024:ガムテープ
あの女の口を塞いでしまえたら
あの煩い女の口を塞いでしまえたら
僕はどんなに楽になるのだろう
このガムテープで
もう二度と口が利けないように
彼女は僕の幼馴染だった
いや、そう思っているのは彼女の方だけだ、僕は彼女のことなど何とも思っていないと言えば嘘になるが。
それでも僕が彼女に『好意』など持ったことは無かっただろう。
そもそも、彼女が僕の家の隣に引っ越してきて、そうして初めて出会ったあの日から僕は彼女を疎ましく
思っていた。
彼女は勉強も、スポーツも、人付き合いも何でも出来た。
僕だって、それなりに頑張ってきたのに『彼女』が現れてからその全てが無駄になったかのように諦めた。
そして、彼女は僕のことを自分が何とかしなくちゃと思ったらしく、事ある毎に僕の世話をやく。
それはまるで僕への慰めのように
それはまるで僕への哀れみのように
勿論、それが被害妄想だということも自分が矮小であることも自分自身が一番理解している。
こんなことを考える僕の方が間違っているって分かっている。
だけど、彼女を煩わしく思っている自分がいることが今の自分を支えているのも疑いのない事実で。
僕がいつもそんなことを考えていることを知ったら彼女はどんな顔をするのだろう
あの、秀麗な顔は悲しみに歪むのだろうか、それとも怒りに震えるのだろうか
それを考えるだけでも、不謹慎だということは重々承知しているが僕は楽しくなってくるのである。
自分がどうしようも無いことを知っていながらも止められない。
それはある意味中毒症状と同じこと
「もっと頑張れば出来ると思うのに」
「本当は実力あるのに」
「何でそんなにやる気がないのかしら」
冗談じゃない。
彼女は僕を買いかぶっている。僕はそんな高尚でも才能がある訳でもない。
本当の実力?彼女が僕の何を知っているんだ。
彼女は自分の幼馴染が駄目な奴だということが気に入らないだけ、決して僕の為ではない。
だから、僕は彼女の口を塞いだ。
言葉というガムテープで
二度と、僕に話しかけないように
彼女が最後に言った言葉
「昔から貴方のことが好きだったのに」
今更言われてももう遅い
彼女の言葉を奪ったガムテープで、僕は自分の心を塞いでしまった。
彼女を想う僕のココロを、もう二度と開かないように。
2003/02/05 tarasuji
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