【036 食うか食われるか -DEAD OR ALIVE- 】(式神の城 ニーギ&ロジャー)
「やあ」
「あら」
それは何処かの世界の何処かの小さな町。
白きキャスケット帽をかぶった、少し髪の伸びた少女の前に現れたのは、金髪を後ろで括り黒服を身に纏った男。
「こんなところで会うなんて、奇遇というべきか」
「残念ね、他の人ならともかくあたしとあんたの出会いに奇遇なんてあって?」
「Oh、失礼」
離れた距離を保ちつつ、互いに笑顔を浮かべながら声色は穏やかなまま会話は続く。
それとは裏腹にその場に流れるのは、何よりも張り詰めた糸のよう感覚。
「それよりも、花婿には会えたのかい?」
「ええ、何よりもあっま〜いハネムーンを過ごしたわ」
【あっま〜い】と言う部分を何よりも強調させながら少女は一歩、距離を縮める。
「そりゃあ、何よりだ」
時々、語尾に似非外国人が操る怪しい日本語のイントネーションを織り交ぜながら金髪の男は更に一歩距離を縮める。
それ以上の距離を互いに踏み出すことなど無い。これが二人に有効な最低限の距離だということは互いにわかっている。これ以上近寄るならば・・・。
「そのハネムーンを過ごした花嫁さんがこんなところに居ていいのかな?」
「生憎ね、ダーリンは寛大なの」
「ほう。それはそれは」
「貴方こそ、大事なお友達を放っておいていいのかしら?」
「放っているわけじゃないさ、信じているのさ」
「それは貴方の台詞かしら『セプテントリオン』」
その少女の一言を皮切りに、二人が一瞬にして飛び跳ねる。
少女・ニーギのシャーペンが烈火の如く勢いを増せば、男・ロジャーの日本刀がそれを悉く跳ね返し、ロジャーの手裏剣が投げつけられればニーギは擦れ擦れにそれを避ける。
それは互いに間一髪が全てであり、一瞬でも注意を逸らせば大きなダメージとなる。
「あの、黒髪の可愛い子はどうしたのかしら?」
「ちょっとバカンス中でね。君こそあの大猫は何処へ?」
「可愛いお嫁さんを探しにいったわ」
会話の内容とは裏腹に一瞬が命取りとなる戦いを繰り広げる。
「そういえば、今日は君の誕生日だと言うではないか。真っ赤な薔薇の花束でもプレゼントしようかい?君の胸に鮮血のような薔薇を」
「あら。知っていてくれたのね、うれしいわぁ。そういえば貴方もじゃなかったかしら?じゃあ、貴方に甘い毒入りのキスでもしてあげましょうか?」
「花婿に悪いので気持ちだけで十分さ」
「遠慮など結構だわ。以前にも言ったはずよ、愛人ぐらいが適当だってね」
「それはお褒めに預かりまして」
「別の形で会っていたら恋人ぐらいにはなっていたかしら?」
「きっと何処で出会っても敵同士さ」
ニーギのシャーペンもロジャーの手裏剣も底を突き始めている。
互いに実力は伯仲。そこまでくれば、最後に取る手段は共に一つ。
「それもそうね」
ニーギとロジャーが共に声高らかに唄う。
「「 精霊(リューン)よ!! 」」
ニーギの足が、ロジャーの手が。
青く、白く光を放つ。
それぞれのオーマのそれぞれの絶技動作に入る。
互いの周りにそれぞれ下賜された精霊(リューン)が巡り始める。
青と、白の光が交わる。
光が薄まったと同時に、二人の姿が互いの視界に入る。
無事とは言いがたい姿だが、それでも二人は同じ場所に立っていた。
「なかなかやるじゃない」
「そちらこそ」
「けど、今回はこの辺だな」
「ええ、野暮用が入ったみたいね」
「続きはそれを片付けてからだ」
「さっさと片付けましょう」
ニーギとロジャーは視線を一点に向ける。
そして跳躍。
「では、ごきげんよう」
「ええ、二度と会わないといいわね」
04/08/08〜05/03/10 WEB拍手掲載
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