034:手を繋ぐ
手を繋ぐ
貴方の指に、掌に、温もりに触れる
私はいつも貴方の隣にいた。
私の隣に立って笑う貴方
私の隣で夢を語る貴方
私の隣で怒りに拳を震わせる貴方
私の隣で大粒の涙をこぼす貴方
だけど、貴方は私の隣を選んではくれなかった
「今度、結婚するんだ」
そういって微笑んだ貴方は本当に幸せそうで、私はそれ以上何もいう事が出来なかった。
「よかったね」
私はそれ一言しかいう事が出来なかった。多分、私はこの時上手く表情を作ることが出来ていたのであろう。
貴方も、その隣に居る人も何一つ疑うことはなかったから。
私は貴方に何一つ自分の思いを伝えることが無かった臆病者だから
私は貴方を攻める理由も、その幸せを壊す権利も、何一つ持っていない。
そんな臆病者に出来る事は貴方を祝福する道化になりきることだけ。
貴方の幸せだけを祈ることしか出来ない
そんな気持ちのまま式の日取りは近づいていった
結婚式の前日
貴方は私を飲みに誘った
「花嫁さんはいいの?」
自分でも意地悪な質問だと思う。でも貴方は照れたように笑って、
「今日は独身最期の日だからお前と飲みたかったんだ」
そんな事言われると、ずっと心の中に封じ込めてきた思いがあふれ出しそうになって、私は必死で『友人』の仮面
がはがれないように押さえつけていた。
「サンキュ」
それだけで精一杯だった。
酒が進み、貴方は私に向かってこう言った。
「お前と俺はいつまでも親友だ」
あーあ、本当に残酷だね。
こっちは友達だなんて思っていないのに、そんな事言われたらもう何も言えない。
もう笑うしかないよ、全く。
その帰り道、二人とも酔っ払っていた。
真っ直ぐに歩くことすら出来ない、このまんま戻ったら明日は二日酔いは確実だ。
月は満月、酔っ払い二人。
全てを酔いのせいにして、私は貴方の隣に立った。
「子供の時の頃、思い出さない?」
「あー、そうだな。昔っからこうして隣にお前がおって」
「手繋いで、幼稚園いったね」
あの時は自然に手が繋げた。いつからだろう、その手が離されたのは。
「手繋いでたら、クラスの男の子に馬鹿にされて」
「そうだな、俺がそいつと決闘したんだ」
覚えている。貴方とその男の子は喧嘩して、男の子は鼻血を出したのに貴方は誰に怒られても理由を言わなかった。
そんな不器用な優しいところは昔とちっとも変わっていない。
「手、繋いでみようか」
私が差し出した手を見ながら、貴方は周りを見て、少し照れくさそうにして握ってくれた。
繋いだ指先から、掌から、貴方の温もりが伝わってきた。
お互い、昔のように小さな掌ではなく、ゴツゴツしていて。
だけど、繋いだ感触は昔のまま
ああ、貴方を好きで良かった
「僕、君の事好きだよ……友達として」
「俺も、だからこれからもよろしくな」
「……うん」
この気持ちもいつかは綺麗な思い出として残るのだろうか
それとも、鈍い痛みを与えながらこの胸に棘のように突き刺さっているのだろうか
行方の判らないこの気持ちを抱えたまま
それでも僕は思うだろう
「君を好きで良かった」
明日は君の結婚式
2003/02/17 tarasuji
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