【Birds of a feather flock together.】
俺は目の前に座る海堂君を眺めている。こちらに時々視線を寄こしながら何を言えばいいのか戸惑っているその姿が、初々しくて良い。 「あの・・・柳さん」 こちらが良いと言っているのに、それでも年上に対する気遣いを忘れないその姿はますます初々しくて良い。惜しむらくは目の前の彼が同性ということではなく、既に俺の幼馴染の魔の手に落ちてしまっていることである。
電話口の声は普段よりも声のトーンが1オクターブ高い。 「海堂が・・・海堂が・・・」 電話口の乾は何かに幸せ満載です、という状況で背中を押したのはこちらだが聞かされると実際に腹だたしい。 「で、用件はなんなのだ」 そのとぼけた口調すら怒りを引き出すのは今なら簡単なことで、柳はふと思いついた予想を述べることとした。 「まさか・・・無事海堂君と付き合うことになりました、てへ☆の報告だけの為に電話したということではないだろうな。そうだったのなら・・・」 「てへ☆」の部分のみ異様に高かった柳の声色が低いトーンを更に下げていく。 「はは・・・まさか・・・そ、それは・・・」 乾が言葉を発するよりも先に切られた電話。乾はしばし呆然とその後のことを予想して携帯を持つ手がぶるぶると震え続けたという。
「あの・・・今日俺を呼んだのは何なんですか?」 その瞬間、海堂は危うく湯のみをひっくり返しそうになる。それ以上に頬をいや耳たぶまで真っ赤にさせて俯く姿に柳はくすりと笑う。 「あの・・・昨日俺は乾先輩に・・・俺の気持ちは話しましたけど・・・付き合うとかそういう関係じゃ・・・」 海堂にそぐわないような小声だったが、その内容はまあ柳にとっては大体予想の範囲内ではあった。 「そうか、・・・ああそういえば、先日俺も海堂君に交際を申し込んだしな」 海堂が思わず顔を上げる。 「その・・・柳さんの気持ちは有難いっスけど。俺・・・その柳さんとは・・・」 その柳の返答を聞いて、海堂は本人は気がつかないのだろうかほっとした表情を示していた。少し残念とは柳も思ったが、もともとはそういうつもりなのだから諦めるも何も無かった。それよりも、まだ付き合う訳でもないのに乾の浮かれっぷりに柳はツメが甘いと心の中で反芻しつつ目の前の海堂をまじまじと視線を寄こした。 「海堂君」 思いがけない質問に海堂も柳の方にまっすぐに視線を向けた。それから少し黙り込んで視線をずらして、ゆっくりと海堂は言葉をつむぐ。言葉にしてしまえば、それが自分の意思となってしまうことを知っているからこそ、海堂は己の心と向かい合いながら柳に語り始めた。 「嫌いな訳じゃないっス・・・ただ、まだ俺が乾先輩と付き合うとかそういうことが、あんまり自覚できていないっていうか、よく分からないというか・・・」 意識はしているものの、自覚してしまうのが怖い・・・要約すればそういうことだと悟ると柳は己の中で理解し、纏める。 「焦らなくてもいいと思うぞ」 そういうと海堂は何処か安堵したかのように、深く息をつく。 (貞治、確かにお前は海堂君に好かれているかもしれないが、海堂君のこういう場面は見られないだろうな) それは、柳が恋愛対象と見られていないからこそ見られるのだが、それでもこういう表情を見せてくれる相手がいるのなら、同性でも異性でも誰かと付き合うことは悪くないとも思える。
「今日はいろいろありがとうございました」 そう言い掛けて、柳が海堂の肩に手をかけて体を引き寄せると海堂の頬に軽く唇を寄せる。海堂の耳元にちゅっと音が聞こえた。 「言い忘れたが、本日は俺の誕生日でもある。祝い代わりに貰っておこう」 「蓮二!!!!!」 海堂が声をかける前に向こうから飛び込んできたのは乾だった。突然の出来事に海堂はフリーズする。乾が柳に怒鳴ろうとしたが、柳は固まっている海堂に手を振ると猛烈にダッシュしたのであった。 「海堂!」 ようやく我に返った海堂が乾の方を見る。 「おいで」 有無を言わせずに海堂の左腕を掴んでどんどん歩き始める。乾は何も言わず、海堂もただ乾に引っ張られるだけであった。掴まれている腕が痛くて、でも離す素振りも見せないのが海堂の抵抗も解きただついていくしかなかった。
「先輩・・・」 乾が何も言わない。そして海堂の方を見ようともしない。 「海堂」 淡々とした口調。 「せんぱい・・・」 その瞬間、乾の唇が海堂の頬に触れた。それは先ほど柳が触れた場所と同じだった。 「俺はこういう気持ちで海堂が好きだと言ったんだ。それが嫌ならまだ間に合うよ」 内容とは裏腹の冷徹な声色。 「勝手な事いうんじゃねえ、俺が決めたんだ。けど、先輩はそれじゃ駄目なのかよ」 そういって、海堂に体を預けてくる乾の体が震えているのに気がついて海堂は少し微笑んだ。それは乾にも気がつかれないような小さな微笑だった。 だから、今はこんな先輩と自分の関係を許してやろうか。海堂はそう考えて震えている乾の背をあやすように撫でてやった。 「俺も・・・アンタと同じ気持ちですよ」 本当に囁くようだったから聞こえたかなんて分からない。え、と驚く乾の顔を見て今はまだこの関係のままがいいと、それでいいと海堂は思った。 答えを出すのは、もう少し先の話。
そうならば2人の距離はもっと縮まると信じていたいのだから。
≪あとがき≫ 柳誕生日絡みで乾海話【There is nothing permanent except change. 】の後日談となります。柳は乾海において一番美味しいポジションにあるのではないかと思っているのですが・・・。柳の口調とか未だに掴みきっていない所が多い上、キャラが違うと突っ込みもありますがそこは勘弁してください…ええ。 美月(たらすじ)拝 |