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分散分析の下位検定について

石田 翼

1998年10月26日

交互作用の下位検定

4種類の方法(Jaccard, Turrisi & Wan, 1990, 11-14; Rosnow & Rosenthal, 1995)

単純主効果検定

単純主効果検定とは,交互作用が出た場合にそのうちどれかのの要因(単数また は複数)の水準毎に,その他の要因の効果を検定する手法である.しかしその際 に使用する誤差項は場合によって異なる(宮本・山際・田中, 1991).

さらに「水準別誤差項」(individual error terms / separate error terms) と「プールされた誤差項」(pooled error terms)と呼ばれる2つの対立する立 場がある.

どちらにしても基本的にはデータを分割しての分散分析であるので,まずは分割 する要因によってデータセットを分割し,それぞれ普通に分散分析を行う(*). その後必要であれば適切な誤差項をもとに改めて$F$値と$p$値を算出する.

誤差項の選択

  1. 全体の分散分析において,以下の誤差項がどれであるかをまず確認する.

  2. これらの誤差項が
    同一
    その誤差項を単純主効果の検定に用いる.したがって上記 の(*)で行った分散分析の誤差項を全体の分散分析の表 のその誤差項に置き換え,改めて$F$値と$p$値を算出する.
    同一でない
    上記の二つの立場によって異なる.
    水準別誤差項
    分割して算出された誤差項を用いる. つまり(*)の結果をそのまま採用してよい.
    プールされた誤差項
    それら一致しない誤差項の平 方和の総和を.それら誤差項の自由度の総和 で割った値を誤差の平均平方和として用いる. さらに自由度の調整(Winer, Brown & Michels, 1991, 530-531)または修正された $F$分布表を用いる必要などがある(Kirk, 1982, cited in 宮本ら, 1991).

    この二つの立場は,どちらもそれなりに理論的妥当性があり,宮本ら (1991),Keppel(1991)などは前者を支持し,Winer(1991),Kirk (1982, cited in 宮本ら, 1991),小牧(1995)などは後者を支持して いる.ここでは手続きの簡便さから水準別誤差項を勧めておく 1

単純主効果検定の問題点

必ずしも交互作用の全ての性質を明確にできるわけではない(OHP参照).

Interaction Comparisons

幾つかのより簡単な交互作用に分割し,それぞれの交互作用を検定する手法であ る.しかし検定する交互作用の数が組み合わせ爆発的を起こすので,検定の多重 性が問題になる.多重比較の手法(Bonferroni/Holm法など)を用いたり (Jaccard et al., 1990, 13),単純主効果検定を行ってから実行する (Keppel, 1991, 248-249)などの対応法が提案されている.またプールされた 誤差項の立場では,この場合どのような誤差項を用いるかの選択は明らかではな い.

Interaction Contrasts

直交対比(orthogonal contrasts)を用いる手法である.代表的なものとして trend analysis(Keppel, 1991, 141-162)がある.検定の多重性が問題になる ようならばSheffeの方法やBonferroni系の手法で多重比較を行うが,直交対 比では多重性を問題にしないという立場もある(Keppel, 1991).

問題点としては,自分の検証したい仮説が常に直交比較の形に表せるとは限らな いことが挙げられる.

Rosnow & Rosenthalの手法

平均間の大小関係についての仮説を,対比を用いて検定する手法である (Rosnow & Rosenthal, 1989).

例えば$2 ¥times 2$
$a$ $b$
$c$ $d$
というデータにおいて,$a<b<c=d$という大小関係に関する仮説があった場合, それぞれに $-¥frac{3}{4},-¥frac{1}{4},+¥frac{1}{2},+¥frac{1}{2}$という重 み付けを行い対比を計算する手法である.

主効果の下位検定

多重比較とは

検定の多重性を回避する検定手法の総称.主効果の下位検定の手法を含むがそれ だけではない(Bonferroni法とそのヴァリエーションなど).

検定の多重性

危険率$¥alpha$の検定を複数回繰り返すと,全体の危険率が$¥alpha$以上になっ てしまう現象.危険率$¥alpha$の検定を$n$回繰り返した場合,全体の危険率を $¥alpha_{all}$とすると $¥alpha_{all}=1-(1-¥alpha)^{n}$が成立する.よって 例えば$¥alpha=.05$の検定を3回繰り返すと $¥alpha_{all}=1-(1-.05)^{3}=0.142625$となり,全体の危険率は10%をはるか に超える.よってこの3回の検定の結果全体を「5%有意」と言えなくなってしま うのである.


多重比較は基本的には$n$に応じて$¥alpha$を低く設定することによって, $¥alpha_{all}$を一定以下に維持する手法である.つまり$n$が多くなるほど一 つ一つの検定では有意差はでにくくなる2.したがって 多重比較の際には,検定を行う回数 を最小限にする必要がある.事前に群間条件間で理論的にある種の論理関係 (統制群とその他,大小関係など)が仮定できるならば,それを積極的に利用し て比較の回数を最小限にする.

不適切な多重比較の手法(永田・吉田, 1997, 31-32)

4水準以上の比較の場合は以下の手法も不適切である.

また被験者内要因の下位検定として,後述する多重比較の手法(除Bonferroni法 やHolm法)を用いるのは不適切である(Abacus Concepts, 1989, 213).そのよ うな場合は対比を用いる.しかしその不適切さを黙認する立場もある.

どのような場合にどのような多重比較の手法を用いるか

統制群/実験群(複数,大小関係あり)
統制群と実験群があり,さらに仮説から実験群の間に大小関係が仮 定できるような場合には,Williamsの手法(永田・吉田, 1997, 45-52)を用いる.
統制群/実験群(複数)
統制群と実験群が存在する場合は,Dunnetの 手法を用いる.信頼区間が必要なければDunnetの逐次棄却型検定 (永田・吉田, 1997, 125-129)の方がよい.
検定の回数を特定できる
事前に仮説などからどの比較を行うか決定でき て検定の回数が特定できる場合には,Bonferroniの手法(Holland & Copenhaver, 1988).信頼区間が必要なければHolmの手法 4
全てのペアの組み合わせを比較する場合
TukeyのHSD.信頼区間が必要 なければTukey-Welsh法(永田・吉田, 1997, 107-116)やPeritz (永田・吉田, 1997, 116-123)の方がよい.
全ての対比の組み合わせを比較する場合
Sheffeの手 法.

被験者内要因の下位検定の際に用いられる誤差項の選択

上記の「水準別誤差項」の立場では,被験者内要因での比較の際に用いる誤差項 は,比較に投入する水準のみを用いて再計算した誤差項を用いる(Keppel, 1991, 356-357, 380-383).つまり重み付けが0の水準は除いて新たに誤差項 を計算する.

各統計パッケージの対応

上で紹介した各手法について,この研究室で使用可能なSAS 6.12,SPSS 7.5 advanced statistics,SuperANOVAの各統計パッケージでの対応状況を紹介する (高橋ら, 1989; SPSS Inc., 1997; Abacus Concepts, 1989).

参考文献

1
Abacus Concepts (1989) SuperANOVA. Berkeley, CA: Abacus Concepts.

2
Holland, B. S., and Copenhaver, M., (1988) Improved Bonferroni-type multiple testing procedures. Psychological Bulletin, 104, 145-149.

3
Jaccard, J., Turrisi, R. and Wan, C. K. (1990) Interaction Effects in Multiple Regression. Sage University Paper series on Quantitative Application in the Social Sciences, 07-072. Newbury Park, CA: Sage.

4
Keppel, G. (1991) Design and Analysis--A Rsearcher's Handbook. (3rd. ed.) NJ: Prentice-Hall.

5
小牧 純爾 (1995) 『データ分析法要説--分散分析を中心に--』. ナカニシヤ出版.

6
宮本 友弘・山際 勇一郎・田中 敏 (1991) 要因計画の分散分析 において単純主効果検定に使用する誤差項の選択について. 心理学研究,62,207-211.

7
森 敏明・吉田 寿夫編 (1990) 『心理学のためのデータ解析テク ニカルブック』.北大路書房.

8
永田 靖・吉田 道弘 (1997) 『統計的多重比較法の基礎』.サイ エンティスト社.

9
Rosnow, R. L., and Rosenthal, R., (1995) ``Some things you learn aren't so'': Cohen's paradox, Asch's paradigm, and the interpretation of interaction. Psychological Science, 6, 3-9.

10
SPSS Inc. (1997) SPSS Advanced Statistics 7.5. Chicago, IL: SPSS Inc.

11
橘 敏明 (1986) 『医学・教育学・心理学に見られる統計的検定の 誤用と弊害』.医療図書出版.

12
高橋 行雄・大橋 靖雄・芳賀 敏郎 (1989) 『SASによる実験デー タの解析』SASで学ぶデータ解析5.東京大学出版会.

13
Winer, B. J., Brown, D. R. and Michels, K. M. (1991) Statistical Principles in Experimental Design. (3rd. ed.) NY: McGraw-Hill.


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平成12年7月24日