【名詞30題】

01.挨拶 02.決意 03.感触 04.温度 05.不思議 06.快哉
07.散策 08.後悔 09.秘密 10.矛盾 11.複眼 12.絵葉書
13.歓喜 14.棘 15.心 16.安堵 17.奇跡 18.人形 19.水鏡
20.欠片 21.祝詞 22.夢 23.愛撫 24.葛藤 25.長期休暇
26.教室 27.植物 28.石 29.約束 30.旅立ち

01.挨拶

「先輩、おはようございます」

礼儀正しい君は、どんな時にも欠かすことがない。

君の声を聞くために
俺は毎日、声をかける。

→礼儀正しい君にときめく


02.決意

海堂は、最後まで勇敢だった。
怯むことなく、最後まで己の力を尽くして戦ったその姿。

だから、俺もここで負けるわけにはいかない


データは揃った

海堂にも、そして俺自身にも負けないために。
俺はコートという戦場に向かい歩き出す。

→S3、決意を固める


03.感触

海堂に触れる
君は、俺に抱きしめられて嫌がるけれども

本気で嫌がっていないのだと自惚れて

そんな君の行動に
俺は調子に乗って
腕の中の君をもっともっと強く抱きしめる。

→人に触れ、己を確かめる


04.温度

「先輩、これ今日付き合ってくれた礼」

そう言って手渡されたのはホットのココア
冷えた手にその温もりが満たされて

飲み干した後に
海堂を思って心が温もる。

→僅かな、優しさに


05.不思議

何故、彼だったのか

何故、先輩だったのか

理由など分からない
答えは胸の奥底のみ知る

→理屈じゃない


06.快哉

自分だけがこんなに気持ちを乱されたと思った
迷いの中で迷い込み
葛藤の中で葛藤し
逡巡の中で逡巡し
絶望の中で絶望し
諦観の中で諦観し

それが、自分1人だけじゃないと知ったその瞬間
内にある全てが吹き飛ばされたのを感じた

→胸から憑き物が落ちた瞬間


07.散策

思考を切り替える為に場所を変えるのも効率的だ

いつも知っている場所の見知らぬ一面を見つけて
また新たなデータを付け加える。

そうしているうちにふと気がつく
今俺が見ているこの光景
海堂だったらどう感じるだろうか
海堂だったらこう反応するのだろうか

やはり何処に行っても
君から離れることが出来ないらしい

→何を見ても君を想う


08.後悔

氷帝D2戦

俺は、俺自身の
君は、君自身の
互いが身上とするスタイルで戦うことが出来た

だから、負けたこともあの時アウトを申告したことも
後悔なんかしていない。

後悔なんかしている暇はない
海堂は、まだ俺にチャンスをくれた。

だから、次こそ2人で勝利を得よう

→自分達の、はじまりはここに


09.秘密

「先輩、俺に何か隠してませんか?」

ふと、2人きりになった瞬間に問われる。
そういう時は、いつもの表情で俺は海堂に言ってやる。

「何も、ないよ」

君は嘘や隠し事が嫌いなのは十分承知しているけれども
ゴメン、今は言えない。

全てを君に明かすのは、もう少し。
君の誕生日には、全て明かすから。

だからもう少し、秘密だよ。

→君の驚く顔が見たいから


10.矛盾

その口から語られる理屈も
何処を見ているか見抜けないその眼鏡も
何を考えているか解らないその表情も

自分とは一番遠いところにいるだろう先輩の
自分とは相容れないだろうその全てが

俺の中で先輩という姿を形作っている
だからそれを含めた先輩を、俺は嫌いになれない

→好きになればアバタもエクボ


11.複眼

トンボの目が複眼だと習ったのは
小学校の理科の時間だった

自然界の中で生き残るには沢山の情報を
何よりも早く察知することが必要で
自然にそういう体になったのだろう
ふと、乾先輩のことが頭に過ぎった。

先輩の目は二つだけしかないけれども
俺の知らない情報を沢山持っている
それがトンボにそっくりだと、ふと思った

→本当は自分だけを見て欲しい


12.絵葉書

ポストの中に一通の葉書が入っていた
見知らぬ風景の写真の裏に
丁寧な字で綴られた言葉は少なめで

けれども彼からだと、すぐに解った

互いにすれ違いの日々の中の心遣いが嬉しくて
俺もメールの代わりに引き出しにあった葉書で返事を出した

→たまにはアナログに


13.歓喜

両思いになりたいなんて

望まず、期待せず、要求せず、予感せず

己の欲望だけがそこにあった
だから、それが叶ったことを知ったそのとき

今ならこの感情の中で最期を迎えても後悔は無かった
つまりは、それほどの気持ちだってことだよ。

→望まないが諦めていないからこそ得る


14.棘

海堂の周囲には棘が張り巡らされている
それは彼自身が巡らせたもの

けれども、その棘に守られている
【海堂薫】の存在を知ってしまったから

俺はその棘を乗り越えて
【海堂薫】に触れてみたい

→いばら姫を目覚めさせる王子のように


15.心

在り処なんて知らないけれど
それは必ず何処かに存在する

好きになった嬉しさも楽しさも
好きになった切なさも痛さも

ココにあるのだから

→錯覚なのか違うのか解らないけれど


16.安堵

海堂は己のテニスに
まっすぐで、がむしゃらで、ひたむきで
どこまでもそれを貫こうとする

そのひたむきさ故に己をかえりみないその姿に
いつか俺の前からいなくなってしまうのではないかと
時々不安になる

でも、コートから戻ってきた彼の姿を見て
俺がどれだけ安堵しているかだなんて
俺だけが知っていれば、それでいい

→本当は抱きしめて存在を確かめたい


17.奇跡

俺と海堂が出会ったこと
互いにテニスをしていたこと

それは奇跡なんかじゃない、必然だ

けれど
海堂が俺を好きだと言ってくれること
海堂が俺自身を受け入れてくれたことは

そういうことだと考えてしまうのはデータマンとして失格かな

→世界は奇跡と呼べる必然で成立する


18.人形

何かを言おうとして
上手く言葉に出来なくて

そんな自分を後ろから見ているもう一人の自分がいる

後ろから見た自分の姿は余りにぎこちなくて
昔、幼稚園のお遊戯会で見た人形劇の人形のようで
先輩の前でだけそうなる自分が余りに滑稽で

恥ずかしさに、逃げ出したくなる。

→過度の緊張が余裕を奪う


19.水鏡

俺が海堂を意識し始めたのと
海堂が俺を意識し始めたのと

それは、どちらが先だったのか。
今となっては誰にも分からない。

けど、互いの気持ちを知ったその時
それは水鏡のように対照的で

一つ、違うのは互いに触れ合えることだ。

→卵か先か雛が先か


20.欠片

生まれたときから欠け落ちた部分をうめる欠片
それが貴方だと誰かが歌った

そんなロマンティックなことは必要ない
互いが1人の人間として生きる様々なピースの1つ
それが互いの存在

けれど、1度はまったら中々抜けてくれそうにはない
その事実に喜んでいる自分がここにいる

→運命の欠片だなんて吹っ飛ばせ!


21.祝詞

生まれてきてくれてありがとう
生んでくれてありがとう
【貴方】という存在を生み出した
【貴方】という存在を育て上げた

全ての事象にありがとうと
声を大にして叫びたいと告げたら

「アンタ、馬鹿だろ?」

隣の海堂が呆れ顔で俺を視線を寄越した

→誕生日とは全てを祝う日


22.夢

このところ毎夜夢を見る
その中の海堂はいつも、俺に誘いかける。

普段は見せない蕩けた表情
いつもより高めの声色
汗に張り付いた乱れた髪

目が覚めて
ここにいない君に毎朝懺悔している。

→乾だって、まだ中学生だから


23.愛撫

俺の指先一つで
声を上げ、
身を捩じらせて
涙目になりながら、
それでも俺を求めるその姿に

俺のささやかな独占欲は満足する

→ちょっと先に進んでしまった二人


24.葛藤

この気持ちを伝えて、君に見捨てられるのか

それとも先輩後輩のまま
今の関係を保ったままでいるのか

予測が出来ない
データなんて当てにならない

俺自身が一番予測が出来ない。

→性別という壁が立ちふさがる


25.長期休暇

中学に入ってから
春休みも夏休みも冬休みも関係なく
いつもいつも部活で会っていたから
てっきりいつも会えるものだと思っていた

先輩達が部を引退して数日
ほんの数日の間なのに会えなくなって
それが、今までのどんな長期休暇よりも長いだなんて
こんなにも感じたことがなかった。

俺が高等部に上がるまであと1年半
あっという間に過ぎ去ってしまえばいい

→一日千秋の思いでその日を待つ


26.教室

海堂にメニューを渡すために教室へ向かう。
俺達が去年いたはずの2年の教室は
もうすっかり今の2年のものになっていて。

その中で自分ひとりだけ浮いているような感覚に襲われる

尋ねた君の姿は、部活の時とはまた違って
俺はまたノートに新たな君のデータを追加する。

→違和感に年月を感じる


27.植物

最近、先輩は近所に土地を借りて野菜を育てている。

先日一緒に連れられていったが、
結構いろいろと拘っているらしい
そういえば、最近日に焼けて
元々体格は良かったが少したくましくなったようで悔しい

けど、頼むから
その野菜で作った新作汁の実験台にするのは勘弁してくれ

→植物に妬くなんてしたくないけど


28.石

意識し始めた時
穏やかだった自分の中の水面に波紋が広がる

それはほんの小さな小石だった。

先輩の新しい一面を知るたびに
先輩が自分に関わってくるたびに
小石は何度か投げ入れられて
波紋は段々大きくなる。

【こいし】はだんだん大きくなって【こいしい】気持ちに変わった

→【小石】は【恋いし】になっていく


29.約束

「7年後のお前には負けない」

思わず口にしたその言葉に自分でも驚く
いつか、俺と海堂の道にも分岐点が訪れるだろう

それでも、7年後お前の隣に立っていたい
海堂は気づかないだろうが
その言葉は俺自身に化した誓い

俺と海堂の間の見えない小さな約束

→その約束は真摯なる願い


30.旅立ち

少し2人でいることに慣れすぎて
離れることが怖くなる

けれども、君には君の俺には俺の進む道があって
奇跡的に今一瞬だけ交わったに過ぎない

それでも
また何処かで互いの道が交わることを期待している自分が
余りにも滑稽すぎて
俺はそれを笑って誤魔化すしか出来なかった。

→別れは新たなる旅立ち

04/07/08  All title complete

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