【006 いいにおい -NICE SMELL-】(ガンパレード・オーケストラ/石田&谷口)
「何?」 谷口が何か言いたそうにしているので、石田が声をかける。分かりやすい、誤魔化しの聞かないその表情はよく言えば、素直。悪く言えば、素直すぎる。どちらにしても嘘の嫌いなその人物が側にいることを石田は許している。そしてその表情から何を察したのか、石田が谷口に視線を向ける。そして、それからああ、とお決まりの動作で手を叩くといそいそと先程貰った包みを開けた。そういえばくれた人間はこれはクッキーだと言っていた。先程もらった時は焼きたてだからなのかまだほんの少しぬくもりがあったが、今ではもう冷めている。それでも、久方ぶりに見る甘いものは、石田の心を引きつけるには十分だった。そして、一枚を掴むと谷口の方に差し出した。 「はい」 石田が手に持ったクッキーと石田の顔を交互に見ながら、どうしようか迷っている谷口がそこにいた。 「早く受け取れ、手が疲れる」 そう言われれば、反射的にとでも言おうか谷口がそれを手に取る。石田はそれでいい、とでもいう表情をしている。 「遠慮しなくてもいい、食べたかったんだろ?」 それから、石田に見られるまま谷口はそのクッキーを口にした。甘い香りとは裏腹に砂糖が入っているとはいえ甘さは控えめで谷口でも食べることが出来る。 「どう? 谷口」 そうか、と石田が谷口の返答を聞くと自分もクッキーを食べた。 「毒味、ですか」 谷口の言葉に、石田が振り向いた。それは睨みつけるように。 「谷口、私は誰?」 それから、不敵に笑ってみせる。その表情の一瞬の変化を谷口は見逃すことは無かった。その不敵さは一体何処からくるのだろうか? そして聞くものには傲慢としか聞こえないようなその言葉は何故ここまで谷口自身を引きつけるのだろうかと、その笑顔を見ながら考える。 「だから、私は大丈夫だ。谷口」 何が大丈夫なのか、どうにも分からないのだがこの人物が「大丈夫」だと言ったなら本当に大丈夫だと思える。理由は分からないが、そう思うのだった。 「じゃあ、谷口。もう一枚どうだ?」 そしてその表情はさらに一変し、自信に満ちた指揮官の表情からクラスメイトの女子へと変貌する。 「宜しいので?」 「相変わらず、堅苦しい言い方よね、お互い」と笑う石田に、谷口はようやくぎこちなく笑みを返したのであった。そして、それに石田はふわりと、笑い返し谷口はどういう反応を返せばいいのか混乱したのであった。
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