【026 ぺろり  -LICK- 】(幻想水滸伝3/坊&ヒューゴ)



 午後の日差しもうららかな午後。
 破壊者との戦いが拮抗状況にある今としては迂闊に動くことが出来ない。そうシーザーに諭され。ヒューゴは少し不本意ながらこのビュッケヒュッテ城にての休日を余儀なくされる。最初はこの事態に休んでなどいられないと憤ったものの、シーザーの弁に有無を言わせず納得させられると休日を取ることとなったのであった。
 いきなり休みを貰ってもどう過ごせばいいのかなど思いもつかない。外は抜けるような蒼天、雲など影一つ見えないその景観に部屋で寝ているのも勿体無い。第一、そんなことなどしていたものなら、軍曹に槍を持って追いかけられるのが簡単に予想される。
 それにしても、特にこれがやりたい、あれがやりたいということも無いので暇潰しと見回りもかねて城内を回ることを思いつくとヒューゴは勢いよく自室のドアを開けたのであった。


「おっ!!」

 手前に向かってくるドアを間一髪のところで避けると、ヒューゴが飛び出そうとしている。元気が有り余っている、若いっていいよなあと少々爺むさいことを思いながらエイはその背に声を掛ける。

「何かあったのか?」
「今から城内の見回りに行くんです!」
「もし良かったら、エイさんもどうですか?」





 結局、エイがその申し出を断る理由も無く、ヒューゴと二人城内を見回りと言う名目で散歩することになった。ビュッテヒュッケ城内でもエイは普通に客人の一人として認知されるようになり、そこにこの炎の運び手の頭目でもあるヒューゴが一緒に歩いているのだから、通る人、すれ違う人ごとに声を掛けてくる。ヒューゴは丁寧に一人一人接していく。
 ヒューゴは元々将来のカラヤクランの族長として、本人の知らぬ間にルシアや周辺の大人たちからそのように教育されていたし、元からヒューゴは素直に接するような少年だったのだろうからそれは自然な行動なのだろう。真なる炎の紋章を手に入れた彼がいつまでその素直さを持ち続けることが出来るのだろうかと、その純真さを危惧するも今のヒューゴにはそれは余計な世話なのだろうと思いたい。

「エイさん?」

 ふと、声を掛けられて視線を前方に戻す。それから声のする方に振り向けば、そこにはヒューゴの視線があった。そして何かを呟くように口を開く。その声は小さくて聞き取りにくい。

「え?」
「やっぱり、俺が無理に誘ったから・・・」

 どうやら、考え事をしている間に何か言っていたのだろう。昔から考え事を始めると人の話を聞かなくなってしまうのですね、とグレミオにいつも言われていたのだが、今回もどうやらその癖が出てしまったらしい。多分、ヒューゴから見れば上の空だったらしくいらぬ気を使わせてしまったらしい。そうではない、そうではないとエイが何度も言ってようやくヒューゴは先ほどまでの笑顔を取り戻した。
 そうして歩いていると、ちょうど、視界にエイミのレストランが入った。

「お腹すいただろ?何か奢ってやるよ」
「え?・・・でも」
「さっき心配かけた詫びだ」

 ヒューゴが是非を答える前にエイはレストランのテーブルの一つの椅子を引いて腰掛ける。そこまでされては断ることなどできず、ヒューゴはエイの向かい側に座った。

「ヒューゴ君。それにエイさんも、いらっしゃいませ」

 メイミがメニューを手に現れる。それを二人に手渡すとヒューゴは早速開いてみる。

「あ、エイさん。先日は珍しい魚をありがとう。あれで新メニューを考えてみようと思うんだ」
「そっか、持って行った甲斐があったかな」
「ええ」
「ところで、今日のお勧めは何?」
「今日はチーズのリゾットと、パエリアね。魚介類がふんだんに手に入ったから」
「じゃあ、俺はパエリアとデザートにチェリーパイを。ヒューゴは?」

 メニューを見て迷っていたヒューゴは声を掛けられてあわてて顔を上げる。そして一瞬迷った顔をしながら、

「じゃあ、俺もぱえりあ・・にクリームソーダ!」
「パエリア二つに、クリームソーダとチェリーパイね。待ってて、腕を振るうから」




 目の前に広げられた、魚介類たっぷりのパエリアと、甘い甘いデザートに舌鼓を大音量で打ち鳴らしながら、腹を満たす。
 しばらくは動きたくないと、のんびりと椅子に座って入ればその傍をジョー軍曹がパーシヴァルが通りがかった。

「あれ?パーシヴァルさん?」
「こんにちは。ヒューゴ殿、エイ殿」

 聞けば、そろそろ昼食を取りに来たらしい。ヒューゴが誘ったのでパーシヴァルもも同じ席に着く。

「もう食べられたのですか?」
「うん、もう入らないぐらいお腹一杯だよ〜」
「エイミ殿の料理は絶品ですからね」

 何気ない雑談に場が和む。
 そのとき、エイの脳裏に一つの考えが浮かび上がった。

「ヒューゴ」
「え?」

 突然エイに声を掛けられれば、熱を持った何かに触れられる感触の後に、冷たさが走る。その光景を見るパーシヴァルの表情を見て、エイに舐められたとヒューゴが気づくには数秒の時間差が生じた。

「頬にクリームがついてた」
「あ、ありがとうございます」

 恥ずかしいな、と顔を赤くさせるヒューゴと、その光景を見たパーシヴァルの冷静を装おうというその表情が面白くて、つい、エイはくすりと笑みをうかべる。

(ヒ、ヒューゴ殿の頬にはクリームなんてついていなかった筈だが・・・何のつもりなのだ!)と静かに怒りを燃やすパーシヴァル。
 以前からパーシヴァルの話がヒューゴから良く出てくるので、ちょっとからかってみようかと思ったのだ。確かにパーシヴァルは良い男だが、ヒューゴに対しては大人気ないことも多い。
 エイがこんな悪戯を思いついたのは、やはり娘を恋人に取られる父親のような気分なのだろうかと考えると、自分はやっぱりヒューゴが可愛くて仕方が無いのだと自覚するしかないのであった。



04/07/25 WEB拍手掲載

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