【012 お行儀悪い -RUDE- 】(転生學園/伊波&若林)
「伊波さん、お疲れ様です」 若林も丁度終わった所だと、そう言いながら、手にしていたお盆と飲み物を差し出した。どうやら、先程職員室のコンロを借りてお茶を入れていたらしい。天照館では生徒会中心となる行事も多く、夜遅くなることもある為に特別権限としてこう言ったことが出来るらしい。伊波が生徒会に入る前から、若林は那須乃の付き人として生徒会に入っていたので時々こうやって皆にお茶を入れることがあったのだと以前聞いたことがあった。 伽月は今日は詩月の調子が良くないから先に戻っていて、琴ちゃんはもう既に疲れたのか机に突っ伏して眠っている。那須乃も宝蔵院先輩も紫上嬢も対外的な用事があるとのことで席を外していた。 「マコりん、那須乃さんと一緒でなくて良かったのか?」 だから今日はこうしてここで手伝っているのだと告げる若林。琴ちゃんは最初は手伝ってくれていたものの、それでもやはり単純なこの作業は疲れるらしく先程うとうととし始めたと思ったら、寝てしまっていたので起こさないでそのままにしておく。 ふと、差し出されたお茶の横に小さな菓子が上がっているのが見えた。
それは小花の散りばめられた和紙にくるまれた菓子で、伊波はそれを開けてかぶりついた。中にはひんやりとした生クリームが入っているが、しつこくない。さっぱりとしたヨーグルトのような風味のクリームで外側は求肥でくるんでいる。 「今、拭くものを・・・」 若林が立ち上がるその前に、伊波が若林の手を掴み指についたクリームを舌で舐め取った。指先に伝わる舌の感触と、触れた後のひやりとした感覚に気がつくと同時に若林が手を引っ込める。 「い・・・伊波さん!?」 そういうか言わぬ間に伊波がもう一度自分の指についたクリームを舐める。 「やっぱり、そっちにしておけばよかった」 眉一つ動かすわけでもなく、ただお気に入りが食べられなかったので残念そうな伊波とは対照的に、顔を真っ赤にして、動揺を隠せない若林は可愛そうなぐらいに混乱しているのは明らかだ。
「じゃあ、俺がマコりんを欲しいって言ったらくれる?」
更に大きく笑う伊波に、若林は不可思議な顔をしたままで。その声に琴音も目覚めたのか、意味も分からず伊波につられて笑い出し。若林は更に不可思議に小首を傾げたのであった。
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