【014 バレンタイン -ST. VALENTATINE’S DAY-】(九龍妖魔學園紀/オールキャラ)
だいすきなひとに、たいせつなおもいをつたえるひ。
最近、周囲の女子らが騒がしい。
そろそろ卒業まで一ヶ月を切った今、殆ど学校に出てくることなど少なくなった今となっては、この喧騒も久方ぶりだと思えば久方ぶりなのだが。今日も自主登校という名目で進学組以外は殆ど学校に来ることも少なくなった。俺は、と言えば今日は雛川に呼ばれてきていたのだが。それと、理由はもう一つ。
昨日の夕方届いた一通のメール。
皆守クンへ、明日大事な話があるからお昼に生徒会室に集合だよ!
眠いからってサボりは駄目だからね! やっちーより
八千穂の奴から色々くだらないメールが時々くるのは慣れっこになってしまったが、問題は呼び出す場所にあった。よりにもよって生徒会室だというのが問題だ。確かに最近双樹と連絡を取り合っているらしいが、一体何の何の用だというのだろうか。場所が場所だけに無下にするわけにもいかず、俺は、今こうして生徒会室に足を向けることになっていたのである。
一応、今の時点でなら生徒会も大丈夫だとは思うが、八千穂が関わるならまた何かトラブルでも起こったのだろうと思うと面倒くさいことになりそうで嫌な予感がする。一体何の用なんだと俺はドアを思いっきり横に引いた。
「あら、皆守。ちゃんと来たのね」
「皆守クン、来たですの〜」
「おう、甲太郎。遅かったな」
既に部屋の中には見知った顔ぶれが並んでいる。《生徒会》役員を始めとして、《執行委員》の連中に何故か黒塚やら夕薙、七瀬まで一緒にいる。この顔ぶれでの共通点はただ一つしかない。俺が入ってきたところを皆で一斉に視線を向けるものだから、俺はとりあえず入り口に一番近い壁にもたれた。
「お前も来たのか…」
「阿門、『お前も』ってことはこの集まりの主催はお前じゃないのか」
俺の問いに阿門は少しだけ苦々しそうにしながら、そのまま沈黙を通した。その顔つきからやはりこの集まりには何か意味があるのだろう。しかしこの顔ぶれで一体何をするつもりなのか双樹に問いただそうと口を少しだけ開こうとした瞬間だった。
「みんな、お待たせー」
「八千穂さん、待ってましたよ」
一番最後に入ってきたのは八千穂だった。息を切らして何やら大量の紙袋を持ってやってきたのである。どうやら、この集まりの主催は八千穂だということが皆から聞いて判明したことだった。
「あ、ちゃんと皆来てくれたんだ」
「八千穂、これってどういうことだ?」
俺は性急に説明を求めた。この顔ぶれのなかで意味の分からぬままにいるのは真っ平御免だからな。
「あ、言ってなかったっけ?」
「言ってなかったっけ? じゃねーんだよ。お前は何やろうとしてるんだ!」
八千穂はごめんと謝りつつ、今回の召集の理由を説明した。
「あのね、2月14日はバレンタインデーでしょ。それで九ちゃんにバレンタインデーに何か贈ろうと思って…。でも、何処に贈ればいいか分からないし、それを月魅に相談したら月魅も贈りたいっていうから、じゃあ、九ちゃんのバディになった皆の分も一緒に送ろうよってことになって今日は集まってもらったの」
九ちゃんというのは、12月までこの學園に在学していた《転校生》でかつロゼッタ協会の《宝探し屋》である【葉佩九龍】という男のことである。3ヶ月ほどの付き合いだったが、奴の存在は俺たちそれぞれに大きな影響をもたらしたのであった。今は次の任務だということで、この學園を離れている。
八千穂の理由は分かった。事前にどうやら皆には知らしめてあったらしいが、俺にだけ忘れていたらしい。全く煩わしいことには巻き込まれたくないんだよ。
「まあ、分かった。………けどなあ、何で大和や阿門まで居るんだよ」
「そ、それは…」
「落ち着け、甲太郎」
大和の説明によれば、それを思いついたのはいいが、結局何処にどうやれば九ちゃんに届くか分からない。それとなく皆に聞いてみたところ、何故か黒塚が亀急便のお兄さんと知り合いになったということで住所を知っているらしいとのことだった。
亀急便と言えば、ロゼッタ協会御用達の武器を販売しており、どんなところでも瞬時に配達できるというその名とは裏腹な迅速な宅急便である。何故黒塚と知り合いになったのかは聞けば長くなりそうだと言うことで割愛しておこう。
それならば、九ちゃんに送ることも可能だということで皆今日はそれぞれの品物を持って来たのであった。大和らが交じっているのは、八千穂がアメリカやら外国では男女関係なく好きな人にカードや物を贈る日であり、チョコレートを送るのは日本の習慣だけだということだった為に、だったら男子も交ぜて皆で送った方が九ちゃんも喜ぶだろうということだったのだ。
「というかよくお前もこんな話に乗ることにしたよな」
わいわいと騒ぎ出す周囲に付いていけなくて、何気なく隣になっていた阿門に声をかけた。今までの阿門からすれば、このような催しなど反対し生徒会室を貸すことなど在り得なかったのだから。
「いや…実は先日葉佩からメールが届いてな…」
「はあ?」
「『双樹と俺以外からチョコもらったらぶん殴るからね(はあと)』(←ここ四倍角 コウの真似)」だ」
「お前も大変な奴に好かれたもんだな」
「同情は不要だ」
男二人がため息をつきながらしみじみと話をしている間にも女子連中と男子連中は楽しそうに箱詰めをしている。
「皆は何を送るんですか?」
という質問が出て、それぞれがそれぞれの品物を語る。
「リカは得意のフルーツチョコケーキと手製のアクセサリーですの」
「私は、本を」
「私は…温室で取れた花を押し花にして贈るわ」
「私は葉佩の為に香水を調合したわ。無臭だけれども秘密の効果を込めたのよ」
「奈々子はエプロンですよ。葉佩君料理得意でしたから」
「僕は秘蔵の石さ、魔よけも兼ねてね」
「拙者は米だ。何処にいっても日本人なら必須だろう」
「僕は、羽ペンを」
「九チャンノタメ、カルトウシュネ。コレデ『ネコニコバン』デス」
「世界のグルメガイドブックでしゅ。何処に行っても美味しいものは大事でしゅ」
「あら、ダーリンの為にこの茂美ちゃん特製ブロマイドよ。何処に居たって寂しくないようにね」
「僕はお守りを入れましたよ」
「あ、あの…僕はお兄ちゃんにマフラーを渡すんです…この間編みあがったので…」
「俺は別に何もないですけどね…あのセンパイ怪我ばっかりだから救急セットでも入れてやりますよ」
「九龍さんに私が若い頃使っていた品々を少々」
「あいつには世界の歓楽街の情報をながしとこうかのう…ええのお、巨乳は」
「先生は手作りのお菓子と国語のプリントを。だって葉佩君日本語だけ壊滅的だったのですもの。先生、心配で…」
「心配はないとは思うがな。一応護符を数枚」
全員品物が被らなくて幸いしたというか何とやら。それに更に八千穂が持ってきた色紙にそれぞれがそれぞれの思いを込めてメッセージを書いていく。無理矢理皆守と阿門まで書かされて、その品物は無事亀急便のお兄さんに手渡された。
皆、お前のことをこんなに思ってるんだから卒業式ぐらいは顔見せしろよと思いつつそれを手に取ったときの九ちゃんの様子が手に取るように見えて仕方が無かった。え、俺と阿門は何を贈ったかって。それは…まあ九ちゃんから聞いてくれ。
―中国・上海―
「The load arrived! Kowloon!!(荷物が届いたぞ、九龍!)」
「Thank you! It puts here.(ありがと、そこ置いといて)」
「It is said that a sender is from Shinjuku in Japan.(送り主は日本の新宿からだって)」
新たなる指示を受けて、葉佩は今中国に向っていた。これから仕事に入る為に準備の為にある学生寮に引越しをしていたのであった。しかし、彼の元に届いた一つの荷物の宛先に九龍が運んできてくれた同じ寮生からひったくるようにして箱を抱えると礼を言って部屋に戻った。
送り主の名は阿門帝等。そして箱を開ければ皆の気持ちの込められた品物とメッセージに、新宿で別れた人々の顔を一人一人思い出しながら顔が綻ぶ。ふと、奥にタッパに厳重に封をされた品物を見つけて中を開ける。
―俺手製のカレーだ。フリージングすれば一ヶ月以上は持つ。なくなったら新宿に戻って来い 皆守―
「うわ、コウのカレーだ」
あんな形で別れて、それでも心配してカレーを送ってきてくれる友の姿を思い出し、目尻に熱いものが浮かんだ。
そして、箱の一番下には一通の封書が残されている。皆の色紙もプレゼントも取り出した後に残る白い封書。葉佩はそれをゆっくりと開けた。一枚のメモに記された電話番号のみ。しかし、見覚えのある字に葉佩はそれが何処の電話番号か直感的に分かった。直ぐに両の公衆電話に向かいその番号をプッシュする。コールを待つのも待ちきれない程に耳を近づけて電話の向こうの相手が出るのを待っていた。
05/02/14〜05/03/10 WEB拍手掲載
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