091:サイレン
世界の運命を変える、恋愛だってある
近づいてはいけない。
世界に、かの人に近づけば己の身が危ないことは知っている。
しかし、彼女の後ろにいれば大丈夫だと感じている。
明日しか見ないその瞳が、その立ち振る舞いが
その姿は、この世界ではもはや御伽噺の世界にしかいない白馬に乗った王子のような。
迷いも、憂いもなく
その背がとても頼もしく、だからこそその背を抱きしめようと、守ろうと思った。
芝村舞に出会い、彼女に魅かれていく自分が居ることに迷いは無かった。
周囲が警告のサイレンを鳴らしているのにも関わらず、自分の中は予想外に平静だった。
あの地獄に近いあの場所で、名も無くただ生きる為だけに何でもやったあの頃に比べれば、
幻獣と戦う今の方がどれだけいいのだろう。
ここは、自分が知らなかった世界だ
そして、その中でも一番心魅かれる存在は彼女だった。
体も心も切り刻まれるあの頃よりも、彼女に嫌われ、見捨てられる恐怖の方が今では強い。
だから、周囲が何を言おうと構わない。
たとえ、人外の存在になろうとも
たとえ、周囲がどんな警告を発しようと
彼女が己を望んでくれるのならばそれでいいのだ。
自分は自分だけに従って生きることを決めたのだから。
迷いも、後悔もない。
その生き様は、青なる青。