【011 縁日  -STREET FAIR-】(テニプリ/柳乾海)


「ほう、今日は縁日か」

 柳さんと今日の夕飯の買出しに出かけた時に、偶然通りがかった神社の前ではのぼりが立ち、屋台の準備が繰り広げられていた。
縁日など、何年ぶりだろう。中学の頃までは両親や葉末と共に行った覚えはあるがそれ以降は覚えが無い。

「薫、今夜行ってみようか」
「え…?」

 隣の方から声がする。
 そこには、少しだけ楽しそうな柳さんの姿があった。もしかしたら俺の気持ちを見透かされてしまったかのようで子供だと思われたのだろうかと思うと少し恥ずかしい。柳さんはそういうのに興味が無いのではないかと考えていた俺にとって、その発言は嬉しくもあり驚きでもあった。

「けど…」
「こういう時の為に予算は残してある、問題ない」

 俺の内心は全て柳さんにはお見通しのようである。3人で暮らすようになって、家計は柳さんが全てを握っている。親と今まで同居していた為に金銭感覚の薄い俺や、欲しい物を見つけると後先考えない乾先輩ではいろいろと問題が生じるらしく、会計士の父親を持つ柳さんが必然的に家計を預かるようになっていた。おかげで今の所毎月赤字にはなっていない。
 俺は柳さんの言葉に頷くと、もう一度だけ神社の方に視線を戻してそれから柳さんの後を着いて戻った。

 それから柳さんは3人分の浴衣を箪笥から出してくる。この浴衣は以前俺と柳さんが縫ったものだ。柳さんが縫っているのを見た俺が、自分も縫ってみたいと言い出し柳さんは快く縫い方を教えてくれた。元々、昔から簡単な裁縫は出来るように母さんが教えてくれていたし解れた服などは簡単なものなら自分で繕える。柳さんにまでは及ばないが、自分でも納得のいく仕上がりとなった。
 着付けは流石に1人で出来ないので柳さんに手伝ってもらう。普通なら肌襦袢も必要だが、今回は素肌にそのまま着せて貰った。腰紐を巻き、帯を巻く。柳さんの手つきは着慣れているのか鮮やかでつい見とれてしまう。

「これでよし」
「流石ですね」
「慣れれば簡単だよ、今度薫にも教えてやろう」

 柳さんは、いつでも親切で優しい。俺が返答を返そうとしたその時、向こう側から声が響いた。

「れんじー、俺のも頼む」
「ああ、今行く」

 そう答えて柳さんが向こうに行った。乾先輩も器用そうに見えてこういう事には不器用だ。間もなく、俺と同じように浴衣に着替えた乾先輩と柳さんが現れ俺達3人は縁日へと出かけたのであった。



 久しぶりの縁日に一番はしゃいでいたのは乾先輩で、屋台を見て回ってはあれも食べたい、これも食べたいと子供のように騒ぎ、それに半ば呆れながらも柳さんと俺はついていく。
 りんご飴、焼きそば、、わたあめ、お好み焼きにおでんにチョコバナナ。最近では、色々な種類の食べ物が出回っており、つい子供の頃に戻ってしまったようになる。ふと、乾先輩が何処かの店に向かっていくと俺と柳さんを呼んだ。

「これをやろう」

 そう言って入っていったのは『らくがきせんべい』と書かれた店だった。薄焼きのえびせんべいに飴を溶かしたもので絵を描いて、その上に色とりどりのザラメを乗せるものだ。

「ほう、面白そうだな」

 柳さんも興味深そうに見ており、早速筆につけた飴で何かを書いていく。俺もせんべいを前に何を書こうか悩んだあと書き始めた。書いたせんべいを店の人に渡し、俺は青いザラメを、柳さんは緑のザラメを、乾先輩は色々な色が混ざったザラメを付けてもらった。

 その後、互いに何を書いたか見せ合うことになり俺は『猫』を柳さんは『花』を描いていた。乾先輩は『さだはる・れんじ・かおる』と書いており柳さんに「子供か」と突っ込まれていた。

04/07/15〜04/09/14 WEB拍手掲載

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