【004 飴 -CANDY- 】(九龍妖魔學園紀/主&阿門)
「うん、皆守・・・もうカレーは勘弁・・・」 意味不明の寝言を呟きながら、穏やかな寝息を立てて眠っているその不届き者の顔に阿門は見覚えがあった。
突然の大声と同時に《転校生》は声を震わせている。それが夢だと言うことは直ぐに分かった。その声が、何よりも必死で、切なさを秘めていて聞いているこちらの方がいたたまれない。阿門も思わず《転校生》に手を差し伸べようとしてその顔を覗き込んだ。 《転校生》の目元に滲む水滴が、一筋になり流れ落ちる。 それが阿門の視界に入った瞬間、起こそうとしたその手を一瞬だけ止めた。阿門はその手を引っ込めた代わりに《転校生》の耳の近くに顔を寄せると、一息吸い込む。
その瞬間、《転校生》の瞳が瞬時にして開かれる。流石に音には敏感に近いものがあると思いながら《転校生》の顔を見て立ち上がる。 「あ・・・」 阿門の言葉を訂正して、ソファーの上で上半身を起こす。立ったまま見下ろしている筈の《転校生》の姿は、その視線が自分と同じ目線にあるかのような錯覚を感じた。挑むようなその視線に、阿門が生徒会長であることを知ってか知らずか、それを差し引いたとしてもこの《転校生》は面白い存在だと知らしめるかのように。 「ならば、葉佩九龍。一つ聞こう、何故お前はここに居る? 《転校生》が予想外と言うべき反応を示す。どうやらそれすらも知らなかったらしい。この予定外の《転校生》曰く、昼寝できる場所を探していたら丁度良い具合にソファーがあったので、邪魔をすることにしたのであったらしい。《生徒会》役員なら授業をさぼるような真似はしないだろうと考えていたらしい。 「アンタ、《生徒会》の役員なのか?」 少し考えて、《転校生》は何か思い立ったかのように阿門に声を掛けたのだ。 「ところで、俺寝言で何か言ってなかったか?」 知っている名前が《転校生》の口から出てきたが、阿門がそれを表に出すことはしない。ここで見たと言うことは互いにとってプラスにはならないことを、先ほどの《転校生》の表情から察せられたからでもある。 「とりあえず、迷惑料」 《転校生》から何か貰うつもりは無いとつき返そうとしたものの、既に《転校生》の姿は生徒会室には存在していなかった。
「《葉佩 九龍》か。やれるものならやってみるがよい」 さて、今回の《転校生》は何処まで持つのだろうか。久方ぶりに楽しめる存在に出会ったかのような高揚感が阿門を支配しそうになる。それは、口の中に広がるミルクの味と相まって、阿門を愉快にさせた。
04/11/18〜05/02/12 WEB拍手掲載 |