【037 ハロウィン -HALLOWEEN-】(九龍妖魔学園紀/3−C)



「やあ、でしゅ」
「よ、肥後」

 授業も終り、そろそろ昼飯を何にするか考えていた俺、葉佩九龍の前に、隣のクラスから足音を立ててやってきたのは肥後大蔵(以下肥後)だった。いつもながらに、あの巨体がよくクラスの戸を出入りできると思うのだが、意外に体格のいい人間は体も柔らかいので大丈夫なのだろうということで納得し、用件を聞こうとしたその時。

「Trick or Treat!」

 突然大声で声を掛けてきた肥後にクラスの視線が集中する。

「え? とりはとり?」

 八千穂、だから違うって。俺は鞄の中を探して目当ての物を見つけると、差し出しながらこう答えた。

「Happy Halloween!!」
「流石、九龍くんは海外で生活していただけありましゅね」
「まあ、そういうお祭騒ぎが好きな人が身近に居たんだよ。それよりも、急だったからあまりいい奴じゃなくて悪いな」
「気にしないでくだしゃい、ボクは九龍くんから貰っただけで十分でしゅから」

 そうは言うものの、俺が肥後にやったのはこの間男子量からくすねたガムと女子寮からゲットしたキャラメルだけだったのだ。本当はちゃんとハロウィン用のお菓子とか準備しておこうと思ったのだが、そういうお祭騒ぎが好きなあの人を思い出すのとここ最近の忙しさからすっかり忘れていた。肥後は礼を言って、再び器用に教室から出て行った。あの調子だと、絶対他のメンバーの所にも行っている可能性は高い。あれでいて肥後はあの体格と可愛さで女子に結構可愛がられているのだから。そういう俺もあのふくよかな体に後ろから抱きつきたい欲求はあるのだが。ああ、話ずれた。これから南瓜でも買いに行くか遺跡でゲットして、今夜は南瓜パイでも焼こうと思う。

「九ちゃん、とりととりって何?」
「それを言うなら“Trick or Treat!”だろ」
「あ、皆守くん」「コウ」

 いつもの如く、重役出勤に近い状況でまだそれでも気だるげにやってくる。多分寝起きであろうその状態にもきっちり突っ込みを入れてくるその態度には感服ものだが。

「ああ、明日はハロウィンだからか」
「うん。明日は日曜日で授業は休みだからね」
「あ、ハロウィンのことか」

 八千穂も話に加わってくる。俺はかいつまんで、八千穂に説明するとようやく状況が納得出来たらしい。

「そっか、キリスト教のお盆前みたいなもんなんだね」
「まあ、正確に言えばもうちょっと違うけどね」
「そういえば、TVでよく見るかぼちゃとかっていうのはこれだったんだ」

 まあ、殆どキリスト教も仏教もごちゃ混ぜな日本人にとっては南瓜とオバケの日というのが一番正しいのだろうか。肥後は子供のころに教会に通っていたから知っていただけあったのだろうが。
 俺の場合は、殆ど海外で育ったし、俺の周囲の連中や、育ててくれた人達はそういう行事もきっちりやっていた。特に俺の育ての父親に当たる人はそういう行事がとても大好きで羽目を外しすぎて怒られること色々あったからなあ。

「じゃあ、九ちゃん。“Trick or Treat!”」
「Happy Halloween!!」

 八千穂にもキャラメルを渡す。俺も八千穂からポテチを貰った。八千穂が俺の方を見て、それから関係なさそうにだるそうにしている皆守を見て、それから俺に耳打ちをした。その提案が楽しそうだったので、俺はジェスチャーでOKサインを出すと二人で一気に皆守の前に立つ。

「コウ!」「皆守くん!」
「ん?」
「Trick or Treat!」

 やれやれ、という気分丸出しだよ、コウ。俺たちは結構しつこいからな、何かくれるまで絶対悪戯し続けるからくれるなら今のうちだぞ。

「やれやれ、これ貰ってとっととあっちに行け」
「うそ、本当にくれた!」
「やってみるもんだね」

 と、喜びもつかの間。俺らの手に載せられたのはやっぱりというかカレーパン(しかも購買の売れ残り品)だった。




04/10/31〜04/11/18 WEB拍手掲載

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