056:踏切
飛び越えてしまった後に残る物はあるのか?
私はいつもの帰り道を友人と一緒に通る。
その時にいつも通るのがこの踏切であった。この踏切、一度遮断されると中々大変なのだ。
それは1日に一度のことなのだが、一度遮断されると何故か15分は踏切が上がることがな
いのだ。実をいうと、その踏切の近くには駅があって、一度停車するとそのまま停車してし
まうからである。時間は決まっているのだからその時間帯を避けて通れば良いだけの話であ
るが、何故か私の帰宅する時間帯にこの踏切が降りてしまうことが多いのである。
そして、今日もこの踏切は閉まっていた。
私は遮断機が下りる前に急いで走ったのだが、無常にも目の前で下がってしまったのだ。こ
れでこのまま15分待つことは決定。遠回りすればよいだけの話なのだが、その遠回りする
だけの時間と、ここで待っているのとでは殆ど同じ時間がかかるのである。だとしたら、同
じ時間がかかるのであったなら、ここで待っていた方が楽なのは確かである。
私は、先程まで部活でクタクタでこれ以上遠回りして帰る気力も、体力も持っていなかった
のだから。
「しゃーないね」
「うん」
まあ、一人で待つよりはいいだろうと、私は友人とその場で話を始めた。大体、今日の部活
の話とか学校での話とか内容のあるような、無いようなそんな話ばかりだった。そんな時、
隣の友人が突然こんな話を始めてきた。
「なあなあ、よく踏切に飛び込む奴がいるけどさ」
「何々」
頭を軽く振って相槌を返す。
「あれってどんなもんなの?」
いきなりの質問に私はどう返してよいか戸惑った。友人は突然こういう返答に困る質問をし
てくるので慣れているのだが今日もまたそういう類のものである。私は少し友人の質問を制
止して考えて、言葉を返す。
「とりあえず、あれって死ねたらいいけど生き残ったら地獄だよ」
「そりゃ、轢かれるから痛いだろうし」
私は指先を伸ばして掌を左右に動かす。
「ちゃう、それもそうだけどもっとある」
「もっと?」
「うん、その後電車が止まってもしその電車に客が乗っていて遅れたりしたら払わなきゃい
けないでしょ、お金」
友人は頷いて返答を返す。
「それから、電車が壊れたらその修理費、その影響で他の列車が遅れたりしたらキャンセル
料とかいろいろかかるから、確か最低でも一千万以上は借金抱える羽目になるみたいだね」
「わお!」
「場合によっては一億とか」
友人は私の話を聞きながら適当に合いの手を打っている。私だって適当に答えているのだか
らお互い様とでもいった方がいいだろう。
「そうしたら、生き残っても奇跡でも起こらん限り障害も、借金も残るんだ」
「多分そうだね」
踏切まちの学生が話すには物騒な内容だが、私と友人はよくこんな話をしている。
「踏切に飛び込んで死のうとする人間ってすんごい自己チュ−だ」
「そうだね」
カン・・・と警報機の音が止まり、遮断機がゆっくりと上がっていく
人も、車も、自転車も、足早に踏切を越えていく。
私と友人もそれにならい、踏切を足早に越えていった。