065:冬の雀
あの頃の君を手に入れたかった
真っ直ぐに僕だけを見てくれるその瞳が
僕だけを求めて手を差し伸べてくれるその腕が
僕だけを好きだといったその唇を
「ずっと一緒にいようね」
それは幼い頃に交わした約束。
僕も、君もまだ子供だったけど、僕たちは真剣だった。
だって僕たちは小さな頃から一緒だった。
同じ日に生まれ、ずっとずっと一緒に育ってきた。
一緒に遊んで、同じ学校に通って、寄り道して喧嘩して。
あまりにも近くにいたから、その先も一緒だと信じて疑わなかった。
僕は君をお嫁さんにして、君は僕を旦那様にして。
ずっとずっと一緒だと信じていた。
君の両親も、僕の両親もそれはそれは仲が良すぎる僕らのことを応援してくれていたね。
だから、突然君が居なくなるなんて思いもしなかった。
その日、君と些細な喧嘩をした。
悪いのは僕なのに、その日に限って素直に謝れなかった。
僕は君を置いてさっさと家に戻ってそのまま寝てしまった。
君がどんなに心細かったか、君がどんな思いだったのか僕は思いやることすら出来ないほど僕は
子供だった。
その日は雪が降っていた。
僕は君に謝ろうと思って君の家に行く為にいつも通る河原へ行った。
君が大好きな雪だるまを作って、そして驚かせてやりたかったから。
だけど、それは適わなかった。
僕の目の前には別の光景があったのだから。
見覚えのある靴が見えた。
君が先に来ているのかと思って、僕は照れくさくなった。それでも僕が声を掛けようとしたその時、
僕の目の前にあったのは……
白い雪の上に真っ赤になった君
赤い絵の具が散らばっていて、君は目を見開いたまま横たわっていた。
まるで、花が咲いているようだった。
その側には雀が一羽
まるで全てを知っていたかのように。
あれから何がどうなったのか覚えていない。
ただ、確実だったのは君はもうこの世界にいないということだけ。
僕の両手が真っ赤だ。
足元には肉の塊となった中年の男が転がっている。
ちっとも綺麗じゃない。
君のように赤い花なんて咲かない。
ふと、足元を見る。
そこには一羽の雀が居た。
君の笑顔を思い出して、僕は少し切なくなった。
今日も、雪が降っていた。