今回の公演で特に忘れられない場面は、全員が駆けるシーン、もだ
え、苦しむ横山さんの演技、それに「いじめ」の場面の陰湿な怖さが印
象に残りました。駆ける場面では、弱いものの周辺に変化のしわよせ
が押しつけられている。ほんろうされて右往左往する若者たち、その
俳優の表情がとてもいい。舞台はここから急展開して後半に進展して
いくのですがこのスピードある緊張感には引きこまれて、くぎづけにな
りました。呻吟する若者を表現した横山さんの演技には圧倒されまし
た。若者をこんなに苦しめる社会に怒りを感じ、けなげな若者の哀し
みを感じさせてくれました。言葉にならないうめき声, 懸命に建ちあが
ろうとする姿にひきこまれます。言葉にならない声と自嘲の笑いが絶
妙のタイミングをとっていた。トランプの占でしか自分たちの行動を決
められないどうしようもない無力感、そんな環境に置かれた人たちの
背景がこの演技を引きたてた。「いじめ」のシーンにすごみがあったの
は、何人もの人たちが入れかわりたちかわり執?に繰りかえしていた
せいだと改めて感じた次第です。
劇全体がバレー『白鳥の湖』にかさなって見えたところもありました。
魔法にかけられて白鳥の姿に変えられた人間が、人間の姿に戻る方
法はただ一つ、それは人間と恋をすることが条件。王子に恋をした白
鳥ですが、王子の母親の反対で恋にやぶれます。期待して待っている
仲間の白鳥のところに、傷心の白烏が帰ってくるシーンは、矢部さん
が舞台上手から登場して下手に退場する場面、また恋が成就しなくて
悲しむ「嘆きの白鳥」の場面は横山さんの演技で表現されていた。いく
ら働きかけてものりこえられない障害に苦しむ若者のせつなさを感じ
ました。
惜しかったのは、舞台後半で映像がでる場面の映像が不鮮明でわか
りずらかった点です。稽古場でそのフイルムの良さを見ていましたの
で大変残念でした。特に「DON'T FORGET」の言葉が見づらかった
のがくやしい。
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