094:釦



    ころころころころ、転がり落ちて

    はじけて飛んだ

    私は呆然とその様子を眺める、そして大きな溜め息を一つ




    もう何度目だろう

    私は床に転がったボタンを見ながら誰も聞かない独り言を呟く

    去年までは気に入っていた洋服のボタンがかからない

    無理をしてみたけれども、負荷に耐えかねてはじけ飛ぶ

    仕方が無い

    仕方が無い

    仕方が無い

    仕方が……無いのか?






    これはもう病だ。

    食べる、という行為に対する病。

    その瞬間、理性は何処かに溶け去り

    食べた後にはほんの僅かの幸せと、多大なる後悔

    己の弱さをむざむざと見せつけられ、それでも止まることを知らぬ欲

    欲に飲み込まれ、浮き上がることの出来ない自分自身




    明日は服を買いに行こう

    着るものがそろそろ底を尽きるから

    タンスには洋服の屍が埋もれている、私の弱さゆえに失ったものたちも一緒に



    私は転がったボタンを拾い上げると、缶の中に放り投げた

    ありもしない復活の日を夢見ながら、ボタンは缶の中に溜まり続ける




    2003/08/02 tarasuji
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