038:地下鉄




    窓の外は真っ暗な暗闇

    地下鉄の景色は未だに慣れることなく



    地下鉄は何故か苦手だ

    己がどこまでも這い上がれることのないような

    己がどこまでも地下に埋れ、そのまま朽ち果てていく

    そんな感覚を覚える



    だから地下鉄に乗っているときには景色は見ない

    大抵、本を読んで誤魔化す

    沈黙を通して、息を潜めて



    あの人と一緒に地下鉄に乗ることになった

    黙って、何も言わない私にあの人はこういった




    「俺、地下鉄って結構いいと思う」
    「私は…好きじゃない。景色が見えないと、息苦しい気がするの」
    「そっか。でも俺は外の景色よりも、お前の顔だけ見れるからいいかも」
    「え…?」

    そう言ったときのあの人の顔を忘れられなくて





    私は相変わらず地下鉄が苦手だ。

    けれど、あの人と乗ったあの時の地下鉄は、少しだけ好きになってもいいと思った






    それはいつかどこかの話。




    2003/08/28 tarasuji

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