【010 甘党 -SWEETS JUNKIE-】(OZ/オールキャラ)
こうして笑いあって。
時には騒いで、羽目を外して馬鹿騒ぎ、空騒ぎ。
それでも、そこに流れる空気は柔らかく。
エテリアの流れのように、優しかった。
ぽちゃり。
「ん、このアップルパイ美味しい!」
「そうですか? 良かったあ」
第一声を上げたのはジュジュ。それに答えるのはまだ愛くるしいとしかいえない、あどけない微笑みを、安堵の後に向けるドロシー。『神』との戦いから数ヶ月。フィールとドロシーは住んでいた村へと戻った。アルミラとレオンも一緒に住まないかと誘ったのだが流石に、『神』に操られていたとはいえフィールたちの村を襲った張本人である二人は気持ちだけを受け取っておくと言われ、村から少し外れた森に小さな小屋を建てて住むことになった。そこならば、村にも近いしすぐ遊びにこられるだろ? と言われればそれ以上は二人も引き止めることも出来ずに了承するしかなかったのである。OZであったジュジュ・ガルム・ヴィティスもそれぞれ散り散りとなったものの、時にはこうしてフィールのところを訪れるようになった。
「それ、お兄ちゃんが焼いたんですよ」
そう言われてすぐ手に持っていたパイと顔を赤らめるフィールの顔を交互に見てジュジュが驚きを交えた声を出した。
「え、フィールが!?」
「え……いや、中のリンゴはドロシーが準備したし、俺は、ただ生地を作って包んだだけなんだけど」
実際、半分以上は妹のドロシーの指示ものとであったし、殆ど焼くときにも注意していたのは彼女の方だ。必要以上に偉ぶらないのが、この少年の長所でもある。
「シナモンの香りが良く効いて、焦げすぎずいい焼き加減だ」
謙遜しているフィールの隣から一言、声が入る。
「ああ、それにこのお茶も美味い」
更に別口からも声がかかった。最初に声を掛けたのは、アルミラ。そしてそれに付け加えるように声をかけたのはヴィティスである。普段は二人とも手厳しそうな印象を受けるのだが、フィールに関してはこの二人も何処か採点が甘いのよね、とジュジュがいつか言っていたことを思い出す。
「え……ありがとう。二人とも」
普段から世辞など言わないような二人が褒めてくれたので、フィールは何故か頬が紅潮する。
「甘ぇもんもいいけどよ、もっと俺様はこってりしたもんがいいなあ」
ふわぁ〜と欠伸でもするかのように会話に割り込んでくるのは、レオン。そんなレオンを横目で見ながら、ガルムが口を挟む。
「ご馳走になっている身で贅沢を言うか、馬鹿者」
「うっせえな、犬っころ」
謹厳実直を絵に描いたようなガルムと、大雑把も極まれりとしかいえないレオンとの間では水と油といおうか、口論というか子供の喧嘩に近いレベルのような代物が直ぐに始まる。フィールだけは何とかとめようとするが、周囲のメンバーは最早いつものことと割り切って高みの見物を決めている。
「レオン、ガルム……なんでいつもこうなんだ」
「あのようなもの放って置けばいい、それよりもワシの分は残っておるか?」
困り果てるフィールを横目に、何故かエテリアが無くなってもそのままの形をとっているトトは、自分の分のアップルパイを要求する。それでもフィールはどうしようか迷っているが、トトはドロシーがキッチンに向かったのを見た段階で何かを確信していたらしい。
ぽちゃり。
「いい加減にしなさい! 喧嘩を止めないとこのサイトでは言えないような酷いことになるわよ!!」
その一言でレオンとガルムの動きがぴたりと止まった。何処かのコメディのようだと他の皆は思ったが、敢えてそれを口には出さずに。
「すまん、ドロシー」
「ドロシー殿、申し訳ない」
二人が土下座で平謝りするのを見て、ドロシーはにこりと笑う。彼女に微笑まれれば、全てが許されたかのようになり、二人も安堵の息を吐いた。
「分かってくれればいいの。それにレオンおにいちゃんの為に、ちゃんとミートパイも焼いておいたから食べてくれる?」
「お、おう」
「良かった」
二人ともテーブルに着いたのを確認して、ドロシーはレオンの前に1ホールのミートパイを置くと、それから一気に平らげ始めた。まあ、本人が満足しているのだから、いいんだな。ということでその場は収束する。
久しぶりに会うというのに、それでも毎日が楽しい、と思えるのだ。まさかあの時はこうして皆で笑い合える日が来るだなんて思いもしなかったのだから。何気ないささやかな日常ではあるけれど、こんな日がずっと続いてほしいとフィールを始め、皆が思う。永遠などはないけれども、それでも一日でも長く続いてほしい、そう思うのだ。
ぽちゃり。
砂糖を入れた紅茶をティースプーンでかき混ぜる。
「お……アルミラ!! 一体あんた何個砂糖入れれば気が済むのよ!!」
ジュジュが突然立ち上がりアルミラを指差した。食事中は行儀良くしてくれ、と少しだけ胃が痛みそうなヴィティス。
「何って……3個だが。それがどうしたのだ?」
「今はね。でもお代わりする前にも紅茶に砂糖たっぷり入れてたじゃない!!」
「甘いものは脳の働きをよくする」
更にもう1個砂糖を入れようとするアルミラ。ジュジュは耐え切れなくなって声を更に張り上げた。
「何で、アルミラってそんなに甘党なのよ!!」
「そんなことか」
ジュジュが怒っている理由が分からないフィールが首を軽く傾げる。
「女には、色々理由があるんじゃ、そこをわかってやらんとな」
「おにいちゃんは、そいうところまだ鈍いから」
そんなフィールを横目に妹ドロシーと飼い猫トトは、本人に聞こえないように小声で会話を交わしていたのであった。ここにレオンとガルムが余計な一言を発して、怒り狂ったジュジュに鉄拳を食らうのは、また後の話。
−Much ado about nothing− 全てが空騒ぎ。
05/10/03〜06/04/30 WEB拍手掲載
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