分散分析の下位検定について
石田 翼
1998年10月26日
- 単純主効果 (simple main effect)
- interaction comparisons
- interaction contrasts
- Rosnow & Rosenthalの方法
単純主効果検定とは,交互作用が出た場合にそのうちどれかのの要因(単数また
は複数)の水準毎に,その他の要因の効果を検定する手法である.しかしその際
に使用する誤差項は場合によって異なる(宮本・山際・田中, 1991).
さらに「水準別誤差項」(individual error terms / separate error terms)
と「プールされた誤差項」(pooled error terms)と呼ばれる2つの対立する立
場がある.
どちらにしても基本的にはデータを分割しての分散分析であるので,まずは分割
する要因によってデータセットを分割し,それぞれ普通に分散分析を行う(*).
その後必要であれば適切な誤差項をもとに改めて値と値を算出する.
- 全体の分散分析において,以下の誤差項がどれであるかをまず確認する.
- 有意になった,対象となる交互作用の誤差項
- その交互作用に含まれている要因のうち,単純主効果検定におい
て検定される要因の誤差項
- これらの誤差項が
- 同一
- その誤差項を単純主効果の検定に用いる.したがって上記
の(*)で行った分散分析の誤差項を全体の分散分析の表
のその誤差項に置き換え,改めて値と値を算出する.
- 同一でない
- 上記の二つの立場によって異なる.
- 水準別誤差項
- 分割して算出された誤差項を用いる.
つまり(*)の結果をそのまま採用してよい.
- プールされた誤差項
- それら一致しない誤差項の平
方和の総和を.それら誤差項の自由度の総和
で割った値を誤差の平均平方和として用いる.
さらに自由度の調整(Winer, Brown &
Michels, 1991, 530-531)または修正された
分布表を用いる必要などがある(Kirk,
1982, cited in 宮本ら, 1991).
この二つの立場は,どちらもそれなりに理論的妥当性があり,宮本ら
(1991),Keppel(1991)などは前者を支持し,Winer(1991),Kirk
(1982, cited in 宮本ら, 1991),小牧(1995)などは後者を支持して
いる.ここでは手続きの簡便さから水準別誤差項を勧めておく
1.
必ずしも交互作用の全ての性質を明確にできるわけではない(OHP参照).
幾つかのより簡単な交互作用に分割し,それぞれの交互作用を検定する手法であ
る.しかし検定する交互作用の数が組み合わせ爆発的を起こすので,検定の多重
性が問題になる.多重比較の手法(Bonferroni/Holm法など)を用いたり
(Jaccard et al., 1990, 13),単純主効果検定を行ってから実行する
(Keppel, 1991, 248-249)などの対応法が提案されている.またプールされた
誤差項の立場では,この場合どのような誤差項を用いるかの選択は明らかではな
い.
直交対比(orthogonal contrasts)を用いる手法である.代表的なものとして
trend analysis(Keppel, 1991, 141-162)がある.検定の多重性が問題になる
ようならばSheffeの方法やBonferroni系の手法で多重比較を行うが,直交対
比では多重性を問題にしないという立場もある(Keppel, 1991).
問題点としては,自分の検証したい仮説が常に直交比較の形に表せるとは限らな
いことが挙げられる.
平均間の大小関係についての仮説を,対比を用いて検定する手法である
(Rosnow & Rosenthal, 1989).
例えばの
というデータにおいて,という大小関係に関する仮説があった場合,
それぞれに
という重
み付けを行い対比を計算する手法である.
検定の多重性を回避する検定手法の総称.主効果の下位検定の手法を含むがそれ
だけではない(Bonferroni法とそのヴァリエーションなど).
危険率の検定を複数回繰り返すと,全体の危険率が以上になっ
てしまう現象.危険率の検定を回繰り返した場合,全体の危険率を
とすると
が成立する.よって
例えばの検定を3回繰り返すと
となり,全体の危険率は10%をはるか
に超える.よってこの3回の検定の結果全体を「5%有意」と言えなくなってしま
うのである.
多重比較は基本的にはに応じてを低く設定することによって,
を一定以下に維持する手法である.つまりが多くなるほど一
つ一つの検定では有意差はでにくくなる2.したがって 多重比較の際には,検定を行う回数
を最小限にする必要がある.事前に群間条件間で理論的にある種の論理関係
(統制群とその他,大小関係など)が仮定できるならば,それを積極的に利用し
て比較の回数を最小限にする.
- 検定の繰り返し
- LSD法
- Duncanの手法
4水準以上の比較の場合は以下の手法も不適切である.
- FisherのLSD法3
- Newman-Keulsの手法
また被験者内要因の下位検定として,後述する多重比較の手法(除Bonferroni法
やHolm法)を用いるのは不適切である(Abacus Concepts, 1989, 213).そのよ
うな場合は対比を用いる.しかしその不適切さを黙認する立場もある.
- 統制群/実験群(複数,大小関係あり)
- 統制群と実験群があり,さらに仮説から実験群の間に大小関係が仮
定できるような場合には,Williamsの手法(永田・吉田, 1997,
45-52)を用いる.
- 統制群/実験群(複数)
- 統制群と実験群が存在する場合は,Dunnetの
手法を用いる.信頼区間が必要なければDunnetの逐次棄却型検定
(永田・吉田, 1997, 125-129)の方がよい.
- 検定の回数を特定できる
- 事前に仮説などからどの比較を行うか決定でき
て検定の回数が特定できる場合には,Bonferroniの手法(Holland
& Copenhaver, 1988).信頼区間が必要なければHolmの手法
4.
- 全てのペアの組み合わせを比較する場合
- TukeyのHSD.信頼区間が必要
なければTukey-Welsh法(永田・吉田, 1997, 107-116)やPeritz
(永田・吉田, 1997, 116-123)の方がよい.
- 全ての対比の組み合わせを比較する場合
- Sheffeの手
法.
上記の「水準別誤差項」の立場では,被験者内要因での比較の際に用いる誤差項
は,比較に投入する水準のみを用いて再計算した誤差項を用いる(Keppel,
1991, 356-357, 380-383).つまり重み付けが0の水準は除いて新たに誤差項
を計算する.
上で紹介した各手法について,この研究室で使用可能なSAS 6.12,SPSS 7.5
advanced statistics,SuperANOVAの各統計パッケージでの対応状況を紹介する
(高橋ら, 1989; SPSS Inc., 1997; Abacus Concepts, 1989).
- TukeyのHSD,Dunnet,Sheffeの各手法は全てのパッケージで対応さ
れている.
- Holmの手法に対応したパッケージはないが,手続きはかなり簡便なので
手計算でも問題はない.手続き自体はHolland & Copenhaver(1988)や
永田・吉田(1997)を参照.
- Tukey-Welsh法はSASではREGWF,SPSSではFREGWというキーワードで使用
可能である5.
- Williamsの手法・Peritzの手法・Dunnetの逐次棄却型検定に対応したパッ
ケージは見当たらないが,計算の手続き自体は永田・吉田(1997)に詳
しく説明されている.
- 対比はどのパッケージも対応している.特にtrend anlysisについては,
SPSSは``POLYNOMIAL''というキーワードで,SuperANOVAは``Contrasts
→Orthogonal Polynomials''で自動でやってくれる.
-
- 1
- Abacus Concepts (1989) SuperANOVA. Berkeley, CA:
Abacus Concepts.
- 2
- Holland, B. S., and Copenhaver, M., (1988) Improved
Bonferroni-type multiple testing procedures. Psychological Bulletin, 104, 145-149.
- 3
- Jaccard, J., Turrisi, R. and Wan, C. K. (1990) Interaction Effects in Multiple Regression. Sage University
Paper series on Quantitative Application in the Social
Sciences, 07-072. Newbury Park, CA: Sage.
- 4
- Keppel, G. (1991) Design and Analysis--A
Rsearcher's Handbook. (3rd. ed.) NJ: Prentice-Hall.
- 5
- 小牧 純爾 (1995) 『データ分析法要説--分散分析を中心に--』.
ナカニシヤ出版.
- 6
- 宮本 友弘・山際 勇一郎・田中 敏 (1991) 要因計画の分散分析
において単純主効果検定に使用する誤差項の選択について. 心理学研究,62,207-211.
- 7
- 森 敏明・吉田 寿夫編 (1990) 『心理学のためのデータ解析テク
ニカルブック』.北大路書房.
- 8
- 永田 靖・吉田 道弘 (1997) 『統計的多重比較法の基礎』.サイ
エンティスト社.
- 9
- Rosnow, R. L., and Rosenthal, R., (1995) ``Some things you
learn aren't so'': Cohen's paradox, Asch's paradigm, and the
interpretation of interaction. Psychological Science,
6, 3-9.
- 10
- SPSS Inc. (1997) SPSS Advanced Statistics
7.5. Chicago, IL: SPSS Inc.
- 11
- 橘 敏明 (1986) 『医学・教育学・心理学に見られる統計的検定の
誤用と弊害』.医療図書出版.
- 12
- 高橋 行雄・大橋 靖雄・芳賀 敏郎 (1989) 『SASによる実験デー
タの解析』SASで学ぶデータ解析5.東京大学出版会.
- 13
- Winer, B. J., Brown, D. R. and Michels, K. M. (1991)
Statistical Principles in Experimental Design.
(3rd. ed.) NY: McGraw-Hill.
平成12年7月24日