still −後日談− 「門の継承戦争とトラン共和国にについての本はあるか?」 相変わらず気配を感じさせないこの城の司書はその注文を聞くと目当ての場所に足を向かわせた。 数分待つと寡黙な司書は数冊の本を抱えて目の前に現れた。 「・・・・・・」 差し出した本を受け取る。それを受け取って自室に戻ろうとした瞬間、何時の間にか後ろに居たはずの司書が目の前に現れる。表には出さなかったものの内心動揺が走った。 「何だ」 貸出簿とペンを受け取るとサインをする。 「期日を忘れると・・・・・・呪いますよ」 背筋の凍るような声で約束をさせられ、ゲドは自室に戻った。 ゲドの以外な行動に距離をとりつつ小隊のメンバーが様子を伺っている。しかし当の本人は全く気にしていない様子でページを捲っていく。
トラン共和国建立(初代大統領レパント)』
「・・・・・・そういう事か」 昨夜の出来事が脳裏に浮かぶ。
右手の紋章 赤月帝国六将軍が一人テオ・マクドールの長子
一つ一つの断続的なシーンが繋がっていくのが手に取るように分かった。 (俺は二人目の『英雄』に出会ったという訳か) 真の紋章繋がりだけでなく、自分がリヒトと彼を重ね合わせたのはあの少年もまた『英雄』と呼ばれる人間だったからだと。 ガタッと立ち上がるゲド。 「た、大将?」 突然の行動はいつもの事で今更気にする程の事では無いのだが、先程の予想外の行動があらぬ疑惑を持たせる。 「エース」 突然名を呼ばれエースがビクッと体を振るわせる。 「この本を図書室に返しておいてくれ」 それを告げるとゲドは自室を後にした。 「『トラン共和国建立史』に『帝国の愛〜その光と影』…なんだこりゃ?」 めいめいが勝手な事を口にする。クィーンは昨日のあの少年についてだとなんとなく感づいていたがそれを皆の前で口にすることは無かった。 「トランの英雄がこんな所で釣りとはな」 その声に気がついた少年がくるりと振り返る。 「バレたか」 気がつけ、とヒントを残しておきながらこの反応は何なのだろうと疑問を持ちつつ隣に座る。 「ああ」 釣竿を渡され生餌を分けてもらうとそれを湖に放り込む。浮きが湖に浮かびゆらゆらと揺れる。 (まあ・・・いいか) 彼が何者であろうとも、今は必要ない。ただ、彼は確かにゲドと同じ真なる紋章を持っているということ。そして何処か似たような悲しみを背負っていることを知っている。それだけで十分だった。 ちなみに、その晩のおかずは魚料理だったらしい。 これ・・・後日談か?
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