「モノ書きさんに33のお題」
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モノ書きさんに33のお題

内容:乾海ショートショートショート(SSS)で33題

01:手 02:落ちる 03:イエス 04:バンドエイド 05:玉子焼き
06:サン 07:言祝ぎ 08:砦 09:花冷え 10:犬 11:見つける
12:オレンジジュース 13:メール  14:ゆびきりげんまん 15:ソフト
16:忍ぶ恋 17:発熱 18:フリー 19:否む 20:罪と罰 21:充電
22:プラシーボ 23:泡沫 24:アルカロイド 25:苦手 26:おでこ
27:先手必勝 28:セーラー服 29:不機嫌 30:リング 31:神様
32:レーゾンデートル 33:さいご



01:手

乾先輩が俺の頭を撫でる手の感触
無意識に触れられるその行為

だけど
その手に触れられるだけで、ほんの少し嬉しくなる

同じ男の手なのに

何で…
俺ばかり意識してしまうようで、悔しい

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02:落ちる

もし、俺が穴に落ちたら
海堂はどんな行動に出るのだろうか
そんな他愛もないことを
ふと出来た空白の時間にシミュレートしてみる

彼は白馬の王子のように颯爽と現れて
きっと彼は、俺に文句をいいながらそれでも助けてくれるだろう
俺は、助けられた後に間抜けな顔で君を見て笑う

彼は呆れた顔で俺を見てから、そして俺に怒鳴る確率は95%

そんな想像をいつもしていることを、君は知らない

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03:イエス

全ての問いにイエスで答えよ

−俺は眼鏡をかけている−
「イエス」

−俺は野菜汁を作るのが好きである−
「イエス」

−俺はデータを取るのが趣味だ−
「イエス」

−海堂薫は乾貞治とダブルスを組んでいる−
「イエス」

−海堂薫は乾貞治の恋人である−
「イエ…ちょっと!」
「やっぱり駄目だったか」

駄目だったかって…やっぱりこの先輩油断ならねえ

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04:バンドエイド

海堂の指にバンドエイドを巻く
無防備に差し出された手は
練習の後がありありと見えて

手を差し出す海堂の指にゆっくりと巻きつけて

それを見る海堂は普段よりも無防備で
俺の中のささやかな独占欲をかきたてる

巻いた後に、手を握り締めて
バンドエイドの上から唇でゆっくりと触れた

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05:玉子焼き

海堂の弁当箱はいつも重箱。
一度中身を見せてもらったが、海堂の母親が料理が得意だということが良くわかる品揃えだ。

黒塗りの重箱の中に薄黄色の玉子焼き
焦げ目一つなく、見た目にふっくらとした玉子焼き

一度でいいから食べてみたいものだ

「先輩、これどうぞ」

差し出されたのは玉子焼き

「先輩、じっと俺の弁当見ていたんで・・・」

こういうのを、以心伝心というのか。
また、俺のデータに新しく付け加えなくてはな。

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06:サン

「やあ、海堂」
「何の用ですか、乾サン?」
「か、海堂〜」

海堂の周りにブリザードが舞っている。
ただでさえ、俺以外の人間にはお前は怖がられているらしいから海堂が不機嫌な今、俺以外の人間が海堂に近づくことなどない。
おかげで、俺は周囲から勇者扱いだ。

原因はただ一つ
昨日、些細なことで海堂と喧嘩した

「乾、早く海堂と仲直りしなよ」
「不二」
「仲直りしないと…」

背後に漂う何かに怯えるかのように俺は海堂の元に走った。

「海堂!俺が悪かった!許してくれ!」
「せ、先輩…!?」

その後、俺の『海堂に土下座で平謝り事件(菊丸命名)』はしばらくテニス部中の噂となるのであった。

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07:言祝ぎ

「おめでとうございます」

俺が、レギュラーに戻ったその日
君は帰り際にその言葉をくれた

結局、手塚には勝つことが出来なかった
この3年、手塚のデータを集めて
もう少しで手が届きそうだと思っていたのに。それは結局俺の思い過ごしだということを思い知らされ。レギュラーに戻れたことも喜び半分だった自分が居た。

だから、君がそんな言葉をくれたことが、ようやく戻れたという実感を与えてくれた。

ありがとう、海堂。

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08:砦

砦の最上階には姫が王子を待っている
そういう御伽噺があったような気がするが、俺のうろ覚えかな?

君の中にある高い高い砦を乗り越えて
最上階に辿り着くことが出来たならば
御伽噺のように君は俺を好きになってくれるだろうか
いや、君のことだから
折角辿り着いた俺を最上階から叩き落とすかもしれない

「何、笑ってるんスか?」
「いや、ちょっとね…フフ」
「それより、部長が呼んでたっスよ」
「そうか、今行く」

そう言って君は駆け出していった。

ねえ、海堂。
俺は、少しは君という砦の高いところに居るって思っていいのかな?

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09:花冷え

海堂が今夜ここに来る確率99.98%
何か起こらない限り、実直な彼はここを通る

「やあ、海堂」
「乾先輩」
「偶然だね」

偶然を装って俺は彼に出会う。
海堂は、ちょっと困ったような顔をして、それでも先輩だから無下にするわけにもいかないと思っているのだろう。言葉よりもそれは表情に雄弁に表れる。

桜が散りかける春の夜
俺は、海堂と一緒にその光景を見ている

「…桜、綺麗っス」

本当は桜よりも、俺は君を見ている。

「ヘックシュ!!」

海堂、雰囲気ぶち壊しだな…だからそんな目で俺を見ないでくれ。
海堂はポケットからティッシュを取り出して俺に差し出した。

「…先輩、鼻水出てるッス」

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10:犬

最初は機械かロボットかと思った
しかし、それは違う

犬だ、しかもセントバーナードのような大型犬だ

懐くと、どこまでも着いてくるし
それでいて俺が駄目だって言うと絶対そんなことしない
昔、飼っていた犬のように
俺に駆け寄ってくる姿が可愛いだなんて

先輩にいったら絶対付け上がるに違いないから
絶対、言ってやんねぇ。

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11:見つける

海堂と出会ってから一年と3ヶ月

始めは只のテニス部の後輩の1人だった。
先輩と後輩
それだけで終わるはずだった関係は、君の新たな一面を見つける度に変化していく。

只の後輩から熱心な後輩に

熱心な後輩からレギュラーとして

レギュラーからライバルとして

ライバルから好きな人へと

君を新しく見つける度に変化していくのは立場だけでなく
俺の心の中に占める割合が段々増えていく

それが嫌じゃないといったら、君はどう思うだろう

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12:オレンジジュース

「海堂は、これが好きなんだよな」

先輩が自販機の前でボタンを押した。
ガランと音がして落ちてきたのは、100%のオレンジジュース

人の好みまでデータに入力済み
この人は一体何処まで俺のデータを持っているんだろうか

先輩に礼を言おうとして缶を取ろうとした

「…海堂?」
「先輩…」

手にしたのは、ホットのオレンジジュース
先輩も俺も顔を見合わせて固まっていた

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13:メール

携帯を買い換えることにした。
店の人に前の機種を引き取ることも出来ると言われたけれども、結局持ち帰ることにした。

どうしても捨てられなかった

女々しいと思われるけれども
先輩から貰ったメールを消すことが出来なかった

何気ない言葉の一つ一つに
俺と、乾先輩が繋がっていると思いたかったから

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14:ゆびきりげんまん

「海堂、約束しよう」
「はあ?」

そう言って先輩は小指を出した。

「ゆびきり」

俺はそんな先輩を無視しようとしたが、差し出された小指が何となくむなしそうで仕方なく右手の小指を絡ませた。

指と指が絡む

「♪ゆーびきりげーんまん…」

触れた小指を離したくないと言ったら
先輩は笑うだろうか。

約束したっすよ
このダブルス、必ず一緒に勝ちましょう

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15:ソフト

慣れないPCショップの前で
俺は葉末に書いて貰ったメモをもう一度見直す

先輩、この間このソフトが欲しいって言ってたから

…別に変な意味じゃねえ。
いつもメニュー作ってもらってるし、世話になってるから礼をしないとと思っただけだ。
けれど、俺もよくわからねえから葉末に聞いてみたんだ。

けど、先輩。
アンタ本当にこんなの欲しいのかよ…

俺まだ中学生だから、こんなの買えねえよ。
俺は18禁コーナーを遠目にしながらその店を後にした。

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16:忍ぶ恋

想いを告げようとは思わない

それを言えば、潔癖な海堂は俺を拒否だろう。
俺は臆病だから
今の関係を壊すよりは嘘でも先輩後輩のままで

卑怯だな

データは通じない
俺の理性が何処までこの気持ちを押しとどめるのか

己にも、それは判らない

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17:発熱

熱で、学校を休んだ

「マムシが熱を出すなんて天変地異の前触れか?」

桃城、直ったら覚えてろ。
部活の先輩たちが見舞いに来てくれた。
まあ、半分以上は見舞いに来ているのか騒いでいるのか判らないが、それでも普段こうして気にかけてもらえるとは思っていなかったので驚いた。

見舞いには乾先輩も居た。

「無理しないで、休むことも必要だよ」

そう言って、俺に触れた手のひらは冷たいのに
熱のせいかそれがとても心地よかった。
来てくれて、ありがとうございます。

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18:フリー

夏の合宿の自由時間
桃城はさっさと何処かにいってしまったし、他の皆も何処かに行ってしまった。練習することも禁じられ、俺は何をしようか考えていたときに声を掛けられる。

そして、いつの間にか先輩と川に来ていた。

今日は天気もよく、川の水も丁度いい温度で。
年上のはずなのに、子供のようにはしゃぐ先輩に俺も最初は呆れながら付き合って。

ダブルス組まないかと申し込まれたときも川だった。
それを受け入れたのも川だった。

そのときから俺は先輩に自分の何かを捕らえられたような気がする。

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19:否む

「断る!」

海堂がそういう確率、90%
うん、データは嘘をつかないね。

プライドの高い君が、この提案に乗るつもりがないのは十分承知の上で俺はこの提案を申し込んだ。
けれども、俺も引く気はないよ

データ上では俺と君のダブルスは結構相性もいい

それに、これはデータ上だけの問題じゃない。
相手は氷帝
青学が負ける確率だってありうる・・・まあデータ上なら互角だが

だから、この夏が終わる前に
俺は、海堂と一緒にコートの上で戦いたい

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20:罪と罰

俺が先輩を好きなのが罪ならば

俺が海堂を好きなのが罪ならば

その感情にはどんな罰が与えられるのだろう

この思いを

何が罰せられるのだろう

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21:充電

卒業してから3ヶ月
久しぶりに海堂に会った。

少し背が伸びたようだ、それに筋力も前よりついたようだし、練習メニューを直さないといけないな。

けれどそれも後にして、俺は君を抱きしめる

会わなかった3ヶ月
君が足りない

俺に海堂を充電させて

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22:プラシーボ(もしくはプラセボ)

傍に居るだけで
1人だった寂しさが消え失せる

何も言わなくてもいい
君が俺の元気の元

たとえ、それが効果がなかろうとも
俺自身に一番よく効く薬

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23:泡沫(うたかた)

こうして抱きしめられているのが嘘のようで
これは夢だと思いたくなる

いつか消えてしまうのを知っているのに
泡沫の夢だと知っているのに

それでも、この腕を彼の背にそっと回して

その、温もりを確かめる

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24:アルカロイド

データマニアで変人という文字がよく似合う目の前の男

それが、乾先輩の一般的評価である。
理数系には強いし、メニューも作ってくれる一応の恩人であり年上の先輩なのだから酷いことは言いたくないが…

あの汁だけは何とかして欲しい

大体、本人は栄養バランスを考えたモノだと言っているが
最初の犠牲者は大体俺なんだぞ。
青酢のときは、数年前に亡くなったひい爺さんが向こうから手を振っている幻を見た記憶がある。

本当に、あれだけは何とかして欲しい
そう思っている合間に先輩がまた新しいレシピが出来たとやってくるのは時間の問題だ。

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25:苦手

最初は苦手だった
その見えない眼鏡も、言動も

自分の全てを見透かしているようで
不快というのが正直なところだった

けれど、一度知ってしまったら
その全てが俺を惑わせて

苦手が、好きに変化する瞬間

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26:おでこ

額に触れた一瞬の感覚

乾先輩が変なのは知っているけれども
どうして、あんなことを・・・

只の冗談か
それとも何かのデータ収集なのか

けれども、俺はそれに振り回されて
頭の中は、それだけになる。

このモヤモヤを吹き飛ばすために
俺は家を出て走り始めた

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27:先手必勝

恋愛は先手必勝だというけれども
それは半分正解で半分間違いだ

「好き」だなんて最初に言った方が負けなんだ

認めてしまったら、二度と適わない
言ってしまったら、喜ばせるだけだ

だけど
言わなければ後悔するだけだから一度だけ言ってやってもいい

覚悟してろよ、先輩

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28:セーラー服

海堂に殴られた

「本当に馬鹿か、アンタは!」

言われなくても判ってる
自分が一番馬鹿だということに

でも海堂なら似合うと思うのだけれども
濃紺のセーラー服

…一度ぐらい着てくれないかな

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29:不機嫌

彼の姿を見ることが、嬉しさよりも苛立ちに変わっていったのはいつからだろう。
彼の隣にいるのが当然だと思っていたから

だから、その位置に誰も立って欲しくない
彼は俺の気持ちなど知らないから、女子と話しもするだろう。
俺は自分の心がこんなに狭いだなんて思ってもいなかった。

「乾、独占欲むき出しだよ」
「不二」
「結構、表に出やすいからね」
「すまない…」
「謝るのは僕にでないでしょ」

ゴメン、海堂。
俺はやっぱり君に関してはワガママな男らしいです。

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30:リング

「わ、どうしたのその指輪」

今度の文化祭で、テニス部1・2年合同で劇を行うことになり小道具として指輪を使うらしい。内容は今年に上映された某大作映画のパロディを行うらしいことは海堂から聞いていた。

「桃城の奴が…」

海堂の話によると、無理矢理に海堂の指に嵌めたら抜けなくなってしまったらしい。幸い明日は休日のため海堂は外してもらいに行くらしい。だから、今日一日は指輪を嵌めたままなのだと。

外れない指輪は、左手の薬指
それを見てついに口にしてしまった。

「海堂、7年後は俺がちゃんと指輪をあげるよ」
「な、何言ってんですか!?」

さて、その為に貯金しておかないとね。

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31:神様

もし神様という奴がいるのなら

俺にテニスをくれたこと
俺と彼を出会わせてくれたこと

それだけは感謝します。

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32:レーゾンデートル

俺も彼もまだ子供で
この世界に生まれてきたことの意味も理由も知らず

ただ、生きているだけれども

それでも、互いが互いに会う為に生まれてきたのだったら
それだけでも十分な理由だと思える

互いの体の温もりを感じながら
まどろむ中で

ふと、そんなことを考えた

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33:さいご

「俺は海堂の腕の中で最期を迎えたいな」
「何馬鹿言ってんスか」

呆れた顔で俺を見る海堂。
少しぐらい、話に付き合ってくれたっていいじゃないか。
実際、そうしたくても出来ないかもしれないんだから

ちぇ、っと少し布団に包まっていじけてみる。

「俺は先輩と最期まで…一緒ッス」

最後の方は消え入るように呟く声だったが、海堂の言葉ははっきりと俺の耳に届いたよ。
毛布にくるまって背を向けている海堂が、真っ赤になっているのは見なくても予測できる。

ああ、やっぱり君には適わない

俺は、丸くなっている海堂を毛布ごと後ろから抱きしめた。

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