【045 水分補給 -REHYDRATE-】(GPM/速水)
「敵、10時方向に接近」
「数は」
「ゴブリンリーダー10、キメラ10」
硝煙と煙と血が舞う場所こそ、自分が生きる場所。
この身は、世界からも、誰からも何からも必要とされず。それでも生きたいと思う肉体の意思が名を、存在を本来あるべきものから奪い得る。
この場所に立ち、今も尚幻獣の血飛沫を浴び、人外のものと呼ばれても尚、ここに立ち生きている。それが自分の意思なのか、この名の持ち主の意思なのか、それとも士魂の侍の中に眠る魂なのか既に判別することも難しく。混同したままに士魂号越しに感じる感触を更に織り交ぜて立ち上がる。
自分と言うものの存在を見失いそうになりながら、前に進む。ひとたび後ろを振り向けば、敵に隙を与えることになる。
だから振り向かない、背は己が知った『友』という存在が守るといった。既にそこに居なくても居ると信じる、ならば『友』はいつでも側に居る。
多分、ここで命を落とそうとも後ろには誰かが居る。
その誰かがこの戦いを、この意思を継ぎ戦うのだろう、終わりの無い戦いをいつか終わらせる為に。そうして自分はここにいる。
大人の代わりに、子供の代わりに、そしてまだ見ぬどこかの誰かの為に。
それをはっきりと身体で自覚したのは最近のことであった。
あの頃の自分は乾いていた。カラカラに、カラカラに。
育ったというよりも、飼育されたあの場所から逃げてきて。
たった一人で、誰にも気を許さず全てを殺し続けて生き、そしてのたれ死ぬのだと。そう信じていた。何かを欲しているにも関わらずに、何が望みなのかを知ることすら出来ず。ただ、その日を生きていくだけだった。意味など知らない、必要ない。ただ、あの場所でなければもう何処でもいいと思っていた。だからどんな手段を使ってもそこから逃げる必要があった。
自分が何を求めているのかも、必要なのかも知ることなどなく。ただその時に強烈に感じていたのは『ここで死ぬわけにはいかない』という強烈な執着のみ。その執着に従って新たな名前を身分を得、紛れ込むまでの場所を手に入れる。
『友人』と言う存在、今まで成し得なかった『日常』と言う名の日々。軍人と言う所属にあり、明日をも知れぬ命であろうともあの場所には無かったものがここには、この5121には沢山存在する。そして気がつくのだ。存在するからこそ気がつかされる。今までの自分が乾いていたことに、何も無かったことに。
それを強烈に感じさせたのは彼女の存在。傲岸不遜、自意識過剰、わが道を行くのままに進むと称されるたった一人の少女。理想論といわれながらも何よりも努力家で真面目で世間知らずで猫と可愛いものが好きなくせにそれを隠して、その物言いから周囲に敵を作りながら他人に理解されることを望まず、ただその両の眼に見据えているのは『未来』のみ。芝村でありながら、芝村とは言えない芝村。
彼女と同じ部署に配属され、訓練を始めとする日常から、共に死線を何度か潜り抜けてくるにあたり自分にとっての彼女の占める割合が大きくなっていることに気づかされるのだ。彼女が自分を選ばなくてもよい、ただ、側にあればよいと思えるようになるまでには数多の葛藤と逡巡があったが、今はこの偉大なる女主人の僕としてでも側に居ることが出来ることが奇跡的な確率であることを実感する。
彼女がここにいる。
それだけで自分は満たされるのだ。何も無かった筈の自分の心の細胞の隅々まで行き渡る様に。無尽蔵に湧き上がる泉のように。
だから闘える、彼女を、そして己を取り巻く全ての事象と。
だから闘う、彼女の前に立ちはだかるすべての困難と。
闘うのは『過去』と『現在』、守るべきは『未来』
例えここで自分が消えても自分が戦うことで生まれる何かが、『未来』と『彼女』を守ってくれればいい。そのためにも今は戦うことしか出来ぬけれど。
「厚志、行くぞ!」
「大丈夫だよ、舞。僕は君がいれば何処までだって戦える!」
「そのような口が利ければ大丈夫だな」
笑え、高らかに誇らしく。それこそが彼女に相応しい。
彼女がいる限り何処までも戦い抜いてみせる。
たとえこの身が青き光と化そうとも。
05/03/10〜05/10/03 WEB拍手掲載
|