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観客席

渋井陽子

簡単には言い表せない深い印象が残る。後からじわーっと来る。一つ のシーンをじっくりとやるのは今回も変わらない。やっぱりテラだ。いつ もの身体表現や音楽が控え目だって台詞だけのシーンがあってもテラ らしさが伝わってくる。毎回『見に来てよかった』という気持ちにさせてく れる


初めて観たテラの公演は『アンチゴネー/血』。美しさ、かっこよさ、面 白さ…テラには惹かれるところがいっぱいだった。

何か筋書きがあるとかではなく、見ているうちに私達全てに共通する ようなテーマが浮かび上がって来るような、見えている部分から見えて いない世界への通路を開いてくれるような仕掛けが面白く、大好きで 欠かさず見るようになった。



最初のシーンは前回の『ノラ』に登場した会話する女、妄想する女の 拡大版のようにも思える。

「川越は車よりボートを持っている人の方が多い?」等とぼけたセリフ がたくさんあって思わず笑ってしまった。会話に参加してない女子は何 かを探しているようだった。

女子同士の取り留めのない会話のひとコマのようだが…あれほど長く 何でもない話しを本気で続けていると、現実から浮いて見える。現実 逃避や妄想を感じた。どうでもよいことに力を注ぎ空回りして、本当に 大切な事を見ていない、今の日本や現代人を思った


次のインタビュー形式のシーンも面白かった。その人の素が出ている ようでようで見ていて楽しい。それを引き出す質問も上手いなと。演じ ているのか演じていないのか…一緒に見た先輩が「演じていない感じ がリラックスしてみれた」と言っていた。


やがてそれぞれのモノローグが始まり、大槻節子の日記の朗読も加 わる。何重にも重なった言葉はやがて舞台から溢れ出し押し寄せてき た。耳では拾いきれなかくなった無数の言葉はもう言葉ではなく言葉 の奥にある≪念≫?の波動のようだった。それは何故だか心地よく感 じた。

無数の言葉は、過去から未来へ途切れる事なく連続している≪時間 や空間の断面≫≪それぞれの人生・不特定多数の人生の断片≫で あるように思う。それが何重にも重なる事で、全ては連続している=繋 がっている、通じている事をイメージさせられる。


ちょうど『ヒロコ』につての感想を巡らせていたていた時、TVで興味深 い番組をみた。最近の遺伝子研究で世界各地の人々のDNAを分析し たところ、現在地球にいる人類は全員、共通する一人の祖先を持って いる事が分かったそうだ。全人類の母は10万年以上前にアフリカに住 んでいた女性らしい。つまり私達人類はみな広義で親類。血の繋がり があると言う事らしい。

そんな話を聞いたら、益々全ては繋がっている気がしてきた。きっと時 間的、距離的、血縁的に、近いか遠いかの違いがあるだけじゃないか って。

連合赤軍や砂川事件に限らず世の中で起きてる様々な事象を、自分 とは無関係と思ったらそれまでだ。そうではなく自分とどこかで繋がっ ているし通じている事。自分とは遠い事かもしれないが自分の近くに 引き寄せて考える。そういう感性を持つことが今の世の中に必要なん じゃないか。そうすれば今ある問題はずいぶん減るんじゃないだろう かと思った。≪無関心≫≪他人事≫の世の中では未来は暗いと、日 頃の自分も反省した。


…なんて話が飛躍してるかもしれないが、こんな風に想像を膨らませ てくれて結果的に≪気付き≫をもたらしてくれるテラが大好きだしその 力は凄いと思う。


一人で楽しむのがもったいない…というか、いつも誰かと分かち合い たい気持ちになるので、今回は学生時代のサークルの仲間(感性豊 な先輩と後輩です)を誘ってみた。

テラを初めて見た二人だが「スモークの使い方が凄くいい。今まで見 た舞台の中で一番素敵だった」「一番最初の女子のセリフの入り方が カッコイイ」「照明の使い方もいい」「いつの間にか時計の音がしてた」 「(音楽やセリフが)自分の聞きやすい音域だ」「どこまで台本がある の?」「質問は毎回違うの?」「途中から社会派の演劇なのかどうかわ からなくなった」「実験的でイメージが綺麗な舞台だった」「砂川事件を 知らなかったので勉強になった。」等々…感心する要素、見所がいっ ぱいで楽しめたようで私もうれしかった。

次回の公演にも今回誘った二人を連れて行きたいと思っている。



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