日本心理学会第61回大会発表用資料
Last modified: Sun Apr 16 20:32:30 JST 2000

探索手掛かり情報がalphanumeric category effectに与える影響

石田 翼(東北大学情報科学研究科)

発表後に加筆・修正しているため,実際に発表時に配付した資料とは多少内容(特に結果・考察の部分)は異なる.

はじめに

Alphanumeric category effectとは

 英字-数字カテゴリ効果alphanumeric category effectとは,文字刺激を用いた視覚探索課題において,英字と数字の二種類のカテゴリの刺激を用いた際におきる現象である.具体的には,ターゲット文字を文字群の中から検出する際に,同じカテゴリの文字の中から探索する(within category, WC)よりも,違うカテゴリの文字群の中から探索する(between category, BC)方が成績が良いという現象のことである.つまり数字を探索させる場合には,数字の中から探索するよりも英字の中から探索する方が成績がよいのである.この現象は,文字の同定よりもカテゴリの同定の方が容易であることを示唆している.
 この現象は大きく二つの意味を持つ.一つはTreisman(1980)の特徴統合理論への反証である.この理論によれば文字のように複雑な視覚対象は並列処理できないはずである.しかしカテゴリ効果はターゲットとディストラクタの関係によっては文字刺激も並列処理され得るという現象である.もう一つは,文字に関する情報の貯蔵形式または照合形式についてのこれまでの知見への反証である.このカテゴリ効果は,文字自体の弁別よりもカテゴリの弁別の方が処理が速いということを示している.しかし論理的には階層的にカテゴリの情報は文字情報の下位の項目であるし,また実験的にも文字そのものに関する処理の方がカテゴリに関する処理よりも速い事が示唆されている(Posner, 1970).
 このように既存の二つの理論・実験結果と相反する現象であるので,この現象がなんらかの要因によるartifactなのか,それともそれらの理論の修正を要求するような重要な現象なのかを確認する必要がある.特にこの現象の出現に関して重要であると先行研究で指摘されている要因が幾つか存在するので,それらの影響を確認していく.

本実験の目的

 その影響を与える要因の一つとして,実験のデザインがあげられている.それはBC条件とWC条件をブロック間で操作するとカテゴリ効果が現れるが,ブロック内で操作すると現れないという結果である.これは探索に用いる情報が異なるからと考えられているが,結果は一致していない. と様々である.
 これらの結果は被験者の方略によるものだとして,一定条件の試行を続けた後突然異なる条件の試行を提示するキャッチ試行によって,その方略を明らかにしようとした実験がある(Gletman & Jonides, 1978; Hock et al., 1985).この実験では被験者は,キャッチ試行でもそれまで使っていた方略をとると考えられるので,キャッチ試行とそうでない試行とを比べることによってその方略を明らかにできると考えたのである.しかしこのやり方では被験者一人につき一つのデータしかとれない(最初のキャッチ試行のみ有効)ので,その結果および検定を信用することは難しい.実際,このGletman & Jonidesと Hock et al.の二つ実験の結果は相反するものであった.
 今回の実験ではこのデザインの違いによるカテゴリ効果の違いを見ることにする.上記のような理由からキャッチ試行を用いるデザインではなく,ブロック分けによるデザインを用いる.つまり,WCとBCの操作がブロック間でされるかブロック内でされるかによるカテゴリ効果の変化を見る.このWC・BCの操作は,ディストラクタを操作することによるとベースラインが変わってしまうため,ターゲットを操作することによって行う.

実験

実験1・2に共通のデザイン

 17インチディスプレイ(TOTOKU CV173)に,直径視角約0.4度の仮想円周とその上の12の点を設定し(時計で言う1:30, 2:30, ..., 12:30の位置),そこに黒地に白文字で文字刺激を提示した.その例を図1に示す.

Figure of stimulus display
図1 刺激提示の例

 実験のコントロールにはIBM PC-DOS 6.3/Vを載せたPC/AT互換機を用い,画面表示はS3社のVision968を載せたヴィデオカードを用いた.プログラム開発環境はBorland Turbo C++ 5.0を利用し,ヴィデオカードのコントロール用にCanopus社のグラフィックライブラリ2を利用した.反応時間測定は Interface 社のタイマーボード(IBX-6101)を用いた.
 ターゲットとして,英字として"A","S"を,数字として"4","5"を用い,ディストラクタとして"C","D","E","F","H","K","N","V","Y"の英字を用いた.フォントはApple社の漢字Talk7付属のTrueTypeフォント「中ゴシックBBB等幅」を使用した.ディスプレイサイズは2,4,6である.
 実験1・2とも二つのブロックに分かれており,ブロックの間には休憩を入れる.ブロック毎に探索してもらうターゲット文字が変わるので,ブロック開始時にそれについての教示を行い,練習をしてもらう.ブロックは二つの条件毎に分かれているが,どちらの条件が先に来るかは被験者間でカウンターバランスを取った.
 被験者の課題は,200msec提示される文字群の中からターゲット文字を検出し,あり/なしのキー反応をすることである.あり反応は右手の人指し指で,なし反応は左手の人指し指でキーを押してもらった.反応の正誤は試行毎に画面上にフィードバックされた.

実験1

方法

 WC条件とBC条件が,ブロック毎に分かれるように設定した.つまり一方のブロック(WCブロック)では英字のターゲットを用い,もう一方のブロック(BCブロック)では数字のターゲットを用いた.この場合,BCブロックにおいては被験者はカテゴリ情報が探索の手掛かりであり,一方WCブロックでは文字情報が探索の手がかりとなる.
要因はカテゴリ要因(WCかBCか)×ターゲット要因(有無)×ディスプレイサイズ要因(2/4/6)である.そのそれぞれの組み合わせを34回繰り返し,計408試行行った. 被験者は大学生・大学院生で,女性6名男性3名の計9名である.

結果

 反応時間データは各被験者・条件の組み合わせ毎に外れ値と誤答を取り除いた.そのそれぞれの中央値を被験者間で平均した値を図2にグラフとして示す.また被験者毎にそれぞれの条件毎に回帰分析をし,得られた値を被験者間で平均したものを表1に示す.

Graph for RT of Exp.1
図2 WC条件とBC条件をブロック間で操作した場合の被験者毎の反応時間の中央値の平均値(実験1)

表1 WC条件とBC条件をブロック間で操作した場合の回帰分析の結果の平均値(実験1)
傾き(msec/ letter) 切片(msec)
BC, Target present 12.54 469.80
BC, Target absent 14.27 553.70
WC, Target present 17.54 492.44
WC, Target abesent 35.41 543.90

 まずディスプレイサイズ要因による傾きについてみると,BC条件ではターゲットの有無にかかわらずほぼ一定の傾きを示している.またWCにおいてもターゲットありの条件では,BC条件とほぼ同じ傾きを示しているが,ターゲットなしの条件ではそれらの倍以上の傾きを示している.
 一方切片については,カテゴリ要因による効果はあまりなく,ターゲットの有無による差が見られる.

実験2

方法

 WC条件とBC条件とをブロック内で混合して,等しく出現するように設定した.一方のブロックでは"4"と"S"を,もう一方のブロックでは"5"と"A"を探索してもらう. よってBC/WCともに探索手がかりは文字情報である.
 要因はカテゴリ要因(WCかBCかターゲットなしか)×ディスプレイサイズ要因(2/4/6)で,それぞれの組み合わせを40回行い,計360試行である.
 被験者は大学生・大学院生で,女性4名男性4名の計8名である.

結果

 実験1同様に分析し,反応時間の結果を図3に,回帰分析の結果を表2に示す.

Graph for RT of Exp.2
図3 WC条件とBC条件をブロック内で操作した場合の被験者毎の反応時間の中央値の平均値(実験2)

表2 WC条件とBC条件がブロック内で操作した場合の回帰分析の結果の平均値(実験2)
傾き(msec/letter) 切片(msec)
BC 12.54 464.79
WC 12.52 523.96
Target abesent 39.78 548.08
 BC/WC条件の傾きはほぼ等しく,ターゲットなしの条件の傾きがそれらと異なっている.一方切片については特に一貫した傾向は見られない.

考察

WC/BC条件の影響

 実験1においてはBC条件ではターゲットあり条件・なし条件で傾きがほぼ等しく,WC条件ではターゲットあり条件よりもなし条件の方が傾きが約二倍大きい.WC/BC両条件においてターゲットなしの刺激は物理的に等しいので,これらの結果は刺激の物理的性質によるものではない.よって異なる探索メカニズムが用いられていると考えられる.これは先述の様にWC条件では文字レベルで探索しなければならないのに対し,BC条件ではカテゴリレベルで探索できる事が影響しているのだろう.また切片がターゲットの有無によって異なるのは,よく知られているネガティブな反応の遅れであろう.
 一方実験2においてはBC条件とWC条件それぞれの結果は,実験1での対応する条件(WC/BCそれぞれのターゲットあり条件)での結果とほぼ等しい.一方ターゲットなし条件では実験1でのWC・ターゲットなしの結果とほぼ等しい.このターゲットがあった場合となかった場合の傾きの差は,実験1でのWC条件でのそれとほぼ一致する.したがって,実験2では実験1でのWC条件で用いられたのと同じ一定の探索メカニズムが用いられていたと考えられる.これは具体的には文字レベルで探索するメカニズムである.

並列・系列処理とカテゴリ効果

 次は並列・系列探索の視点から結果を見てみる.
 まず実験1・2どちらとも,どの条件でもある程度の傾きがあるので,完全な並列探索とは言えない.系列探索か,一部資源を共有している並列探索である.
 この実験1で見られた二種類の探索メカニズムのうち,WC条件でのターゲットあり・なしの差は系列探索によく見られる特徴と一致している.系列探索では刺激を一つ照合していくので,ターゲットがない場合はあった場合よりも約二倍時間がかかるのである.一方BC条件でのそれらの差は並列探索の特徴と一致する.並列探索では視野内の刺激を一度に照合できるので,ターゲットの有無に関わらず一定の時間で探索できるのである.
 したがってWC条件では系列探索され,BC条件では並列探索(ただし一部資源共有)されたと考えられる.
 しかしこのように考えた場合,WC/BC両条件のターゲットありの場合の傾きが等しいのが不自然である.これは系列探索と並列探索とが同じ効率でターゲットの検出したということである.並列探索が一部資源を共有しているのでディスプレイサイズに従って増加傾向にあり,その増加率が「たまたま」系列探索の場合のそれと一致したという説明も可能だが,やはり不自然ではある.

先行研究との比較

 先行研究では,今回おこなったようなWC/BC要因をブロック内で操作するかブロック間で操作するかと言う条件において,ターゲットがあった場合となかった場合の反応時間をディスプレイサイズによって比較しているものは少ない. したがって今回のようにBC条件とWC条件の差はターゲットがない場合に現れるという傾向は比較しにくい.
 数少ないそのような実験のJonides & Gleitman (1972)では,go/no-go課題においてターゲットがあった場合にキーを押す群と,なかった場合キーを押す群を設定し,ターゲットあり・なしのそれぞれの場合の反応時間を見ている.しかしターゲットがあった場合でもWC/BCによる差がでており,今回の結果と一致しない.またDuncan (1983, Exp.2)やKrueger (1984)ではターゲットあり・なしの双方の反応時間を取っているが,今回見られたような,WC/BCの差はターゲットなしの場合に現れるという傾向は見られない.
 一方Jonides & Gleitman (1976),Gleitman & Jonides (1976),Gletman & Jonides (1978)は単純なgo/no-go課題であるので,ターゲットが存在した場合の反応時間しかとっていない. go/no-go課題ではターゲットがあった場合の反応時間しか測定できないので,今回の結果から鑑みるとカテゴリによる差はでないはずである.しかしいずれでも差がでており,今回の結果と矛盾している.
 以上から,今回の結果は先行研究の結果とは一致しない.この理由については今後の検討課題である.

まとめ

 文字刺激を用いた視覚探索課題において,ターゲットとディストラクタの英字・数字のカテゴリが一致する場合(WC条件)と一致しない条件(BC条件)においての被験者のターゲット文字探索の成績を見た.その結果,BC条件とWC条件では異なる探索メカニズムが用いられていることが示唆されたが,先行研究で見られたようなカテゴリ効果と等しいものであるとは言い切れなかった.
 そもそもの目的である,WC条件とBC条件をブロック間で操作するかブロック内で操作するかによってカテゴリ効果が変化するかと言う疑問については,肯定的な結果が出た.カテゴリレベルの探索と文字レベルの探索では,ターゲットが存在しない場合の挙動が変化する.WC条件とBC条件をブロックに分けた場合はそれらの探索方略をブロック毎に使い分けていたが,ブロック内で混合した場合は文字レベルの探索方略のみを取っていることが示唆された.  また先行研究ではターゲットが存在する際にWCとBCで明確に異なる傾向が出ていたのに対し,今回の実験結果はその際に同じような傾向が出ていた点において,先行研究とは傾向は一致していない.この原因は今後の研究課題である.

文献

Cardosi, K. M., (1986) Some determining factors of the alphanumeric category effect. Perception & Psychophysics, 40, 317-330.

Duncan, J., (1983) Category effects in visual search: A failure to replicate the "oh-zero" phenomenon. Perception & Psychophysics, 34, 221-232.

Jonides, J., and Gleitman, H., (1972) A conceptual category effect in visual search: O as letter or as digit. Perception & Psychophysics, 12, 457-460.

Jonides, J., and Gleitman, H., (1976) The benefit of categorization in visual search: Target location without identification. Perception & Psychophysics, 20, 289-298.

Gleitman, H., and Jonides, J., (1976) The cost of categorization in visual search: Incomplete processing of targets and field items. Perception & Psychophysics, 20, 281-288.

Gletman, H., and Jonides, J., (1978) The effect of set on categorization in visual search. Perception & Psyshophysics, 24, 361-368.

Hock, H. S., Rosenthal, A., and Stenquist, P., (1985) The category effect in visual search: Practice effects on catch trials. Perception & Psychophysics, 37, 73-80.

Krueger, L., (1984) The category effect in visual search depends on physical rather than conceptual differences. Perception & Psychophysics, 35, 558-564.

Posner, M. I., (1970) On the relationship between letter names and superordinate categories. Querterly Journal of Experimantal Psychology, 22, 279-287.

Treisman, A. M., and Gelade, G., (1980) A feature integration theory of attention. Cognitive Psychology, 12, 97-136.

White, J. M., (1977) Identification and categorization in visual search. Memory & Cognition, 5, 648-657.


付録
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