075:ひとでなしの恋
永遠とも思える一瞬、一瞬とも思える永遠
どこにでも居る普通の少女が恋をした。
その日から、少女はどこにでも居る普通の少女ではなくなった。
少女のたった一つの初めての恋は、
後に世界を揺るがす程だと言われた恋となったからだった。
二人は普通の恋をした。
少女が人間で、恋した男が魔王だということを抜きにすれば。
少女は魔王と共に居る為にヒトを止めた。
ヒトを止めて、女神になった。
魔王は少女と共に居る為に魔王を止めた。
魔王を止めて、男神になった。
ヒトを止めた少女は、人々に女神と崇め奉られ
魔王を止めた男は、魔族に裏切り者とののしられ
それでも二人は恋をした。
恋愛小説ではお約束と化した沢山の障害や難関が二人を襲った。
もう二度と会えなくなるかと考えていたこともあった。
別れようとも考えた。
沢山の不安と涙と諦めと悲しみと怒りと・・・そして、幸せがあった。
気の遠くなるような年月の末に二人は結ばれた。
それは御伽噺のような、幸せな結末。
既に、自分たちの存在した星が消滅して誰も彼らのことを覚えていない頃、
少女と魔王だった存在は一つになった。
一つになった二つの意識、二人は幸せそうに溶け込んだ。
二人だったものは、新しい星に落ち着いたあとその星の大地に、空に、大気に、水に
その星のあらゆるものに浸透していった。
私は、大地に寝転びながらこの『ほしのこえ』を、星が語る二人の思い出話に耳を澄ませた。
悲しいこともあったが、どこまでも幸せな二人の話にじっと耳を傾ける。
四肢を大きく伸ばした、何故だか大地に抱かれているようで心地よい。そして私は目を瞑り、
もう一度聞こえて来る声に耳を澄ませた。
何故だか、私も幸せになっていくような。
そんな錯覚に酔いしれながら、空の青さがと頬に吹き付ける風の心地よさを道連れにして、
私は眠りの世界に身を委ねた。