【015 フルーティー -FRUITY-】(ガンパレード・オーケストラ/速舞)
「芝村……あ、舞さん、荷物が届いているのですけど……」 荷物だと? 芝村と呼ばれた少女は一瞬首を傾げる。声をかけてくれた神海に礼を言って荷物を受け取りにいく。神海の言葉の歯切れの悪さが若干気になったものの、それは敢えて思考の外から外すことにした。
「まーいーさーん!!」 聞き覚えのある活気のある声。あれは斉藤か。その他にも沢山の人間が集まっている。荷物のほうが気になるが、呼ばれれば行かぬわけにもいかない。舞は方向を急転換させると、斉藤の方へ向かっていった。 「何の用だ」 見ればそこには大きなダンボールがいくつも積まれている。あまりの量に一瞬口が塞がらなくなる舞。奴だ、奴以外にこんな真似をするはずがないと思えば、舞の脳裏にうれしさと恥ずかしさが一度にやってくる。そして配達してきた人間が、舞のほうに向かってやってくる。 −舞へ 舞、元気? この間送ってもらった写真を見て作りました。気に入ってもらえると嬉しいな。あと、リンゴをいっぱいもらったので舞に食べてもらいたくて。 大好きな舞へ 厚志− 毎日送られてくるが、今日も変わりないこっぱずかしい内容の厚志からの手紙に、舞は顔を真っ赤にさせながら。それでもきちんと4つにたたんでスカートのポケットに入れるともう一度荷物の方へ向かう。 「ああ、芝村さん」 善行がこの騒ぎの中、舞に声をかける。隣には従兄弟である英吏の姿も見えた。 「彼の仕業、ですね」 言われなくとも、判っている。舞は群集の真ん中に立つと、声を上げた。すぅ、と息を吸う。 「皆のもの、青森よりリンゴが届いた。これより全員に配給する。順番に並べ!」 それから集団の中に居た、金城・荒木・神海らを見つけ声をかける。 「すまぬが、こちらを部隊の皆に。それでも配分が余るのでこちらは我らで村の人員へ配りに行く。それでいいな、善行、従兄弟殿」 誰も舞の意見を却下しない。それもそうだ。届いたリンゴはおおよそ見積もって300キロ。ダンボール1箱に最低40個(15キロ)入ったとして20箱。800個のリンゴを全員で食べきろうとすることが間違っている。人間、リンゴだけで生きていける訳ではないのだから。部隊のほうも、女生徒の采配で適切な量が適切に配給される中には量を争うばか者どももいたが、その程度なら上手くやってくれるはずである。 「はやく彼に返事を書いてください。そうでないと無線で問い合わせがきますから」 と、半ば諦め顔で言われた。舞も同様に、ため息をつく。以前、手紙の返事を数日遅らせただけで軍の無線をハッキングした経歴がある。そのときの理由は『返事が来ないから怪我したかと思って、心配したんだよ、舞〜』である。あの時は恥ずかしさで死ぬとはこういうことなのだと身をもって実感した。 ああ、またあのアップルパイを食べたいものだ。厚志と二人で。返事を書きながら、そのことも付け加える。多分、その辺りも向こうも考えているに違いない。予想以上の贈り物の礼に、いつもよりも若干長めに返事を書くことにした。 ならば再会する日も遠くない。
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