074:合法ドラッグ



    馬鹿であるゆえに、馬鹿は馬鹿でいられる


    「ああ、これだから馬鹿はたまらんな」
    自分よりも遥かに強い敵を目の前に、それでも己の拳一つで立ち向かう玖珂光太郎の姿。
    その瞳にはもはや過去の妄執も、復讐も何もなく、ただ、真っ直ぐに目の前の存在を見る
    その瞳に、その姿に、その心を見て、心動かされぬ方が馬鹿だと思う。

    放って置けない
    何をしだすかわからない
    だけど、確実に、『何か』を変えようとする『何か』があった。

    予感と言えるほど陳腐なものではなく、期待というには虫が良すぎる
    絶望を何処かに置き忘れてきた、見ているのは現在ではなく、未来。
    最も、そんなことを本人の前で口にすることは絶対にないが、ここに居る連中皆が、その
    少年…いや青年となった光太郎の背を追いかけ、隣に並んでいる。

    魔道兵器、魔女、道士、そして白狼……本来ならこうして相容れることなどない顔ぶれが
    こうして一同に会し、それぞれが違う目的の為に戦う。


    世界を神の物に戻そうとする馬鹿な連中を倒すには、それ以上の馬鹿が必要だ。
    そして、光太郎は世界が用意した最大級の馬鹿なのだろう。
    光太郎は自分が馬鹿であることを知っている、そしてその上で馬鹿にしか生きられない自
    分がいることも無意識のままに知っているのだ。

    何と言う、強さ。何と言う、心。

    そんな馬鹿に誰も敵う訳がない、誰も勝てる訳がない
    そんなモノを見せられて、もう止めることも出来ない

    それは、何よりも最強で、甘美な『馬鹿』という名のドラッグ

    虜になったなら、もう二度と抜け出せない。それはここに居る連中全てが感じていること

    「いくぜ、親父ズ、ふみこたん、小夜たん!」
    「仕方ねえな」
    目の前の敵を倒せば、ひとまずこの事件は終結する。この愛するべき馬鹿と共に居るうち
    に、自分も馬鹿になっていくことは後で考えることにして日向は最大級の式神を放った。



    2003/05/04 tarasuji
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