その手を離さないで
「言っただろ、君の為だったら全てを捨てるって。君にはそれだけの価値がある」
その少年はそう言うと、少女の方を見て微笑んだ。
生と死の境目のその状況の中で、それでもその少年は微笑んだ。
一点の曇りも無い澄んだ瞳で、此処ではない何処か遠くを見つめながら。
少女の目には迷いは無かった。
今を捨て、此処では無い何処かへ向かおうとしていた。
此処ではない何処かを見ていた少年は、此処では無い何処かへ向かおうとしている少女の手を取って此処ではない何処かへ向かい始めた。
「厚志・・・」
「行こう、舞」
「ああ」
それがはじまり
史上5人目の絢爛舞踏章受賞者が現れた、それも二人。
5月某日、速水厚志と芝村舞は絢爛舞踏勲章を授与された。
二人は、それから一週間の間TV・雑誌・新聞を始めとする各種メディアや祭典に出席することとなり、それは目が回る程の忙しさであった。時間が怒涛のように過ぎていく。
「舞、大丈夫?」
「私は大丈夫だ。それより、こんな茶番に付き合わされているぐらいなら訓練でもしたいものだ」
「舞らしいね」
そう言って速水は笑った。
スケジュール自体はそんなに過酷なものでは無いのだが、普段は表に出ない人間がいろいろと表に出るのだから身体的な疲労より、精神的な疲労が大きかった。周囲の者は表向きは笑顔を装っているが、その視線には恐怖がありありと浮かんでいる。
それも仕方が無い、彼らにとって最早自分たちは『化け物』と同じ存在であり、機嫌を損ねれば殺される事もあると思っているのだろう。最早、自分たちは幻獣と同じような存在となっているに違いない。
以前の速水なら耐えられなかったであろう視線。
しかし、今の速水は違う。その視線など気にする必要はなかった。
芝村となったこの身に、世間の評価など必要ない。
速水の側には舞がいる。
舞の為に全てを捨てた。
そして彼女をこの手に抱きとめた、それだけで速水には十分だった。
世界の運命も何もかも関係ない。
舞がこの世界を好きだから、自分もこの世界を好きになった。
速水にとっての世界の中心は舞なのだから。
「舞」
「なんだ?」
「僕は舞のことが好きだよ」
舞の顔が紅潮したまま、わなないていた。いつになっても彼女はそういうことに慣れないようで、そこもまたいとおしかった。そして、舞の左手を握り締めた。
−もう、この手は二度と離さない−
【後書】
本当に突発的に書きたくなった速舞話です。
意味わからないですね…本当に。
取りあえず、ガンパレ2周年おめでとう!という事で。
これからもガンパレ話は書きたいと思います。
02/09/29 tarasuji |