「モノ書きさんに33のお題」 内容:乾海ショートショートショート(SSS)で33題 |
01:手 02:落ちる 03:イエス 04:バンドエイド 05:玉子焼き |
01:手 乾先輩が俺の頭を撫でる手の感触 だけど 同じ男の手なのに 何で… 02:落ちる もし、俺が穴に落ちたら 彼は白馬の王子のように颯爽と現れて 彼は呆れた顔で俺を見てから、そして俺に怒鳴る確率は95% そんな想像をいつもしていることを、君は知らない 03:イエス 全ての問いにイエスで答えよ −俺は眼鏡をかけている− −俺は野菜汁を作るのが好きである− −俺はデータを取るのが趣味だ− −海堂薫は乾貞治とダブルスを組んでいる− −海堂薫は乾貞治の恋人である− 駄目だったかって…やっぱりこの先輩油断ならねえ 04:バンドエイド 海堂の指にバンドエイドを巻く 手を差し出す海堂の指にゆっくりと巻きつけて それを見る海堂は普段よりも無防備で 巻いた後に、手を握り締めて 05:玉子焼き 海堂の弁当箱はいつも重箱。 黒塗りの重箱の中に薄黄色の玉子焼き 一度でいいから食べてみたいものだ 「先輩、これどうぞ」 差し出されたのは玉子焼き 「先輩、じっと俺の弁当見ていたんで・・・」 こういうのを、以心伝心というのか。 06:サン 「やあ、海堂」 海堂の周りにブリザードが舞っている。 原因はただ一つ 「乾、早く海堂と仲直りしなよ」 背後に漂う何かに怯えるかのように俺は海堂の元に走った。 「海堂!俺が悪かった!許してくれ!」 その後、俺の『海堂に土下座で平謝り事件(菊丸命名)』はしばらくテニス部中の噂となるのであった。 07:言祝ぎ 「おめでとうございます」 俺が、レギュラーに戻ったその日 結局、手塚には勝つことが出来なかった だから、君がそんな言葉をくれたことが、ようやく戻れたという実感を与えてくれた。 ありがとう、海堂。 08:砦 砦の最上階には姫が王子を待っている 君の中にある高い高い砦を乗り越えて 「何、笑ってるんスか?」 そう言って君は駆け出していった。 ねえ、海堂。 09:花冷え 海堂が今夜ここに来る確率99.98% 「やあ、海堂」 偶然を装って俺は彼に出会う。 桜が散りかける春の夜 「…桜、綺麗っス」 本当は桜よりも、俺は君を見ている。 「ヘックシュ!!」 海堂、雰囲気ぶち壊しだな…だからそんな目で俺を見ないでくれ。 「…先輩、鼻水出てるッス」 10:犬 最初は機械かロボットかと思った 犬だ、しかもセントバーナードのような大型犬だ 懐くと、どこまでも着いてくるし 先輩にいったら絶対付け上がるに違いないから 11:見つける 海堂と出会ってから一年と3ヶ月 始めは只のテニス部の後輩の1人だった。 只の後輩から熱心な後輩に 熱心な後輩からレギュラーとして レギュラーからライバルとして ライバルから好きな人へと 君を新しく見つける度に変化していくのは立場だけでなく それが嫌じゃないといったら、君はどう思うだろう 12:オレンジジュース 「海堂は、これが好きなんだよな」 先輩が自販機の前でボタンを押した。 人の好みまでデータに入力済み 先輩に礼を言おうとして缶を取ろうとした 「…海堂?」 手にしたのは、ホットのオレンジジュース 13:メール 携帯を買い換えることにした。 どうしても捨てられなかった 女々しいと思われるけれども 何気ない言葉の一つ一つに 14:ゆびきりげんまん 「海堂、約束しよう」 そう言って先輩は小指を出した。 「ゆびきり」 俺はそんな先輩を無視しようとしたが、差し出された小指が何となくむなしそうで仕方なく右手の小指を絡ませた。 指と指が絡む 「♪ゆーびきりげーんまん…」 触れた小指を離したくないと言ったら 約束したっすよ 15:ソフト 慣れないPCショップの前で 先輩、この間このソフトが欲しいって言ってたから …別に変な意味じゃねえ。 けど、先輩。 俺まだ中学生だから、こんなの買えねえよ。 16:忍ぶ恋 想いを告げようとは思わない それを言えば、潔癖な海堂は俺を拒否だろう。 卑怯だな データは通じない 己にも、それは判らない 17:発熱 熱で、学校を休んだ 「マムシが熱を出すなんて天変地異の前触れか?」 桃城、直ったら覚えてろ。 見舞いには乾先輩も居た。 「無理しないで、休むことも必要だよ」 そう言って、俺に触れた手のひらは冷たいのに 18:フリー 夏の合宿の自由時間 そして、いつの間にか先輩と川に来ていた。 今日は天気もよく、川の水も丁度いい温度で。 ダブルス組まないかと申し込まれたときも川だった。 そのときから俺は先輩に自分の何かを捕らえられたような気がする。 19:否む 「断る!」 海堂がそういう確率、90% プライドの高い君が、この提案に乗るつもりがないのは十分承知の上で俺はこの提案を申し込んだ。 データ上では俺と君のダブルスは結構相性もいい それに、これはデータ上だけの問題じゃない。 だから、この夏が終わる前に 20:罪と罰 俺が先輩を好きなのが罪ならば 俺が海堂を好きなのが罪ならば その感情にはどんな罰が与えられるのだろう この思いを 何が罰せられるのだろう 21:充電 卒業してから3ヶ月 少し背が伸びたようだ、それに筋力も前よりついたようだし、練習メニューを直さないといけないな。 けれどそれも後にして、俺は君を抱きしめる 会わなかった3ヶ月 俺に海堂を充電させて 22:プラシーボ(もしくはプラセボ) 傍に居るだけで 何も言わなくてもいい たとえ、それが効果がなかろうとも 23:泡沫(うたかた) こうして抱きしめられているのが嘘のようで いつか消えてしまうのを知っているのに それでも、この腕を彼の背にそっと回して その、温もりを確かめる 24:アルカロイド データマニアで変人という文字がよく似合う目の前の男 それが、乾先輩の一般的評価である。 あの汁だけは何とかして欲しい 大体、本人は栄養バランスを考えたモノだと言っているが 本当に、あれだけは何とかして欲しい 25:苦手 最初は苦手だった 自分の全てを見透かしているようで けれど、一度知ってしまったら 苦手が、好きに変化する瞬間 26:おでこ 額に触れた一瞬の感覚 乾先輩が変なのは知っているけれども 只の冗談か けれども、俺はそれに振り回されて このモヤモヤを吹き飛ばすために 27:先手必勝 恋愛は先手必勝だというけれども 「好き」だなんて最初に言った方が負けなんだ 認めてしまったら、二度と適わない だけど 覚悟してろよ、先輩 28:セーラー服 海堂に殴られた 「本当に馬鹿か、アンタは!」 言われなくても判ってる でも海堂なら似合うと思うのだけれども …一度ぐらい着てくれないかな 29:不機嫌 彼の姿を見ることが、嬉しさよりも苛立ちに変わっていったのはいつからだろう。 だから、その位置に誰も立って欲しくない 「乾、独占欲むき出しだよ」 ゴメン、海堂。 30:リング 「わ、どうしたのその指輪」 今度の文化祭で、テニス部1・2年合同で劇を行うことになり小道具として指輪を使うらしい。内容は今年に上映された某大作映画のパロディを行うらしいことは海堂から聞いていた。 「桃城の奴が…」 海堂の話によると、無理矢理に海堂の指に嵌めたら抜けなくなってしまったらしい。幸い明日は休日のため海堂は外してもらいに行くらしい。だから、今日一日は指輪を嵌めたままなのだと。 外れない指輪は、左手の薬指 「海堂、7年後は俺がちゃんと指輪をあげるよ」 さて、その為に貯金しておかないとね。 31:神様 もし神様という奴がいるのなら 俺にテニスをくれたこと それだけは感謝します。 32:レーゾンデートル 俺も彼もまだ子供で ただ、生きているだけれども それでも、互いが互いに会う為に生まれてきたのだったら 互いの体の温もりを感じながら ふと、そんなことを考えた 33:さいご 「俺は海堂の腕の中で最期を迎えたいな」 呆れた顔で俺を見る海堂。 ちぇ、っと少し布団に包まっていじけてみる。 「俺は先輩と最期まで…一緒ッス」 最後の方は消え入るように呟く声だったが、海堂の言葉ははっきりと俺の耳に届いたよ。 ああ、やっぱり君には適わない 俺は、丸くなっている海堂を毛布ごと後ろから抱きしめた。 Copyright(C)2004 Angeic Panda All rights reserved. ブラウザを閉じて終了して下さい |