092:マヨヒガ





    さて、どうしようか。

    油断だった。
    気がつけば、機体は崖に落ち二人っきり。
    まだ幻獣の撒き散らすガスも濃く、外に出ることも適わない。

    しんしんと雪が降り
    十分な暖を取ることも適わず
    この小さな小屋に僕と彼女の2人っきり。


    仲間との連絡も適わず
    世界には人も、幻獣も沢山あふれているこの世界だというのに。
    今このとき世界には僕と彼女の2人きりであるかのような錯覚さえ覚える。


    死ぬわけにはいかない。
    僕も、彼女も待っている人がいる。
    大切な友人たち、1人、1人の顔が浮かぶ。

    先日、その中の1人が死んだ。
    彼女もそれを見ていた。だから、僕はこの大切な友人たちに二度とあんな顔をさせたくない。

    生きて、生きて帰るのだ。

    確率はゼロに近い。

    途中で幻獣に殺される可能性も高い。
    けれども、このままここにいる訳にはいかない。



    「絶対、仲間を見捨てない」



    彼女は強い口調でそう告げた。
    僕は彼女よりも弱い身であるけれども、それでも出来ることはある。

    彼女が眠った。
    僕はマスクを付けて彼女を背負うと、雪の中を歩き始めた。


    先程までいたダムの管理棟からクリスマスソングが聞こえる


    その拙い演奏をしている少女を思い出した。
    背負っている彼女の重みとその温もりを感じながら、生きたいと誓った。



    芝村さん、僕も君を、仲間を見捨てない。




    2003/11/30 tarasuji
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