とした法律です。地方自治体に、道路交通量の削減目標つくらせて、うまくいった自治体には補助金をたくさん出すなどの奨励をするといった法律です。保守党に代わって1998年に労働党が政権に復帰した際に、新しい交通政策を出しました。最も考慮されている要素は環境です。1998年に出ました労働党の新交通政策を基礎に2000年になって向こう10年間の交通投資計画となる「トランスポート2010」、訳せば「交通2010」というんでしょうか、そういうものが決定されました。これによれば、今後10年間で160億ポンドの交通投資が実施されることになっているのですが、このうちの33%が鉄道部門にまわされることになっています。
日本では鉄道といいますと、人を運ぶものだと思われていますが、世界的には鉄道というのは実は貨物を運ぶものとイメージされています。日本のように貨物鉄道輸送がほとんど壊滅的な状態で、旅客輸送の分野で頑張っているという国は世界の中では少数派です。世界的には鉄道といえば主として貨物を運ぶものなのです。イギリスにおいても貨物鉄道輸送の比重は大きいものがあります。トラックから鉄道へ貨物輸送を転換してトラックの走行量を削減すれば環境改善への寄与率は大きいですから、「トランスポート2010」では、貨物輸送市場における現在の鉄道のシェア7%(トンベース)を2010年には10%にアップさせるという具体的な数値目標が掲げられています。
ドイツの場合なのですが、1990年に東西ドイツが統一された後、東ドイツの交通インフラ整備の水準が大きく立ち遅れていたために、かなりの出費を余儀なくされ、財政的に相当苦しいおもいをしてきました。1992年に連邦交通網計画という13ヵ年計画を策定し、13年間の総投資額を5388億マルクと計画しました。そのうちの39.7%、約40%が鉄道に回されることになっています。
いまイギリスとドイツについて紹介しましたが、西ヨーロッパの国々では、国レベルの交通投資計画、インフラ整備計画の中で、投資資金の3割から4割が鉄道に振り向けられるということになっています。こうした傾向は西ヨーロッパにのみとどまるものではありません。お隣の韓国でも、最近「鉄道ルネッサンス」と呼ばれる動きが出てきています。
このスライドは、韓国における輸送機関別の公共投資の実績額を見たものですが、1993年と2002年とを比べますと、鉄道に回された投資額4.4倍になっています。韓国は長い間、自動車中心の交通政策を展開してきました。朴元大統領はじめ歴代の大統領は、道路整備優先の交通基盤投資を推進し、鉄道はほとんどかえりみられることはありませんでした。韓国の鉄道の骨格は日本の植民地時代に形成されました。そのため、韓国国民にとって鉄道は植民地支配の道具だというイメージが強く、韓国社会の中ではどちらかというとマイナスに評価されてきたのが鉄道でした。そのため、1980年代末まで鉄道投資はきわめて不十分なものでした。
ところが、1990年代に入って鉄道軽視の交通政策は大きく転換されました。自動車に依存した交通体系が行き詰まりをみせるようになったためです。こちらのスライドは国家交通網基本計画の中の投資計画の表で、2000年から2019年までの20年間が対象期間となっています。この表のとおり、約30%が鉄道へまわされます。このように、西ヨーロッパの国だけでなく、お隣の韓国でも鉄道の復権といった状況が生まれています。
なお、韓国では1993年に交通施設特別会計という特別会計が設けられました。日本の場合、交通インフラ整備のための特別会計は、道路整備特別会計、港湾整備特別会計、空港整備特別会計の3つがありますが、韓国ではこの交通施設特別会計によって鉄道を含めてすべての交通インフラ整備をこの会計でやるようになりました。日本では、ご承知のように道路行政を所管する建設省と、その他の交通行政を所管する運輸省がいっしょになって国土交通省が誕生しました。役所は統合されたのですが、肝心の交通行政の統一は出来ておらず、相変わらず道路行政とその他の行政が調整が不十分なままで展開されています。もちろん、会計的にも一体化はできておりません。先ほどいいましたように今後、財政的制約はますます強まります。効率的に財政を運用するためにも、そして財政的制約の中で交通インフラ整備をバランス良く進めていくためにも、韓国のようにインフラ整備会計を一本化してやる必要があります。
さて、鉄道の復権ということに加えて、いま世界的には鉄道やバスを中心とした公共交通優先の交通政策が主流となりつつあります。いまから20年前の1980年代のわが国の状況をふりかえってみると、当時は赤字のタレ流しということで国鉄のイメージが非常に悪く、このことが公共交通全体のイメージを損ねていました。当時の運輸省なども、これからは自動車の時代だ、ローカル圏では自動車中心の交通体系が形成されたとしても止むを得ないなどと主張していました。国際的にも公共交通は非常に評判が悪かった。ところが、1980年代末頃から状況が大きく変わります。公共交通の復権を象徴するキイワードがTDMとTODです。
TDMというのは、Transportation Demand Management の頭文字をとったものです。自動車の交通需要をコントロールし、公共交通の利用を促進することで環境改善を進め、まちづくりを活性化していこうという政策です。もう一つのTODというのは、Transit Oriented Development を略したもので、都市開発や地域開発をすすめていくときに、マイカーを前提に考えるのではなくて、公共交通をその基本的な骨格にしていこうという考え方です。これら2つのキイワードに象徴されますように、公共交通優先の交通政策の時代になってきたのです。これはマイカー大国のアメリカを含めてそうなってきている。つまり、世界的な趨勢になっているのです。
なぜ公共交通優先なのか。一つは、鉄道の復権と共通しますが、環境問題です。少しでも環境負荷の少ない交通体系を形成する必要があるということで公共交通が見直されてきている。もう一つは安全性の問題です。日本の災害による死傷者の数を調べてみますとこのようになっています。まず、一番多いのが自動車事故で、2002年度に8326人の方が亡くなっています。ただし、この数は警察統計によるものです。警察の定義では事故発生後24時間以内に亡くなった人を自動車事故による死者としています。国際的には一般的に、事故が発生して30日以内に亡くなった人のことを自動車事故による死者と定義されていますから、日本の定義は非常に狭いのです。例えば、今日事故が発生して、病院に担ぎ込まれた。そして、3日の後に亡くなったという場合、日本の警察統計では交通事故による死者には入りません。非常におかしいですね。事故が原因で例えば3日後なり1週間後に亡くなれば、それは自動車事故死にしなければいけないと思います。そこで、国際的定義の30日以内ということにすれば、8326という数を2割増しぐらいにしないといけませんので、日本の死者は約1万人程度になると思います。
次に、鉄道事故や航空事故による死傷者数はこの表のとおりです。自動車事故に比べると非常に数が少なくなっています。ただし、航空事故の場合、これまでご承知のように10年から15年に一度ぐらいの割合で大型ジェット機の墜落事故が起こってきました。大型ジェット機が墜落しますと、何百人という死者が出ますので、その年の統計上の数は大きく増えます。しかし、通常は航空事故による死者の数はこの表にありますように50〜60人ぐらいです。事故の大半は小型のセスナ機とかヘリコプターの事故によるものです。
運輸事故以外の災害についてみてみますと、火災による1年間の死者数は2002年度で2000人ほどです。風水害によるそれは77人となっています。それから、労災によるものが1889人です。かつて、1960年代の高度成長の半ば頃まで、わが国では炭鉱事故や建設現場における労災事故が非常に多かったのですが、最近では炭鉱がなくなったり劣悪な労働環境の改善が進んだりして、労災による死者が減ってきています。かつては、後天的な形で身体障害者になる場合の原因で多かったのが労災事故ですが、現在では労災事故ではなく自動車事故によるものが非常に多いのです。自動車事故による負傷者数は年間100万人に達しています。そのうちのかなりの数の人が重度の障害を負っているのです。最後に殺人ですが、殺人による死者は1388人ということになっています。
以上をみていただくと、自動車というものが、私たちの社会にいかに大きな災厄をもたらしているかということが良くわかります。自動車事故の深刻性はどの国でも認識されていて、それを減少させていくために各国では国家的なプロジェクトも推進されています。公共交通の利用を促進すれば自動車交通量を減少させることができ、自動車事故を減らせることにもつながります。そこで、各国では、この点からも公共交通を優先にしていこうという動きになっているのです。
わが国でも、最近、各地でLRT導入の動きが起こっています。このたび富山港線が路面電車化されるというのも公共交通復権の一つの現れだと思います。また、各地でいわゆる100円バスの導入が進んでいます。先ほどお話がありましたように、富山県内では10の市町村で100円バスがコミュニティバスとして普及してきています。また、パーク・アンド・ライドの試みですとか、ロード・プライシングの試みなども起こってきています。これらの動きは1980年代まではなかった動きです。このように、環境の時代ということを背景に、鉄道や公共交通の復権が現実味を帯びる時代となってきたのです。
ここで、4つのトレンドのうちの2つめの人口減問題についてもう少しお話ししておきます。いま日本の総人口は1億2000万人強なのですが、70年前は約6000万人でした。つまり、70年かかって人口が倍に増えたということなのですが、増えた60000万というのは非常に大きな数です。例えば、ヨーロッパの国で人口が6000万人以上あるのはドイツだけでして、フランスやイタリア、イギリスなどは5000万人台です。お隣の韓国は4千数百万人しかありません。6000万という数はヨーロッパの大国一つに相当する人口なのです。日本経済の高度成長はなぜ可能であったのか、いくつかの要因があるのですが、一つの大きな要因は、70年間で人口が倍になったということです。人口が倍になれば、当然マーケットの規模が倍になります。さらに経済成長にともなう国民所得の上昇によって市場の購買力が拡張されました。このことが世界でも稀な日本の高度経済成長の一つの要因となったのです。ところが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によりますと、日本はいまから数年後に人口がピークに達した後、長期の人口減少過程に入ります。そして100年後には中位推計で6000万人ほどになると予測されています。つまり、70年かかって倍になった人口が、100年で元にもどるということになります。これは、大幅な人口減です。日本は有史以来、一貫して人口を増やしてきたのですが、有史以来初めて人口減という経験をすることになります。
人口減は社会経済に極めて大きなインパクトを与えます。こちらのスライドは3大都市圏を除いた地方圏のバスの輸送人員の推移を示したものです。バスの輸送人員は1960年代にピークになります。それ以降、ずっと減ってきて、現在ピーク時の3分の1近くまで輸送量が減ってきています。このようにバスの乗客がこれまで減ってきた一番の理由は、マイカーの普及です。マイカーの普及で、利便性の高いマイカーのほうにバスのお客さんが流れてしまったのです。次のスライドをみてください。これは関西の大手鉄道会社のここ15年ほどの輸送人員の推移を示したものでます。上のほうの青い折れ線がJR西日本で、下のほうの黒い折れ線が、民鉄といいまして、関西には近鉄ですとか阪急ですとか5つの大きな私鉄があります。この5つ私鉄の合計の輸送人員を表したのが下の方のグラフです。私鉄は、1991年、平成3年がピークで、現在はピーク時の8割程度まで輸送量が下がってきています。JRは少し持ちこたえて、平成7年頃まで輸送量が伸びていたのですが、平成7年、1995年をピークに同じように輸送量が下がり始めました。こうした傾向は関西だけでなく、全国の鉄道会社に共通する現象です。この輸送量の減少の理由は、さきほど紹介したバス輸送量の減少、すなわちマイカーへの乗客の転移ではありません。マイカーの普及が理由ではなく、実は人口減の影響が出始めているという点にあります。
鉄道の旅客は、定期旅客と普通旅客に大きく分かれます。大都市圏ですと、定期旅客の中に学生定期客がかなりいます。週休2日制が普及してきて、土曜日の通勤旅客が減ったということもあるのですが、人口減の影響で学生旅客が減り始めたことが、鉄道旅客数が減少しはじめた大きな要因です。人口減社会突入の影響は、すでにこういう形で出始めています。今後人口減が本格化するにつれて、さらに厳しい影響が出始めることは確実です。去年の5月ことですが、民間の鉄道会社が民鉄協会という事業者団体を作っているのですが、その民鉄協会が大都市における鉄道整備の将来像というテーマで報告書をまとめました。それを読みますと「右肩上がりの成長が保障されるわけではない今後、過去の民鉄が成功させたビジネスモデルはもはや参考にならない」と強い危機感を表明しています。つまり、これまで日本の大都市の民鉄というのは、鉄道経営のモデルともてはやされて、国鉄の分割・民営化のモデルにもなったわけですね。それがもうそういう時代ではないと強い危機感を表明しています。人口減というのはそういうインバクトを生じさせるのです。人口減の影響は大都市圏よりもローカル圏により厳しく現れます。地方のバスや鉄道はいままではマイカーの影響でお客さんが減っていたのですが、今後はこれに加えて人口減ということによって、これまで遭遇したかったような深刻な事態に直面しなければならないことになります。
こうした人口減による乗客減で、当然のことながら鉄道会社の運賃収入は減っていくことになります。2年前に政府はいわゆる交通バリアフリー法という法律をつくりました。これで、1日の鉄道利用者が5000人以上の鉄道新駅については、エレベーターやエスカレーターを付けなくてはならなくなった。また、既設駅もバリアフリー化した方が望ましいということになりました。新駅の方は、バリアフリー化されるのですが、既設駅の方のバリアフリー化はなかなか進んでいません。その一番の問題は財源不足です。私は大阪府の南の和歌山県との県境にある河内長野市という人口12万人の小都市に住んでいます。市内を大阪と和歌山とを結ぶ南海電鉄高野線という民鉄線が通っています。市内に6つの駅があります。乗客の多い順番にいいますと、1番は私が日ごろ使っている河内長野駅で1日3万6125人、次が三日市駅で2万4340人、3番目が千代田駅で2万1839人、4番目が美加の台駅で6198人となっています。残りの2駅の乗客数は1000人未満です。5000人以上の駅は4駅ありますが、いずれも新駅ではなく既設駅ですので、バリアフリー化は努力義務というになります。法律に基づきますと、駅のバリアフリー化は地元自治体が中心になってまず計画をたてます。そしてこの計画に基づいて3ヵ年程度の期間でバリアフリー化が進められていきます。費用負担は、国、自治体、鉄道事業者が3分の1ずつ負担するということになっています。いま全国の地方自治体は、いっせいにバリアフリー化の計画案を策定しています。私のところの河内長野市もすでに計画案を策定していますが、それによりますとバリアフリー化するのは4つの駅のうち、河内長野駅1駅だけです。なぜ残りの3駅のバリアフリー化が見送られたかというと財源不足という理由からなのです。すなわち、駅をバリアフリー化する費用ですが、上りと下りの2つのホームにそれぞれエレベーター、エスカレーターを付け、身障者用トイレなどを整備したとしますと、駅の形状にもよりますが15億円程度かかります。これを国、地元自治体、鉄道会社の3者が3分の1ずつ負担をするということになります。したがいまして、3年間で5億円というのが鉄道会社の負担となります。別の言い方をすると1年間に駅1つをバリアフリー化するための負担は約1.5億円ということです。私の街を走っている南海電鉄の1年間の経常利益は20億円ほどです。それでも南海は大手民鉄に入ります。大手民鉄にとっても、バリアフリー化の費用負担というのは相当こたえる額なのです。しかも、人口減で乗客数減りつつあり、鉄道会社の運賃収入も伸び悩んでいます。そういう中で、バリアフリー化を進め、鉄道サービスの質をいかに高めていくのか、非常に難しい時代になってきています。
以上、まず一番目に申し上げたかったことは、交通をめぐる現状と今後のトレンドです。次に、交通というものをどのようにとらえたらよいか、あるいはとらえるべきかについてお話ししたいと思います。
生活の基本的な条件ということで、よく衣食住ということがいわれます。憲法は健康的で文化的な最低限の生活というものを国民に保証しています。何らかの理由で衣食住が確保できない場合、自治体は生活保護という措置をとって国民が最低限の生活ができるよう支援しています。しかし、現代の社会において、果たして衣食住が確保されるだけで健康で文化的な最低限の生活ができるでしょうか。もちろん否です。衣食住だけでは全く不十分で、私はこれに加えて教育と医療、そして交通という要素が必要である、確保されなければならないと考えています。教育によって私たちは現代社会に適応していくための術を習得します。適切な医療システムの支援がなければ健康で文化的な生活は営めません。それから、現代社会は高度に分業が発展していますから、生活の各部面を結び、物資の輸送を担う交通ネットワークがなければ私たちの生活はなりたちません。つまり、交通の確保、交通は生存のための基本的条件だということができます。
私たちは現代社会における交通の重要性に着目して、交通権という新しい人権の確立を訴えています。20年ほど前になりますが、交通権問題を研究するために、交通権学会という新しい学会をたちあげました。私は交通権を次のように定義しています。
「市民の移動の自由の確保ないし保障を憲法との関連で積極的に位置づけた新しい人権概念で、1980年頃から提唱されるようになった。日本では判例上は未だ認定された権利ではないが、フランスなどでは社会権として法律上明記されている」。これは、有斐閣書店から出ています『経済学辞典』の定義ですが、私が執筆したものです。
過去、1980年代に和歌山地裁と沖縄地裁の2ヵ所で、交通権を争点にした裁判が起こりました。和歌山の場合ですが、国鉄の分割・民営化前に当時の国鉄はローカル線と幹線とで運賃の賃率を変える施策を導入しました。国鉄和歌山線の沿線の利用者が和歌山線にローカル線の賃率を適用するのは国民の平等な扱いを脅かす憲法違反の施策で、交通権の侵害であるという裁判をおこしました。残念ですが、和歌山地裁は、そして沖縄地裁も交通権という権利を認定しませんでした。しかし、フランスでは1982年の国内交通基本法という法律のなかに交通権という権利が書き込まれ、国の交通政策の目標は、国民にこの交通権を漸進的に保障していくことだというふうに明記されています。フランスの国内交通法は、交通問題を考える場合の、一つのすぐれた参考事例です。
フランス以外にも交通権、広い言い方をすれば「移動の権利」を法律で定めている国があります。今日会場にもお見えになっておりますが、交通学会の事務局長をやっておられる上岡直見さんが翻訳・紹介されたのですが、欧州議会が歩行者の権利に関する欧州憲章というのを1988年に定めています。それからアメリカでは1990年に「障害を持つアメリカ人に関する法律」というのが施行されました。身体障害者など移動制約者の移動の円滑化を促進するために制定されたのがこの法律です。スウェーデンでも1979年に「公共交通機関の障害者用施設に関する法」が制定されています。法律を制定すれば事足りるというわけではありませんが、バリアフリー法の制定の事例が示唆していますように、法律の制定は交通問題の改善にプラスに作用する場合が多いと思います。
2002年の6月のことですが、民主党を中心に交通基本法という法律案がつくられ国会に提出されました。しかし、まことに残念ですが賛成少数(賛成は民主党と社民党)で廃案になりました。民主党は、再び形を変えて同趣旨の法律を再提案したいとの意向のようですが、こういった交通基本法というものを制定することができると、生活交通の充実に大きく役立つと思います。先ほどいいましたように、現代社会において基本的な生活条件として、衣食住だけでは不十分で、教育・医療・交通というものが必要です。教育分野ですと教育基本法という法律がありまして、教育の基本的な理念というのがその法律で示されています。私は交通基本法とは、交通版の教育基本法だと言っています。教育基本法では教育の理念や目的が明示されるとともに、国や自治体の責任が明記されています。わが国の教育行政はこの法律のもとに展開されています。交通基本法というものも、そういうものになると思います。つまり、交通行政を展開する場合の基本理念や、国民の交通に関する権利、国や自治体、関係者の責任といったものが書き込まれたものと思います。
先ほど交通は、現代社会において人間の基本的生存条件の一つといいました。これから少し、その交通とは何かについて説明したいと思います。交通はいうまでもなく、人の移動(旅客輸送)と貨物輸送の2つからなっています。人の移動、輸送を中心にみてみましょう。
交通というのは実は徒歩に始まって、徒歩に終わります。歩くことがまず基本になります。ある地点からある地点への移動の両端は、必ず徒歩です。そして、徒歩と徒歩とをつなぐものが電車であったりバスであったり、自転車、マイカーなどです。移動する距離が長くなるにつれて徒歩と徒歩をつなぐ交通手段の役割が大きくなります。近距離ですと自転車やバスということになりますが、長距離ですと飛行機が両者の間を取り持つことになります。つまり、自宅(徒歩)→最寄のバス停(バス)→鉄道駅(鉄道)→空港(飛行機)→空港(空港バス)→バスターミナル(タクシー)→-目的地(徒歩)といった動きになります。
次に交通はその性格からみたとき、大きく2種類に分けて考える必要があります。生活交通と非生活交通の2種類です。生活交通というのは皆さんが毎日しておられる交通でして、通勤や通学、買い物など生活上必要な定期的な交通のことをいいます。ですから、日常交通と言い換えることもできます。一方、非生活交通とは、たまに行う交通のことで、私が大阪からこちらへ参ったこと、皆さんが出張で東京へ行かれること、つまり毎日ではなくたまに行う交通が非生活交通ということになります。出張や旅行、親戚訪問、慶弔行事への出席などがその目的です。これらは毎日ではなくたまの交通ですから、非日常交通と言い換えることができます。
生活交通は主に地域交通体系がそれを支え、非生活交通は新幹線や高速道路、空港などの幹線交通体系がそれを担います。日本の交通体系をみますと、皆さんが日常経験しておられる通りでして、幹線交通体系は立派に整備されていて非常にリッチなのですが、地域交通体系は十分ではなく貧困です。整備新幹線というのは幹線交通手段です。また、ご当地には富山空港がありますが、国際便も飛んでいる立派な施設です。高速で快適な移動手段を提供しています。ところが、一方の日常交通の方はどうかというと、大都市圏では朝夕の通勤時間帯は電車は異常に混雑しています。30分も1時間も毎日不快感に堪えながら、皆さん通勤しています。ローカル圏では逆に乗客が少ないために鉄道やバスの便数が少ない。1回乗り遅れると、次は1時間も2時間もまたないとやってこないというのが現状です。マイカーを運転できる人はまあ自由に移動できるのですが、マイカーがない人は移動するのに実に悲惨です。このように毎日の生活のための移動は快適ではなく、不便なものになっているのが交通の現状です。
今言いましたように、空港とか新幹線、都市間を移動する交通手段は良く整備され非常にリッチです。日本の新幹線の整備水準は世界一です。旅客機が発着する空港は国内に80もあります。2つ以上の空港を持っている県もたくさんあります。このように幹線交通手段がリッチな状態にあるのは、やはり系統的にお金を出して整備をしてきたからです。つまり、これまで政府の交通インフラ整備の重点は幹線交通にあったということです。ところが、最近になって政府も少し考え方を修正するようになりました。2002年の8月と12月に2つの注目すべき審議会報告が出されました。1つは、国土交通省の傘下に社会資本整備審議会というのがあります。この審議会は国土交通省関係のインフラ整備やまちづくりの方針、方向の骨格を決める審議会なのですが、この中に道路分科会という道路関係の分科会があります。この道路分科会が2002年8月に「今、転換のとき」という中間報告を出しました。この中で、「戦後一貫した着実な整備の結果、国土を縦貫する高速道路は概成し、国道の100%が舗装され、約90%が大型車のすれ違いができる程度まで改良されているなど、一次的な改良という意味において一定の量的ストックは形成された」と書き込まれています。つまり、道路整備に関して幹線道路については量的にはまあまあの水準まできたということを初めて認めたのです。これまで国土交通省は旧建設省時代から「道路は足らない」と言い続けてきました。ところが、一定の量的ストックは形成されたと言うようになったのです。
もう1つは同じく国土交通省傘下の交通政策審議会の航空分科会の答申です。この航空分科会が2002年12月に「今後の空港及び航空保安施設の整備に関する方策」という答申を出しました。ここでも空港について、「空港の配置的側面からの整備は全国的に見れば概成した」という認識が示されています。ご当地の北陸地方に昨年7月に開港した能登空港があります。現在、1日に2便の東京行きが飛んでいるだけです。私はこのような空港をつくったのは間違いだと思っています。能登空港と同じような空港が佐賀県の佐賀空港です。充実したネットワークを誇る福岡空港から佐賀市内の中心部まで空港バスで1時間ちょっとで行けます。それなのに98年の7月に空港が開港しました。福岡空港の方がはるかに便利ですし、佐賀県自体もあまり人口がありませんから、利用客は少なく、1日に東京行きが2便、大阪行きが2便、計4便が飛んでいるだけです。今2つの例を挙げましたが、ここ10年ほどの間、こういう必要性の点で非常に疑問のある地方空港が乱造されてきました。ようやく12月の答申で、「空港の配置的側面からの整備は全国的に見れば概成した」となりました。これは回りくどい表現なのですが、要するに「地方空港これ以上必要ない」ということを認めた答申になっています。日本の空港容量を見ると、首都圏ではまだ不足していますし、名古屋沖の中部国際空港が来春開港します。また、関西国際空港の2期工事の問題が残っています。航空分科会の答申は、地方空港の整備はストップし、今後は大都市圏の空港整備に重点を移すという内容になっています。これまでは、1県1空港ということで、どの県にも空港が建設されてきたのですが、1県1空港ではなく江戸時代に藩という単位がありましたが、1藩1空港といわれるほど地方空港が乱造ぎみにつくられてきました。それにストップがかかったわけで、ようやく至極当たり前の認識に国交省が変わったということです。
国交省の政策の変化といいましょうか、認識の変化は地方鉄道の分野でも起こっています。1987年の国鉄の分割・民営化以降、この間、国交省(旧運輸省)は、「地方鉄道の維持は地方・地域の責任で」ということを基本的な考え方にしてきました。ところが、2年前のことになりますが、国交省の鉄道局長のもとに私的な検討会がつくられ、今後の地方鉄道政策について検討作業が進められました。そして、その委員会の検討結果が去年の3月に「地方鉄道復活のためのシナリオ」と題して公表されました。このシナリオに書かれている地方鉄道に関する現状認識や今後の政策課題を見てみると、私とほとんど意見が違いません。私の地方鉄道に対する見方や政策はこの20年間ほとんど変わっていません。5年〜10年ほど前までは、私と旧運輸省との間では大きな意見の隔たりがありましたが、このシナリオを読む限り、ほとんど違いはなくなっています。このシナリオで示されている方向性が具体化されれば、地方鉄道が維持存続できうる可能性があります。
さらに国交省は最近になって、「公共交通活性化総合プログラム」という事業を始めました。地域の公共交通を活性化するための支援制度ですが、ご当地富山は北陸信越運輸局管内に入ると思いますが、この北陸信越運輸局内では、2002年度には路面電車を活用した万葉線や高岡新湊まちづくり活性化プログラムなど4つのプログラムが策定されています。国交省も、こういう地域の公共交通の活性化支援を積極的にやるようになりました。先ほど言いましたように、幹線交通、非生活交通の方は空港や新幹線、幹線道路など審議会の報告書の言葉を使えば概成という段階に到達しています。したがって、これからの交通政策の課題は地域の生活交通をどうするかというのが一番中心になります。実は地域によって交通というのは非常に様相が異なります。よく私は例示に使っているのですが、47都道府県別に県民1人当たり年間何回タクシーを使っているのかというデータがあります。県民1人当たりのタクシーの利用回数が一番多いのは沖縄県で年間75回となっています(2001年度)。一方、最も少ないのは奈良県で7.9回です。こんなに差があるのですが、奈良県民がケチだからタクシーを利用していないのではないのです。県民性の差ではなくて、その県の交通体系のあり方がこのような差を生んでいるのです。つまり、沖縄のタクシー利用率が高い理由は、公共交通のネットワークが不十分であるという点にあります。沖縄には戦前は軌道がありましたが、太平洋戦争中に破壊されてしまいました。戦後、沖縄はアメリカに長らく占領管理された関係でその軌道は復活されませんでした。それで、半世紀以上にわたって沖縄には鉄道が走っていませんでした。昨年、ようやく那覇空港から市内までモノレールができました。モノレールは正確には軌道ではありませんが、半世紀振りに「鉄道」が復活しました。沖縄は鉄軌道も不十分ですが、加えて公共バスも非常に不便です。そこで、沖縄の人たちは移動しようとするとマイカーということになりますが、マイカーが利用できない人はタクシーを利用せざるをえません。それで、このようにタクシー利用率が高いのです。当たり前のことですが、大都市では人口が多いために混雑というやっかいな交通問題が発生します。逆にローカル圏では人口が少ないために公共交通の赤字経営という問題が起こっています。このように交通というのは地域によってその形や問題点が違って現れるのです。ご当地でも富山市や高岡市などそれぞれの都市が個性を持っています。その都市の状況にマッチした交通体系を、地域の人々が主体となって計画し、つくりあげていくということが大切です。これまでのように、国が一律に大きな網をかぶせて、画一的なことをやるのではなくて、地域の住民と地方自治体が主体となって、その地域にもっとも適した交通体系をつくりだしていく必要があります。
地域に適合した交通体系をつくるという場合、地方自治体の交通行政のあり方が非常に大事です。ただ、これまでの地方自治体の交通行政には大きな欠陥がありました。その1つは、地方自治体は交通行政にかかわる権限をほとんど持っていませんでした。交通行政の諸権限の大半は国が独り占めしていました。権限がないために、都道府県や市町村は独自性を持った施策を展開することができませんでした。2つ目の欠陥として、大半の自治体は交通計画というものを持っておりませんでした。一応交通計画と称するものを持っていた自治体でも、交通計画はまちづくりの柱とはなっていませんでした。3つ目には、これまで自治体の交通行政というと道路整備と自動車交通対策が中心でした。したがって、自治体には交通対策課なり交通対策室なるセクションがありますが、交通計画を企画している部署ではありません。例えば、駅前の放置自転車の整理といったような仕事をやっているのか交通対策課です。ですから交通対策課長を2年やると腰痛で腰がいかれてしまうという、笑うに笑えないような話もあります。4つ目は、縦割り行政で総合性に欠かけているという点です。例えば県庁の中には道路整備を担当しているセクションが10近くもあります。まず、土木課です。それから農林課で農道とか林道の整備をやります。道路にも街路と一般道路がありますから、街路の方は都市計画課が担当する。港湾課では港湾道路の整備をやっている等などです。地方自治体は、国の補助金や交付金によって事業を組み立てます。国が縦割り行政でやっていますから、それに対応するために県や市町村の方も縦割り組織にならざるをえないのです。それから、一番問題なのは、県庁や市役所の中で交通問題が重要であるとの認識が非常に弱いということです。交通は、まちづくりや地域開発の核になる政策分野なのですが、そういった認識が弱く、県庁や市役所は交通対策というと、とかくプロジェクト中心主義になってしまいます。例えば北陸線沿線の地域ですと、知事を先頭に東京に請願に行って、整備新幹線を通してくださいという陳情を行う。あるいは高速道路の延伸を陳情する。こういったことが県庁の主な仕事になってしまっています。21世紀は地方の時代といわれていますけれども、そうであれば交通政策も地方自治体が中心になって展開していく必要があります。そういう役割を果たせるように地方自治体も能力を高めていく必要があるし、また今述べましたような弱点を克服していくことがどうしても必要になります。
さて、これまでは鉄道や交通をめぐる最新の動向、交通の内容や意義、地方自治体の果たすべき役割などについてお話ししてきました。ここからは、いよいよ本論に入って、北陸新幹線と在来線問題についてお話ししていきたいと思います。
JRの北陸本線は、ご存知のとおり、米原から直江津までの353キロの線をいいます。この路線は、日本の国土開発上、日本海を縦貫する極めて重要な幹線鉄道であるとして明治15年、1882年に建設が始まりました。北陸本線には、サンダーバードに代表される都市間を結ぶ特急列車が走っていますが、同時に通勤通学などに利用される普通列車もたくさん走っています。すなわち、生活交通手段と幹線交通手段の両機能を果たしている路線です。北陸本線のうち富山県内分は約100キロです。富山県内では、2002年度1日平均、4万8323人の人が北陸本線を利用しています。そのうちの3万1173人は定期旅客です。この4万8323人というのは、富山県の人口の4.3%に相当します。この4.3%という数字を多いとみるのか、少ないとみるのか、というのは非常に評価が難しい部分があります。
富山県内には、あとJR線として城端線、氷見線、富山港線、新湊線そして高山本線があります。城端線、氷見線、富山港線はいずれも遠距離の大都市間を結ぶ路線ではなく、地域内の生活交通路線としての性格の強い路線です。つまり、幹線交通手段とはいえません。また、新湊線は貨物線です。高山本線は岐阜と富山を結ぶ226キロの路線ですから幹線交通手段ではあるのですが、1日の乗客数はわずか3009人です。本線という名前がついていますが、乗客数をみるとローカル線(地方交通線)です。現在、高山本線にほぼ並行する形で高速道路が建設されています。白川郷と飛騨清見間が未開通ですが、これが開通しますと、やがては高速バスも運行されるようになるでしょうから、岐阜・名古屋方面から富山までやってくる高山本線の旅客は大きく減少するものと思われます。北陸本線を除いて富山県内のJR線の現状はこうした状況にありますから、北陸本線というのがいかに重要な路線であるかお分かりいただけると思います。
富山県にはこの北陸本線以外に、幹線交通手段として富山空港と高速道路があります。このうち、富山空港ですが、東京便や札幌、福岡便などが出ています。ソウル便やウラジオストク便など国際便も飛んでいます。富山空港の1日当たりの利用者数は2002年度で3737人です。北陸本線の定期旅客を除いた普通旅客数は1万7150人ですから、航空機の輸送量というのはそれほど大きくないと言うことができます。いずれにしましても、北陸本線は、富山空港と並んで、主要な幹線交通手段となっているということです。
北陸本線の特徴をみてみると、まず1日の片道あたりの特急・急行乗の車人員ですが、大阪から北陸線に乗りますと、琵琶湖の西側を通る湖西線を通って敦賀までやってまいります。京都〜敦賀間の1日の片道のサンダーバードなど特急・急行の乗車人員は9561人です。一方、米原〜敦賀間の北陸線の方は、「しらさぎ」、加越などが走っていますが、約4000人です。それから、糸魚川〜直江津間をみますと、「はくたか」とか北越などが走っておりますが、1日片道あたり4465人の利用者数となっております。この4000人というのは大変大きな数です。例えば、私の住んでおります関西で、京都から関西空港まで「はるか」という特急が走っています。この「はるか」の1日の片道の乗客数は約3000人です。それから、和歌山県に白浜温泉という観光地ありまして、関西の人には結構人気スポットですが、大阪からこの白浜温泉方面に行くのにやはり特急が走っていますが、和歌山〜箕島間の断面をみてみますと、1日片道3200人の旅客量ということになっています。大阪方面から鳥取に行くのに岡山から智頭急行線というのに入ります。「スーパーはくと」という特急が走っています。一昨年の兵庫の尼崎近郊で救援に来ていた消防隊員2人をひき殺すという大きな事故を起こしたあの特急です。「スーパーはくと」ですが、これは1日片道当たりたった993人の人しか利用しておりません。これらの数字見ますと、北陸線の幹線交通としての役割がいかに大きいかということが理解できるのではないかと思います。
こういう生活交通と幹線交通の両方の役割を果たしています北陸本線が、整備新幹線が開業した場合にはJRから経営分離されるということになりました。その影響・問題点を見てみたいと思いますが、まずこの表の左を見てください。これは北陸新幹線が開業した場合の1日当たりの需要予測です。開業は1〜2年早まる可能生もありますが、いまのところ2013年が開業年とされています。開業の時点での予測乗客数と現在の高崎〜富山間の旅客数と比べると、ずいぶん強気の予測となっています。東京〜富山間には1日8便の航空便が出ているのですが、新幹線ができますと2時間で東京に着きます。2時間という時間は飛行機に十分太刀打ちできますので、東京〜富山間の航空便はゼロになる可能性があります。東海道新幹線ができたときに、名古屋〜東京間が鉄道で2時間になりまして、名古屋〜東京間の航空便は全廃になりました。また、東北新幹線が開業して、東京〜仙台間の航空便も全廃されました。東京〜富山間も飛行機が敗退する可能性がありますので、この分も見込んで需要予測がされているのだろうと思います。
それから高崎〜金沢間ですが、現在、東京〜金沢間というのは非常に時間がかかっています。確か最速の列車で4時間17分だったと思います。これが北陸新幹線が開通すると2時間22分になります。2万6000人程度の利用客が発生すると予測されています。金沢の場合、近くの空港は小松空港ですが、金沢市内からバスで40〜50分かかります。飛行機の場合、20分前にはチェックインしなければいけません。道路渋滞などを見込むと、1時間半前くらいには金沢を出て、小松空港に行く必要があります。羽田空港についてからも、都心の目的地に着くには約1時間はかかりますので、飛んでいる時間は1時間ほどですが、アクセス、イグレス時間を含めますと4時間近くかかってしまいます。新幹線が2時間半ほどで行ってくれるのでしたら、ここでも航空機から新幹線に多くの旅客が流れる可能性があります。ちなみに現在、長野〜東京間の新幹線旅客は1日2万6000人となっています。仮に金沢まで新幹線が開業し、高崎〜金沢間で2万6000人の人がこれを利用するようになれば長野〜東京間の現在の2万6000人に加えて5万数千人の人が北陸新幹線を利用するということになります。そうなってくると、北陸新幹線は1日当たり5万〜6万人の人が利用するということになります。ただし、東海道・山陽新幹線の利用者数は1日約51万人です。東北新幹線が21万人、上越新幹線でも10万人弱の乗客があります。これらと比べると、北陸新幹線は相当利用者の少ない路線であるということになります。
北陸新幹線の第1の問題点は、これは都市間を結ぶ幹線交通手段であって、生活交通手段でないということです。糸魚川、新黒部、富山、新高岡と4つ程度の駅ができるという計画になっていますが、まさに都市間を結ぶ乗り物で生活交通には使えません。金沢〜富山間や糸魚川〜富山間を新幹線で通勤する人もいるかもしれませんが、それはごく少数です。普通の人は通勤定期代がたくさんかかり過ぎて通勤に利用することは不可能です。新幹線というのは、あくまで東京や、西側が大阪までつながれば、東京や大阪に行くための幹線交通手段であって、生活交通手段でないのです。
2つ目の問題点は、今のままでいきますと、1部の区間(石動〜金沢)がいわゆるスーパー方式となります。東海道新幹線の耐用年数は60〜70年とされています。1964年にできましたので、40年ばかり経っています。したがって、あと20年、遅くとも30年以内には全面改修をやる必要があります。改修のために東海道新幹線をストップさせた場合、代替ルートが必ず必要になってきます。私はリニア方式の中央新幹線の開業は経済的に無理だとみています。技術的にも多くの課題が残っています。そこで、代替ルートとして有力なのが北陸新幹線です。しかし、一部区間がスーパー方式だと、北陸新幹線は高速鉄道としての機能発揮が十分にできません。したがって、単に当座の経費節減の視点からのみのスーパー方式で本当によいのかという問題が残っています。
3つ目ですが、2020年に大阪まで開通させるという計画なのですが、福井以西のルートは正式には明らかになっていません。ルート沿線の例えば小浜市の状況をみてみると、当地では北陸新幹線のことはあまり関心の対象になっていません。小浜の人たちが関心を持っているのは3つあって、第1は小浜線の電化です。これはすでに完了しました。第2は、大阪から敦賀まで直行電車を走らせたい。そのために敦賀まで在来線の直流化を実現したいということです。これも事業化が決まり、近々工事が始まります。そして第3が、近江今津〜上中連絡鉄道建設計画です。JR湖西線の近江今津駅とJR小浜線の上中駅間に約20キロの新線を建設することで、小浜への短縮ルートを構築しようという計画です。現在は、大阪・京都方面から小浜へ行くには、北陸本線の敦賀を経由しなければなりません。この新ルートができれば、大幅な時間短縮が可能になります。琵琶湖若狭湾快速鉄道といわれている構想ですが、これは未だ実現の目途がたっていません。小浜の人たちは、これら3つの事業を3点セットと呼んでいます。福井県の敦賀以西の人たちは、この3点セットに関心が強く北陸新幹線のことはほとんど問題意識にはありません。北陸新幹線は大阪まで開通して初めてその本来の機能が果たせるのですが、福井以遠はこうした状況にありますから、大阪までの延伸がいつになったら実現するのか全く定かではありません。
今のままでいきますと、東京〜大阪間の全線全通というのはかなり難しい、いつになるのかわからない。とりあえず、東京〜金沢間で営業せざるをえないことになります。そうしますと、大阪発のサンダーバートは金沢止まりになってしまう可能性が高い。大阪から富山へ行きたい人は、金沢で降り新幹線に乗りかえて富山まで行かざるをえなくなります。金沢〜富山間はサンダーバートなら35分、新幹線なら20分しかかかりません。わずか15分の時間短縮のためにわざわざ新幹線に乗り換えなければならない。特急料金も割高になりますからユーザーは余分な負担を強いられることになります。ですから、北陸新幹線が金沢まで開業したとしても、大阪方面から高岡や富山に行くお客さんの利便性確保のために、在来線をどう活用するかということが大きな課題として残ります。私は、新幹線が金沢までの部分開業の段階では、大阪発のサンダーバードや名古屋発の「しらさぎ」などは金沢止まりにするのではなく、これまで通り富山まで走らせる必要があると思います。こういった点を考慮すると、分離され3セク化される並行在来線はどういう会社にしていく必要があるか、おのずから一つの姿が見えてくるのではないか思います。
北陸新幹線の建設は急ピッチで進められています。7〜8年のうちには富山までは開業することは確実です。それから金沢を経て、場合によっては10年以内に福井まで開通する可能性もあります。それに伴い並行して走る北陸本線の経営分離が現実化していきます。その場合、大きく3つの課題といいましょうか問題があると思います。1つ目は、北陸本線が分離をされますと、地元が第3セクターの形態で引き受けることになります。新しく発足するこの3セクの経営問題です。2つ目は、この北陸本線には結構貨物列車が走っています。貨物輸送の基幹ルートの一つになっています。3セクということで経営分離されることによって、貨物輸送体系にどういう影響がでてくるのか、これが2つ目のポイントです。3つ目は、北陸線の路線としての一体性は確保できるのかどうかという問題です。在来線の分離にあたって、JR西日本は例えば富山〜高岡間は直営で残したいという提案をしてくる可能性があります。糸魚川から金沢までが第3セクター化されたとしたら、北陸本線という幹線部分は第3セクター化されているのに城端線や氷見線などの支線は直営で残るという、JR西日本の立場からみれば非常に奇妙なことになってしまいます。そうした事態を避けるために、乗客数の多い富山〜高岡間のような一部区間だけは直営で残すということは十分に考えられます。北陸新幹線の一部を構成するいわゆる長野新幹線が開業した時に「しなの鉄道」という3セクがつくられましたが、一番ポイントとなる篠ノ井〜長野間はJRの直営のままで残ってしまい、「しなの鉄道」にとっては大変な痛手となりました。あるいは、JRは、もっと距離を伸ばして、“富山〜金沢間はうちでやりますよ。しかし富山から東は関知しません。どうぞ地元でおやりください”と言ってくるかもしれません。仮に富山〜金沢間、あるいは富山〜高岡間が営業できないとなれば、3セク会社にとっては由々しき事態です。
今申し上げた3つの大きな問題点について、もう少し詳しく補足しておきたいと思います。まず整備新幹線と鉄道貨物輸送の問題ですが、1997年の6月に、国交省に設置されていたJR貨物の完全民営化のための基本問題懇談会が意見書をとりまとめました。その中で、同懇談会は並行在来線が経営分離された場合にJR貨物の支払う線路使用料をどうするかということの基本的な考え方を示しました。そして、これを受けて、政府与党間で申し合わせが行われ、JR貨物の負担の方式が決められました。ご承知のように従来、JR貨物は旅客会社に対してアボイダブルコストという考え方で、線路の使用料を払っていました。アボイダブルコストというのは、金額的に見ればあまり大きな額にはなりませんので、第3セクター会社がその程度の線路使用料をもらっていたのでは、経営が成り立たないし、貨物輸送のためのインフラのメンティナンもできないということになります。そこで、3セクに支払う線路使用料について新しいルールをつくろうということになったのです。その結果、JR貨物はアボイダブルコストを超える使用料を第3セクター側に支払うということになったのですが、そうすると経営基盤が脆弱なJR貨物が打撃を受けますから、JR貨物の支援策としてアボイダブルコストを上回る部分については独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構から調整金を出して、これをJR貨物の方に繰り入れるという仕組みがつくられました。東北新幹線に並行する「青い森鉄道」や九州新幹線に並行する「肥薩おれんじ鉄道」に対してこのルールに基づいて線路使用料が支払われています。
次のスライドは、JRから経営分離されて設立された3セク会社を簡単に比較した表です。詳しい比較は、主催団体の方で作成されたものが本日配られていますのでそちらをご参照ください。これまで、整備新幹線の開業に伴い、ご承知のように4つの3セク鉄道会社が設立されています。「しなの鉄道」、いわて銀河鉄道、青い森鉄道、肥薩おれんじ鉄道の4つです。3セク化後、いずれの路線においても運賃が大きく上がっています。また、各社とも経営的に大変しんどい状況になっています。これら4つの3セクの中で、肥薩おれんじ鉄道は他と違う特徴を持っています。まず、肥薩おれんじ鉄道の場合は、出資者に民間企業が入っておりません。出資者はすべて沿線の自治体で構成されています。加えて、JR貨物も株主の一人になっています。次に、熊本県の八代から鹿児島県の川内まで非常に長い116.9キロの路線を営業しています。東北新幹線の場合、岩手県と青森県の県境を境にして、いわて銀河鉄道と青い森鉄道という2つの別の会社がつくられました。県境を境に2つの鉄道会社に分離をされるというのは非常にまずいのです。1つの鉄道会社ごとに本社オフィスも要りますし、間接経費も2つ分かかります。列車の運行も2つに分かれます。県境で乗務員の乗り換えが行われますから、余分な人を抱えなければいけませんので、経費の面でも余計にかかってしまいます。ところが、肥薩おれんじ鉄道は、県境で分割せずに1つの会社として設立されました。これは大変結構なことです。北陸新幹線の場合を考えてみますと、経営分離対象区間は東から新潟、富山、石川、それから福井の4県にまたがります。先ほど申しましたように、一定の区間はJRが直営で残すかもしれませんが、いずれにせよ4県にまたがって北陸線をどうするのかという問題が起こってきます。青森方式でいきますと県ごとに4つの3セクをつくるということになります。しかし、これは絶対に避けなければいけません。行政単位である県ごとに機械的に3セクを分けるなど愚の骨頂です。
先ほどから申し上げているように、北陸本線というのは、生活交通路線であると同時に、都市間の幹線交通手段という2つの側面を持っています。これが3セク化された場合、都市間の旅客輸送の大半が新幹線の方に移っていくものと思われます。しかし、大阪や京都方面から富山にやって来るお客さんというのは、金沢までサンダーバード来て、新幹線に乗り換えて富山まだ行くというのは決して便利なことではない。たかだか20分ほどの時間短縮のために乗換えというのは意味がありません。ですから、3セク会社になったとしても大阪発のサンダーバードなどは金沢から3セク会社の路線に入って富山まで運行するということが必要であろうと思います。現に、例えば智頭線の「スーパーはくと」などJRの特急が3セクに乗り入れている例はあります。こういう形で特急も走るということになれば、新しくできる3セク会社は生活交通路線のみならず、都市間の輸送手段としての役割を果たすことができると思います。また、特急のような優等列車が走るということは収益性の点でも重要です。つまり。営業収入の点でもプラスになります。
前に言いましたように、富山県内の北陸線の定期旅客数は現在3万1000人です。これだけの定期旅客が存在するということは、北陸線が地域にとって必要不可欠の公共交通手段となっているということを示しています。この3万人の定期旅客と普通客も利用すれば、新しく発足する3セク会社は毎日4万人ほどの人たちが利用する中核鉄道会社になりうる可能性があります。「しなの鉄道」の2000年度の1日当たりの乗客数は北陸線を少し下回る3万2000人ほどですから、「しなの鉄道」のケースが1つのモデルになるのではないかと思います。いわて銀河鉄道や青い森鉄道はこれほど乗客がありません。いわて銀河鉄道の場合、2003年度1日当たりの輸送人員は1万4000人ほどです。したがって、「しなの鉄道」の営業政策や経営のやり方は参考になる部分が多いと思います。富山県内を走ることになるであろう3セク会社を安定的に存続させていくためには、県境を境に岩手県、青森県のように別々の別会社をつくらずに、肥薩おれんじ鉄道のように1つの会社として発足させるということが重要です。このままでは石川県と富山県とで別々の会社ができる可能性が高いです。今から1つの会社として発足させるよう、関係する県に働きかけを行っていく必要があります。
それから、今のところ、3セク会社を設立した場合、固定資産税の減免という優遇措置が受けられます。これは結構な制度ですが、もっと大事なのはJRからの資産の譲度のやり方の問題です。JR西日本はこの3月に、公的保有分の株式が全部売却され、純粋な民間会社になりました。国鉄の分割・民営化によって6つの旅客会社がスタートしましたが、このうち、JR西日本は東日本に次いで完全民営化されたのです。公的に株が保有されていた時代でしたら、国が関与する企業ということで資産の無償譲渡ということもありえたのですが、純粋な民間会社になりましたので、3セクへの資産の無償譲度は難しくなりました。おそらく有償譲渡ということになると思いますが、その場合、簿価か時価かという問題が生じます。もし、時価でということになりますと、発足する3セクは極めて大きな負担を被ることになります。青森県は、青い森鉄道を発足させる際、資産取得とインフラ維持の負担を軽減させるために、今はやりの上下分離方式を取り入れました。つまり、県がJR東日本から資産を買い取るという形で、線路など鉄道インフラ施設を県の所有ということにしました。これですと、確かに3セク会社は経費が節約できることになります。ご当地で発足する3セク会社についても、JRからの有償譲渡が避けられない見通しの中で、どうやって負担の軽い形で資産の譲渡を受けるのか知恵をしぼっていく必要があります。
なお、上下分離は1980年代から言われるようになった施策ですが、青森県が上下分離やった頃までは、どちらかといえばプラスの評価がされていました。ところがここ数年、マイナスの側面が強調されるようになってきました。1990年年代の初めにイギリスで、大規模な上下分離と民営化か行われました。そして、レールトラックという線路施設を保有・管理する事業体が設立されました。ところが、3年ほど前にこのレールトラックが経営破綻してしまいました。また、イギリスでは上下分離後、事故が続発するようになりました。上下分離の代表的な事例とされていたレールトラックが破綻し、消滅したということで上下分離の功罪をもう一度検証しようという動きが強まっています。青い森鉄道の時には未だ上下分離のマイナスの側面についてはそれほど大きくは認識されていませんでしたが、現在では事故や災害時の復旧の問題点なども含めて鉄道経営にとって上下分離方式が本当にいいのかどうかという議論が起こっています。ですから、北陸本線の経営分離の際にも、上下分離というやり方も1つの選択肢なのですが、私は上下分離はやらない方がよいと考えています。むしろ3セク会社の負担を極力少なくするということであれば、資産の譲渡のときに県が補助金を出すなど別の形の支援の仕方があると思います。私は、わざわざ上下分離というややこしい事はせずに、インフラ保有と鉄道の運行が一体的にできる現行の方式の方がよいのではないかと考えています。
3セク会社の経営を軌道に乗せるためには、地域と自治体の支援が必要であるということは論を待ちません。定期旅客が3万人もいれば、普通は黒字になってもおかしくないのですが、貨物列車も走ります。貨物輸送は長大編成の列車で行われますのでインフラをいためます。貨物列車が走行できるように施設のメンテナンスをやらなければいけませんから余分な費用がかかります。そういうことを含めますと、1日当たり近距離客ばかり4万人程度の乗客で3セクの経営が成り立つかというと、どうも黒字になる可能生は少ないと見なければなりません。そうしますと、どうしても地域と自治体の支援ということが必要になってきます。先ほど紹介しました、国交省の「地域鉄道再生のシナリオ」の中でも鉄道は地域のライフラインだという位置付けがされています。私も全くその通りだと思います。北陸線は富山県の基本的なライフラインであるということだと思います。そうしますと、地域や自治体が、ライフラインである公共鉄道の維持・存続にどのように関わっていくかということが問われます。今日ご参加の皆さんはご存知だとおもいますが、福井県の勝山市の事例ですが、勝山市などが中心となって京福電鉄が手放した鉄道を、もう一度「えちぜん鉄道」としてよみがえらせました。これは、勝山市の山岸市長などのイニシアチブも大きかったのですが、沿線自治体が主導してライフラインとしての鉄道を復活させるという大きな仕事をやりとげました。えちぜん鉄道のケースで目立つのは、地域。住民、自治体の連携・協調というのがかつてない形で現れているということです。また、鉄道ではないのですが、クラブ組織によってバスを維持していこうという動きも全国各地で生まれてきています。クラブというのは、仲よしクラブというか、クラブ活動のクラブのことです。地域の住民たちがすこしずつ会費を出し合って、バス会社を支えていこうというものです。このように新しい形で地域、住民、自治体と交通事業者の連携が生まれてきています。
鉄道は、これまで乗り物という役割しか認識されていませんでした。しかし、最近になって鉄道の意義をもう少し広く捉えようという議論がなされるようになってきました。つまり、これまでは輸送手段としてしか鉄道は見られておりませんでした。ですから、1980年代には、お客さんの数が減って輸送手段としての機能が低下したので必要ないから廃止をしろ、という議論がまかりとおりました。多くの国鉄ローカル線が廃止になったのはそのためです。ところが、最近は単に輸送手段としてだけではなく、街づくりの核、基盤施設だという認識がされるようになってきました。それから、環境問題もありますから、環境負荷が少ない地球にやさしい乗り物だということが考慮されるようになってきました。自動車に比べて安全性も高いということも評価されています。また、新しい傾向ですが地域の観光資源としても見直されるようになっております。
フランスの東部、ドイツ国境に近いところにストラスブールという都市があります。人口40万人くらいの、大変きれいな街です。EU議会もおかれていてヨーロッパでは有名ですが、パリから遠く離れているために、1990年代まではヨーロッパ以外の国からこの都市を訪れる観光客はあまりいませんでした。ところが、最近は観光客がひっきりなしとなっています。とくに日本人が多い。なぜかというとLRTですっかり有名になったからです。専門化のグループも月に3組も4組も市役所を訪問するというから異常ともいえる状況です。LRTといえばトラスブールということで、LRTが観光資源化しているのです。日本でも、岡山市でモモ(MOMO)という路面電車が走っていまして、それ自体が観光資源になっていますし、JR西日本の山口線の蒸気機関車も観光資源です。このように、鉄道の便益が経済的、社会的、文化的に多面的に評価されるようになってきたということがいえると思います。
さて、北陸本線が3セク化された場合、県や沿線自治体の支援が必要になります。いま、地方財政危機でどこの自治体も財政難です。もちろん、行財政制度の制度改革を実施して国と地方との税財源の配分の見直しをやることが必要ですが、現行のままでも私は財源はあると思っています。私がいろいろな所で言っていますのは、県や市町村の道路の予算を少しだけ削りなさいという提案です。少しというのは5〜10%程度という意味です。このスライドの表は2001年度の国と地方の道路予算ですが、国で3兆7000億円が道路に使われています。しかし、これを上回る2倍の6兆3000億円ものお金が、都道府県や市町村で使われています。地方費のうち、道路特定財源も財源になっていますが、4兆円は一般財源です。膨大な資金が道路整備に使われているのです。鉄道に対して国費も投入されているのですが、道路に比べると微微たるもので、全体で1000億円ほどにしかなりません。『都市再生 交通学からの解答』という本によれば、
ドイツは、インフラ投資割合のうち道路が65%で鉄道が35%、オランダは道路が46%で鉄道が54%なのに対して、日本は道路が93%で、鉄道は7%しかありません。日本の交通投資はあまりにも道路偏重なのです。
今、わが国の財政は国も地方も大変深刻な状況になっています。財政赤字の原因の一つは過剰な公共投資にあります。日本はとにかく公共事業費の割合が非常に高いということがよく言われています。確かに、G8の国の中で、あるいはOECD諸国の中でみてみると、日本の公共事業費は突出しています。これを裏付けるのがこちらのスライドです。このスライドは、わが国の社会資本整備のなかで、地方財政の役割がどの程度かということを示したものです。これを見ていただけばわかりますように、国民経済に占める公的資本形成のウエイトをみてみると、日本は6.6%で他の先進国よりずば抜けて大きいことがわかります。この中で、注目していただきたいのが地方の比重です。わが国の場合、公的資本形成の実に5.6%を地方が担っているのです。つまり、よく大きすぎると言われる公共事業費を一番出しているのは、実は地方だということなのです。
私はよく、日本の都道府県は「道路屋さん」というふうに表現します。日本の都道府県の財政支出をみてみると、一般会計の約6割は県庁の職員や学校の先生の給料、生活保護費などの消費的経費として消えていきます。残りの4割が投資的経費といいまして、道路や橋、学校などをつくるために使われます。これらは資産・財産として後の世代に残っていきます。実は、この投資的経費の中の約半分が道路整備費です。一般会計予算全体の中で道路予算の割合をみてみますと、10%から15%程度になります。このように都道府県予算の中で道路整備は驚くほど多いのです。太平洋戦争が終わって、戦後になって地方自治制度が確立し、都道府県による地方自治が始まったのですが、日本の都道府県というのは約半世紀間、延々と予算の10〜15%を道路のために出し続けてきたのです。私が都道府県を道路屋と呼んでいるのはこのためです。
富山県の場合、情報公開が十分でありませんので道路予算の正確なところがわかりませんでしたので、岐阜県の例をご紹介したいと思います。どの県でも似たような状況ですから、富山県を類推していただけたらと思います。
岐阜県の場合、県費として2000年度1160億円が道路整備に使われております。このうち360億円分が道路特定財源といいまして、自動車のユーザーが負担する目的税部分です。県の道路特定財源のうち、最も金額的に大きいのが軽油引取税です。この360億円を除いた残りは約の800億円ですが、これは一般財源が充てられています。岐阜県のこの年度の一般会計予算は8726億円ですから、道路予算はその16.8%ということになります。岐阜県の場合、一般会計に占める道路予算はかなり高くなっています。そこで、この道路予算1160億円の10%を削減したら、110億円ものお金が捻出できます。5%でも55億円のお金が出てきます。先ほど、こちらの会で実施されたアンケート調査の結果が紹介されていましたが、それによれば年間の補助金額は12億円ということでした。公共交通の維持と充実のためにそれほど多額のお金は必要ではありません。各県と市町村の道路予算の10%、それが無理なら5%でもよいから道路予算を削れば公共交通充実のための財源はたちどころに生まれます。
道路がまだ全国的に不足しているというのならば道路予算は削れません。しかし、先ほど紹介しましたように、国交省の審議会の報告書でも日本の道路は概成されたといっているのです。いま必要なことは、道路に使われている予算を見直して、これを再配分して公共交通の対策費を確保するということです。もちろん、国に対して財源措置を講じることを求めるのは重要なのですが、都道府県など自治体の側でも、みずから使っている道路予算の抜本的な見直しを行うということが是非とも必要です。
ところが、現実にはなかなか道路予算は削ることがむずかしい。それは、地方へ行きますと、なかなかこれといった産業がなく、道路をつくる公共事業が最も大きな産業になっているからです。いわば、最大の地場産業が公共事業=建設業なのです。地方でなかなか道路予算の見直しが進まない大きな理由はここにあります。しかし、公共事業の見直しは避けて通れない課題です。地域公共投資を生活関連優先のそれに組み換える。道路も重要ですが、今後は公共投資の比重を道路から公共交通の方に移していくことが重要です。地域公共投資の組み換えは、地域を真に住民にとって住みよいものにしていくためのカギとなる施策です。それが公共交通の充実にもつながるということを最後に申し上げて終わりとしたいと思います。
どうも長時間、御清聴ありがとうございました。
司会 どうもありがとうございました。非常に長時間に渡って内容も抱負でお話していただいたわけでありますが、時間、4時を修了予定にしておりますが、15分ほど延ばして、休憩も取らずに引きつづき、みなさん聞きっぱなしでしたから、ここで質問など、ご意見などお伺いして、先生にお答えいただけるものは先生にお答えいただき、それから、会の方で答えなきゃいかんものは会のほうで答えるということで、今日は新潟県から、富山県内はもちろん、石川県、福井県とそれぞれ幅広くご参加いただいております。それぞれいろんな課題も抱えていらっしゃると思いますが、短時間ですけども、質問などお聞きをしたいと思います。聞いてちょっとすぐにはあれですかね。はい、だれかマイクをひとつお願いします。
質問 あの、環境自治体会議の上岡と申しますが、ちょっとですね、先ほどのお話で、私自身、いつも悩んでいるというか、説明の難しいところがあるのですが、道路財源のですね、一つにはその、ちょっと交通関係の予算の構成を組みかえるという話をしますとですね、決まってその、それならば、自動車関係の諸税を下げろという強い政治的なですね圧力が出てくるのでございますが、そのへんどう合理的に説明するかということを私自身も非常にいつも悩んでいるところなんですが、そのへん安部先生のお考えをちょっとお伺いできないかとおもうんですが。
司会 先生、すぐ、お答えいただけますか。
安部先生 はい。いまのご質問ですけども、確かに現在の道路特定財源制度というのは、税率が暫定税率になっていますから、筋としてはいったん暫定税率をもとに戻す必要があると思います。つまり、ガソリン税ですと今は1リットル53円ですが、これを本則の1リットル28円に戻す必要があります。そうした上で、他の多くの先進国がそうであるように、道路特定財源制度を廃止した方がよいと思います。ただし、そうしますと、ガソリン税が安くなり、ユーザーがガソリンスタンドで支払うガソリン価格が大きく下がりますから、ガソリンの需要が伸びます。すなわち、自動車の走行量が増える可能性が高い。そうすると地球環境問題という点では望ましくないので何らかの対策が必要です。これは西ヨーロッパでやっているような環境税ということで、新たに別の枠組を作ってやって、環境対策をそれで進めていくという必要があります。
私は、今言いましたように道路特定財源制度は、条件が整い次第、速やかに廃止すべきであると思っています。環境対策は環境税を中心に行った方が有効かつ明快であると思います。もう一点は、こうした制度改革は進める一方で、現行の道路予算はどうするのかという問題があります。こちらのスライドを見ていただいたらわかりますように、道路整備のために地方は一般財源を4兆円も使っているんですね。国の社会資本整備審議会・道路分科会の中間報告(2002年8月)も言っているように日本の道路整備は概成された段階に到達しています。ですから、現行の道路予算をそのままにしておくのではなく、その1割でよいから削りましょうというのが私の提案です。そうすれば、公共交通対策費の捻出は可能です。
司会 よろしいですか。えーと、その他、はい、どうぞ。
質問 富山の県会議員のひづめです。2つあるんですが、一つは、富山県はなんにも第3セクターの方向を示していないのに、県境分離が望ましいということだけははっきりと言っております。今日のお話の中で、それがいかにまずいかということを強調されて、本当にそうだなというふうにおもいました。お話があった、設備投資が必要とか、余分な費用がかかるという個所で、とくに貨物の場合、県境分離したら、どんなにまずいかというお話がありましたら、すこし紹介していただきたいと思います。2点目は、肥薩おれんじ鉄道がどうしてあんなふうに、JR貨物の援助が入ることになったのかという、そこらへんですね、県当局は質問しますと、肥薩おれんじ鉄道は特殊だと。まあちょっと見にいってくるよと、今年度は予算もとって、といっておるんですが、そこらへんで何かありましたら教えていただきたいと思います。
安部先生 九州の肥薩おれんじ鉄道ですが私は特別だとは思っておりませんで、ご当地で3セクをつくられるとしたら、これをモデルにしなければいけないと思っています。東北新幹線の場合、青森県境を境に2つの3セクがつくられました。おれんじ鉄道は2県の自治体の共同出資で、2県にまたがる会社として設立されました。たしか6億円ほどだったと思いますがJR貨物が出資をしています。その理由は、JR貨物も重要な利害関係者、つまり線路使用者であるからです。
東北方式で県境を境に行政単位ごとに3セクつくってしまいますと、いろいろな問題が起こってくる可能性があります。メンテナンスの問題、ダイヤ編成の問題、乗務員や車両の運用の問題、それに会社が2つですと間接費も2倍になります。県境分離で会社を2つくるというのは交通ネットワークの効率性や利便性を考えた論理ではなくて、行政の論理です。確かに税金を使ってこうした事業をやると、営業範囲が県外に及ぶ施設に対して、また利用者が他県民である施設に対してどこまで県費を投入できるかという問題が起こります。それはわからないこともないんですが、ここはやっぱり鉄道のネットワーク性という論理を優先させたほうがいいと思います。
実は行政単位を超えた広域行政というのは事例としてすでに存在します。例えば水道事業などです。複数の自治体が協力して水道施設の広域管理を行うケースがあります。その費用配分は自治体で相談して決めています。ですから調整次第だと思います。ご当地では、肥薩おれんじ鉄道のケースをよく調査されて、参考にされて、県境分離をせずネットワークを崩さないように一体的な3セクを会社をつくる方向でがんばっていただきたいと思います。
司会 よろしいでしょうか。はい、その他。一番後ろの方どうぞ。
質問 新潟からきました、新潟地区連の井上と申します。新潟市が今度、新潟の駅前を開発するっていうんで、いま新潟駅を知っている人は、新幹線と在来線が同じ駅にあるんですけども、在来線を新幹線と同じところに上げると。そのあげるやの県で、そのほかの周辺道路は市がやるっていうことで、これから10年20年先の計画がいまあります。そこで、JR、政府の指導として、3大都市の場合は鉄道会社は14%、その他は10%、30万以下の都市は7%、それ以外は5%がJRの予算らしいです。で、ちなみに東三条から彦根へぬける高架ができたんですけども、あそこはJRはわずか5%の予算しか出しませんでした。そういうことで、いいところはJRが横取りという感じがしてならないんですけども、もし富山のほうで新幹線と在来線が同じ駅に来るとなれば、そのことが当てはまると思うんですけども、その辺をもうちょっと深刻に受け止めて、JRのただ取りにならないように監視することが大事だと思うんです。新潟の場合も市と県が新潟駅、たかがJR新潟社のところを直すのに、県と市がそういうところに税金を使うというのはいかがなものかという話はあるんですけども、地元の人はなんか、賛成らしいです。そういう関係で、新潟市の方でも、地域住民会、住民説明というのをやってますけど、立ち退きもあるし、道路の閉鎖、拡張、また新しい道路、また新しい高架橋をつくるという壮大な計画があるんで、そのことを監視する必要もあると思ってます。新潟地区連、微力な力ですけども、こういう富山の会とも連携していろんな活動をしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
司会 ありがとうございました。これからも引き続きまたこういう交流をしていきたいと思います。それではまた、福井その他からお越しの方もいらっしゃいますが、いかがですか。もうちょっと時間あります。はい、どうぞ
質問 どうもすいません。小杉からきました。高岡で活動をしております。3セクというのを作る上で、ただ行政とかがお金を出すというのでは、結局市民不在と。利用者が使ってなんぼ、口を出させてなんぼだと思いますので、お金を出させて口も出させる、口も出させるというのが結構重要だと思います。使いやすいダイヤにするにはどうすればいいかとか、スムーズな乗り継ぎにはどうすればいいかとか、電車をもっと楽しく使うにはどうしたらいいかとか、そういうアイディアを出してもらうってという仕掛けをつくっていくと。市民をまきこんで、みんなで鉄道を支えましょうという雰囲気づくりがすごく大事だとおもうんですけど、何かアドバイスありますでしょうか。
安部先生 新潟の井上さんの言われた点ですが、JRの「ダボハゼ商法」はまさにご指摘のとおりです。多くの市民はこうした実態になっているということをご存知ないので、まず、その実態を宣伝していくということが必要だと思います。それから高岡の方のご発言に関連して、今後の地域鉄道の問題を考える場合、やはり鉄道会社と行政だけに任せるのではなくて、利用者も含めて地域の住民がどう鉄道の運営に参画するかというのが非常に大事です。住民の参画がありますとマイレール意識も生まれてきますから、鉄道の利用も増えます。今日はこの会場に市民グループの方々が集まっておられますけども、今全国各地でそういう利用者なり市民の組織がたくさんできて、鉄道を存続させ、活性化させる運動に取り組んでおられます。国鉄の分割・民営化が問題になった20年ほど前にも、いろんな組織が各地にできて運度が盛り上がったのですが、当時の運動には一つの大きな弱点がありました。集会やシンポをやりますと参加者も大勢で、それはそれで大いに盛り上がりました。しかし、集会が終わりますと、みんなマイカーで帰っていかれるんですね(笑い)。だれも国鉄を利用しないんです。私もいろんな所へ講演に行きましたが、こういう集会が多かった。みんな鉄道の必要性は言うのですが、実態がともなっていない。当時の運動は、このようないわば大義明文的な運動が多かったと思います。しかし、いま全国各地で起こって運動は違います。地に足がついた運動になっています。講演のなかで何回も強調しましたが、今後本格的な人口減が始まり、とくにローカル圏では鉄道の維持が本当にしんどくなる時代が始まります。地域の公共交通の核となる地方鉄道を厳しい経営環境のなかで存続させていくためには、地域のなかにマイレール意識を育てていくこと、そして住民の鉄道運営への関与という点がカギになるでしょう。
司会 どうもありがとうございました。あとありますか。はい、どうぞ。
質問 すいません、福井からまいりました清水と申します。先ほど先生おっしゃってたお話の中で、JRが1部持つかもしれないというお話があったと思うんですけども、例えばほんとに一番乗客の多いところ、そこをやはりJRがもってるというケースがしなの鉄道でも肥薩おれんじ鉄道でもやっぱりあると思うんですね。これ、比較的地元ではやっぱり大きな問題にはなってるようなんですけども、やはり北陸本線でもそういう話をちらちらと聞いたりするんですけども、やはり、3県合同で鉄道会社としてもってですね、それでその乗客が乗るところも乗らないところも含めて、一番その、地域全体が使いやすい、一番効率的に使えるような形にやはり経営体そのものを整える必要があるんじゃないかと思うんですけども、その点に関しましては先生いかがお考えでしょうか。
安部先生 北陸本線を福井から新潟県境まで見てみますと、JRが直営で残しそうな、別の言い方をしますと乗客数が多くてペイできそうな区間が何箇所かありそうです。仮にそれをJRの直営で残した場合、その他の部分は非常に乗客が少ない、採算的にも厳しいところですから発足予定の3セクの経営にとって大きな打撃となります。北陸新幹線はJRが運営する、そして並行在来線のおいしい所だけはJRが直営で経営するというのではあまりに勝手すぎます。やはり、発足する3セク経営の安定化のためには、全線を3セクに引き継がせることが必要です。そのためには、3県が個別に対応するのではなく、富山・石川・福井県がよく相談して連携して、JRや国と交渉していくということが重要だと思います。
司会 あと時間の関係ありますが、もう1、2ございましたら。はい、一番後ろの。
質問 あの、富山からまいりました三上ともうします。いまほどのお話とも若干関連あるかと思うんですが、最近のJRの、あまりにも利益に固執しているっていう、もちろん、民間会社になったから、それはある程度理解できるんですが、国鉄の民営化の時点でですね、国有財産を安い値段で譲り受けたという立場を忘れているような、最近そんな気がするんですね。それでやっぱり、このJRにですね、社会的な責任を自覚させるっていうことがもちろん大切な問題だというふうに思うんですけども、われわれ一市民としてそうさせるには、具体的にどういった風にすればいいか、先生はどんなふうにお考えでしょうか。お聞かせください。
安部先生 確かに現在のJRの経営は金儲けに走りすぎています。JRは特別な経緯の中で誕生した会社で、他の民間の鉄道会社とは与えられている役割が大きく違います。JRがいまどんな経営をしているのかについて、まずその実態をなるべく多くの方に知っていただく必要があると思います。そのうえで、社会的な批判を背景にJRに地域社会において果たすべき責任をきちんと果たさせるようにしていくことが重要だと思います。
司会 あと、ありますか。よろしいでしょうか。あと、まだいろいろとご質問したいこと、ご意見などがあろうかと思います。みなさんのお手元に感想やご意見など、書く紙が渡してありますので、今日お持ち帰りいただけば、下の方にファクスとメールができるようなふうにしてあります。今日、まだ十分に質問や意見などが述べれなかったと思いますので、ファクスやメールで私たち会のほうに寄せていただければ、先生の方からもまたお話聞きたいと思います。(ちょっといいですか)はい。
安部先生 先ほどご説明がありましたように、一ヵ月前にこちらにお招きいただいて、県内のJRの全線を見させていただく機会をつくっていただきました。私は、富山へはいままで何度かお邪魔しているのですが、少し驚いたというか感心したのは、ご当地では例えば高岡RACDAの万葉線を残す運動や富山港線の路面電車化など先進的な時代を先取りした取り組みをなさっておられる。また、魚津でしたか糸魚川でしたか、100円バスも走っています。市民運動の力もあると思いますが、全国的にも注目すべき動きがこの富山で具体化されています。北陸新幹線が開業すると並行在来線をどのようにしていくか大きな問題になりますが、東北新幹線の盛岡以北の分離された在来線部分、それから九州新幹線のために設立された肥薩おれんじ鉄道の乗客数を見ると非常に少ない。ところが、沿線人口の違いなどから北陸新幹線が開業しても北陸本線にはかなりの乗客が見込めます。鉄道経営を左右する第一条件は利用者数、どのくらいの乗客があるかということです。北陸本線については、第3セクターになりますが、地元が中心になって鉄道経営を展開することができれば、かなりおもしろいことができるのではないかと思います。富山は豊かな観光資源もありますし、富山空港からは便数は少ないのですが国際便も飛んでいます。これらを有効活用し、まちづくり、地域おこしをやっていけば、北陸線の活性化も十分可能だと思います。今いいましたように、富山は全国的に見ても先進的な公共交通活性化の取り組みをしてこられました。これまでの経験を活かせば北陸線活性化のユニークな動きが作り出せるのではないかと思います。
司会 それでは一応、安部先生がここで、先ほどからたくさんお話をいただきました。遠く大阪から来ていただいて本当にありがとうございました。みさなん、拍手でお答えしたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
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